第6話 冒険者ギルド
登録料として銀貨五枚を取られた。
無料じゃなかったのかと俺は愕然とし、やっぱりやめますと言いかけたが、この目の前の女性はてきぱきと事務手続きを進めていき、その隙を与えてはくれなかった。
どうやら後払いも可能であるとのことだったが、借金をするみたいで嫌だったので、泣く泣く革袋から支払うことになった。
一枚のカードを差し出され、それに一滴血を垂らすと、とたんにそれが光り出す。
冒険者ランク:E
ネーム:ユウヤ ウノハラ
ギルド貢献度:0
これがカードに浮かび上がった文字だ。
「すいません。ギルド貢献度って何ですか?」
「ああ、それね。それは依頼をこなす度に付与される点数のようなものよ。それが高くなると上の冒険者ランクが上がるわ。ちなみに、ギルド貢献度は何も依頼を受けないでいると少しずつ減っていって、0のまま三十日経つとそのカードは消滅するの。再発行にはまた銀貨五枚かかるわ」
そういう大事なことは登録前に説明してほしい。
「まあ、大丈夫よ。そんなことを心配するより紛失しないように気を付けてね。同じように銀貨五枚かかるから」
くそっ、まさかそこで利益出してるわけじゃないよな?
「もし、このカード無くしてしまった場合は、冒険者ランクも最初からになるんですか?」
「いいえ、その心配はいらないわ。そのカードに垂らした血の情報は、ギルド本部にある記録装置の中に保存されたし、そのカードを通じてあなたの情報は随時更新されていくから。この国随一の魔具師ボニファウスが造った特殊魔法装置なのよ」
仕組みはわからないが凄い装置だ。
そして、俺の個人情報が、さっきの血から、どのくらい盗まれたのか心配になった。
手続きが終わり、席を外すと勧められるままに俺は壁の依頼書を見に行くことにした。
人混みはだいぶ少なくなり、掲示板の前の人だかりはだいぶ解消していた。
壁には、いつから貼られていたかわからない大量の依頼書が所狭しと張られていた。
一番多いのは魔物の討伐依頼だった。
魔王の脅威に喘いでいるというからそうした事情もあるのだろう。
配達系の依頼は、ほとんどが都市間の移動を伴うもので、この街の外の地理が全く分からないので却下だ。
あとは採集系の依頼だが素人にその目的となるものの見極めができるのか不安だった。
やばい。
冒険者になったけど、俺ができそうな仕事が無い。
このままでは銀貨五枚、ぼったくられただけになってしまう。
「おい、少年。冒険者になりたてか?」
背後の声に振り向くとそこには黒い革の眼帯をつけたガタイの良いおじさんが立っていた。
スキンヘッドで無精髭。
年齢は俺の父よりは上だろうか。
鼻の穴から白くなった鼻毛が見える。
「あ、はい。たった今……」
受付のカウンターの方を指差し、男の問いに答える。
「おう、見てたぜ。さっき受付でメリルと話してたのは登録の手続き中だったわけか」
どうやらあの受付の女性はメリルというらしい。
年齢は俺のひと回り上くらいで、大人の女の人という感じだった。
今はもう別の冒険者の対応に追われて忙しそうだった。
「はい、無事に登録できたんですが、どんな依頼を受ければいいかわからなくて」
「なるほどな。この時間帯は忙しいから、メリルの奴もそこまで気が回らなかったんだろう。まあ、悪い娘じゃないから、許してやってくれよな」
「あの……、あなたは……」
「ああ、すまんすまん。俺はここでギルドマスターやってるグラッドだ。なんかすぐに死にそうな奴がいるなと思って思わず声をかけちまった。あまりにも暇だったからな」
「ギルドマスター……」
つまりここで一番偉い人というわけか。
顔は怖いけど、あまりえらそうには見えないな。
服装もラフだし、ちょっと酒臭い。
「ああ、だがグラッドでいいぞ。お前は?」
「ユウヤです」
「そうか、ユウヤか。変わった名前だが響きは悪くないな。よし、ユウヤ、お前、仕事を探しているんだよな」
「はい。最初なんで、できれば簡単なのがいいんですが……」
「ふん、まずお前のステータス見せてみろ。それを見て俺が選んでやる。暇だしな」
俺は言われるがままに、城で教わった通りに「ステータスオープン」と唱えた。
グラッドによれば、心で念じれば、いちいち発声しなくてもいいらしい。
名前:
職業:セーブポインター
レベル:2
HP16/16
MP6/6
能力:ちから2、たいりょく2、すばやさ2、まりょく2、きようさ2、うんのよさ2
スキル:セーブポイント
≪効果≫「ぼうけんのしょ」を使用することができる。使用時は「ぼうけんのしょ」を使うという明確な意思を持つことで効果を発揮することができる。
なんだ?
いつの間にかレベルがひとつ上がって、能力値が一律1ずつ増えている。
相変わらず弱そうなステータスだが、見ようによって、元の数値の二倍強くなってるぞ。
「かあ~、お前、なんて貧弱なんだ。こんなステータスでよく冒険者になろうと考えついたものだぜ。スキルは何も授かってないみたいだし、お前、冒険者が何なのかわかってるのか?」
やはり冒険者を取り仕切るギルドマスターの目から見ても俺のステータスは酷いようだ。
そして、相変わらず俺以外の人間にはスキル欄が空欄に見えるらしい。
「一応説明は受けました。でもほかに生活していく手段もわからなかったし、それで……」
「まあ、このご時世だし、しかたねえか。お前もおそらく魔物たちに土地を追われて逃げてきた口だろう。見捨てるのも不憫だし、縁があっておれのギルドの一員になったわけだから少し面倒見てやるよ。暇だしな」
グラッドがそう言って壁から剝がしたのは一枚の依頼書だった。
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