第5話 フツーの男子が神になる瞬間
いつものように軽口を叩き合っていたら、背後の席から「ぶふぉ!」と誰かが盛大に吹き出した。
昨日から来た編入生――『メガネ』くんだ。そういえば私の後ろの席だったな……
急に咳込んだメガネ――もとい
クラスに来た男子にしては誰にも絡まれていない……というか、絡みづらいんだろうな。だって彼、顔の半分以上が眼鏡で隠れて見えないから。
それと比べたら、二列隣の『ラブコメ要員』――葵くんの人気はヤバイ。
なんだかんだで皆男子には興味があるのだろう、「中学ではどんな感じだったの?」「彼女がいた経験は?」「前の高校どこ?」「男子って性欲ヤバイらしいけどほんと? 頭まっしろになるの?」
……おいおい。最後のは聞いちゃあ可哀想でしょう。
でも葵くんは元来真面目な性格なのか、「うーん。人によるんじゃないかな?」なんて笑顔で言葉を濁している。すごい! あいつ適応力の塊だ!
感心していると、HR直前になって絵里がつっかけた上履きをぱかぱか鳴らして帰ってきた。
「清泉……あいつはねーわ」
教室に入るや否や、吐き捨てるように鞄を机に放る。
近くにいた、絵里と比較的仲のいい智子が「どゆこと?」と問い詰める。
たしかにそれは気になるところだ。だって、昨日はあんなに「他校の男子より清泉くんのがいい!」なんて盛り上がっていたのにさ。
すると絵里は、さも苦々しげに言ったのだ。
「清泉は……Cカップ以下は抱かないってさ」
「「「うわ。クソだ」」」
クラスの半数(主にCカップ以下)が声を合わせる。
でも絵里、それって今、「自分C以下です」って明言したようなもんだよね? よかったの? ほら、葵くんも『あの子C以下なんだぁ……』みたいに戸惑ってるじゃん。
そんな葵くんに、クラスメイトたちは口々に「葵くんはそんなことないよねぇ!?」とか「女は胸が全てじゃないよねぇ!?」とか詰め寄っていてもう地獄絵図。
そうして、ソレを「皆ちがって、皆いいんじゃないかな?」で完封した葵くんはその日から神になった。
あだ名も『ラブコメ要員』から『葵くん様(一部の女子はそう呼ぶ)』にグレードアップして、清泉の株は爆下がり。
A組の女子は徒党を組んで推定Gカップの七海ちゃんを清泉に会わせまいとする始末に。
そんなカオスな状況を横目に、氷室先生は「共学化、段階的にしてよかったねぇ」「一気にやってたらきっともっとヤバかったよ」と内心でにんまりしていたのだった。
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