第5話 冒険者って何だ?
結局、そのまま寝落ちしてしまい、気が付くともう朝だった。
よほど頭が疲れていたのか、まったく夢を見なかった。
身支度をして、二階建ての宿の一階にある食堂に降りていくと、たくさんの泊り客が朝食を取っていた。
客の多くは、その見た目から旅人や行商人の類であるらしかった。
会話の内容は自分たちの仕事に関することが多く、打ち合わせも兼ねている者がほとんどだった。
塩気の無いスープと歯が折れそうなくらい固いパン。
メインディッシュは正体不明の肉の塩漬けを薄く切って、焼いたものだった。
それらと無言で格闘し、周囲の会話に耳を傾ける。
残りの銀貨は二十九枚。
今すぐどうこうなるというわけではないが、これはいずれ底をつく。
そうなれば、売るものももう無いし、完全に行き詰ってしまう。
そうなったら、≪ぼうけんのしょ≫をロードしなくてはならず、また最初から同じようなことを繰り返さなければならない。
先の展開がわかっていることをもう一度繰り返すのは、それはそれで億劫なものなのだ。
とくに、あの貴族と価格交渉するのは疲れるからもう嫌だった。
「さて、そろそろギルドに仕事を探しに行くか」
近くの席に座っていた自分と同じくらいの少年が立ち上がった。
革鎧にマント、腰に剣を下げている。
相方らしいもう一人の少年も頷き、後に続く。
仕事?
どうやらギルドという場所に行けば、なんらかの仕事があるらしい。
年齢も同じくらいだし、俺にもできるだろうか。
俺は慌てて、パンの残りをスープに突っ込み、それをじゃぶじゃぶに浸すと口に放り込んでその少年たちの後をつけてみることにした。
荷物という荷物は何もないし、所持金は腰の革袋の中だ。
宿の主人に「またお世話になるかもしれません」と声をかけて、建物を出る。
少年たちが入っていったのは、「冒険者ギルド」と大きく書かれた看板のある建物だった。
冒険者?
冒険者って何だ?
ギルドというからには、農協とかその手の組合のようなものなのだろうか。
俺は急いで≪ぼうけんのしょ≫の部屋に行き、妖精の爺に≪二番≫にセーブするように頼み、そして現世に戻った。
恐る恐る扉を開け中に入ると、そこはとても混雑していた。
先ほどの少年たちは他の人たちに混じって、壁に貼られたたくさんの伝票のようなものを眺め、何か話し合っているようだ。
飲食できそうなスペースも併設されており、何人かが食事を取っていた。
「冒険者ギルドにようこそ。何の御用ですか?」
入り口できょろきょろしていると、正面カウンター向こうの女性に声をかけられた。
カウンターには三人立っていて右端の女性だった。
その女性に、この施設が何なのか尋ねると色々なことを教えてくれた。
冒険者というのは、この施設が斡旋する仕事を請け負って得た報酬で生計を立てている人たちのことを指すらしい。
その仕事内容は、魔物と呼ばれるモンスター退治から配達業務や薬草採集など多岐にわたり、その難易度によって報酬が大きく異なるらしい。
生活費を稼げるような仕事を求めてここにきたが馴染みのありそうな仕事がひとつもない。
「あの……変なことを聞くようで申し訳ないんですが、よその土地からこの街に来て、無一文でも生計を立てれそうな商売ってあるんでしょうか?」
俺の問いかけに、女性は目を見開いて驚いたような顔をした。
「……そ、そうね。確かにあなた、言葉は流暢だけど、見たところ、よその国の人よね。まあ、このご時世だから、大方、魔王の軍勢を逃れてやって来たんでしょうけど……」
魔王。
そう言えば悪人面の王様がそんなことを言っていた。
魔王による滅亡を避けるために勇者召喚の儀式を行ったと。
「物資が色々と不足しているし、景気も悪いから、あなたのような人が安定して食べてゆくのは難しいかもしれないわね。この国に知り合いとか、なにか
「ありません。身一つで、見知らぬこの街に来たので……」
「そうなると、本当に困ったわね。最近は治安も悪くて、異国の人だと色々と難しいと思うわよ」
「そこをなんとかお願いします。このままだといずれ野垂れ死に確定なので……」
「じゃあ……ここのギルドに所属するというのはどうかしら。あの壁の依頼書を見てもらえばわかるけど、冒険者は常に不足しているの。危険が付き物の商売だけど、あなたの頑張り次第で道が開けてゆくこともあると思うわ。経験を積んで、冒険者としての格や名声が上がれば、お金持ちになることだって夢じゃないし、仕官の声がかかったりもするわよ」
仕官か……。
あの王様みたいなところだったら、俺は嫌だな。
でも何か仕事しないと食べていけないし、この際、贅沢は言ってられない。
失格の烙印は押されたけど、俺だって異界の勇者として召喚されたわけだし、普通の人よりは強いはずなんだ。
やってやろう。
俺はもう強気でぐいぐい行くって決めたんだ。
俺以外の召還者たちが魔王を倒したら、恩赦とか慈悲的な感じで元の世界に一緒に帰してもらえる可能性もないわけではないと思うし、その日まで絶対に生き延びてやる。
「わかりました。俺、冒険者になります」
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