第6話 乱入
B組に編入してきた
とはいえ見た目はかなり良い。肩まで伸びた銀髪に天然ものの琥珀の瞳。校内で常に女子を侍らせている姿は編入からおよそ一か月は続いたように思う。
けれど、特定の誰かと付き合うことはせずに、いわゆるヤリ捨てする事実が明るみに出てからは校内でもひとりでいる姿が目立つようになった。
要は、女子たちが夢から醒めたのだ。ただそれだけの話でぼっちになってしまうのだから、編入男子は可哀想。なにせクラスに男子はひとりきり、友達なんて望んでもできやしないのだから。まぁ、清泉に限って言えば全てが自業自得だが。
ちなみに我がクラスの『生き神』こと葵くんはC組の『ガリベン』やD組の『チンピラ』、A組の『メガネ』ともそこそこ仲良くやっているそうで。あいつのコミュ力どうなってんだ? たまに信じられなくなる。
それをせっちゃんに言うと、「天然タラシの巳散に言われたくねーわw」だってさ。
部活のない日。いつものように空き教室で制服のボタンを外してくるせっちゃんに、なんとなく尋ねてみる。
「せっちゃんはさぁ、『ガリベン』や『チンピラ』と話したことある? あと、『メガネ』くん」
「え~、なに? 遂に巳散も男子に興味がわいてきたとか?」
「いや、そうじゃないけど単純にどんな人なのかなって。私、いまだに『メガネ』くん以外とはあんまり話したことないし。それもプリント渡すときに『はい』と『どうも』だけだし」
「そんなの、巳散が無いならあたしにあるわけないじゃんw こう見えて人見知りなんだよ、あたし」
「ここまで校内で大胆に服脱がしておいて、何が『人見知り』なの?」
「巳散はいーの。親友だから。距離感バグってても許してくれるからいーの!」
そう言って、せっちゃんははだけてブラジャーが露出したままの私をぎゅうっと人形みたいに抱き締めた。あったかい。柔らかい。なんだか、その熱に『愛されてる』っていう感覚がする……
今まで誤解してたけど、せっちゃんて、本当に私のことが好きなのかな……?
単にエッチなことがしたいだけだと思ってたけど……
「ねぇ、せっちゃん」
「なに~? ふふっ。巳散は今日も柔らかいねぇ……」
「せっちゃんて、私のことどこまで本気で好きなの?」
その問いに、胸元にうずめていた顔がきょとんと上げられる。
「全部だよ、全部」
「……全部?」
「うん。巳散のことぜ~んぶ欲しい! と思うくらいに好きなの。家に連れ帰って毎日イチャイチャして暮らしたい」
「え、っと……お兄ちゃんみたいに、『解剖したい』とか言い出さない? 『心臓も内蔵も好き』とか言わない? 『棚に飾りたい』とか」
「言わないよぉ! 兄貴じゃあるまいし。あたしはいたってノーマルに巳散のことを愛しているだけだよ」
「じゃあ……」
付き合っても、いいのかな……?
せっちゃんと恋人同士になっても――
私が気になっているのはその一点だったのかもしれない。
単にエッチの対象として見られるだけというのは嫌で。やっぱり中身ごと愛して欲しかったから、今までせっちゃんの誘いを断っていたのかも……
私は、思い切ってせっちゃんの蒼い
頬が熱い。心臓が痛い。どきどきする。
自分から言い出すのは、なんだか恥ずかしい……
「ねぇ、せっちゃん。今日は……シてもいいよ」
「えっ……」
驚いたように見開かれる瞳。見慣れたせっちゃんの顔がどんどん赤くなっていく。
「え。本当に……いいの?」
こくり、と頷くと、せっちゃんは今にも割れそうなガラス細工に触れるかのように、私の手を取った。
「じゃあ、ウチ……来る?」
遠慮がちに、それでも確かに頷きかけた瞬間。教室の扉ががらりと開かれた。
「チッ。これからってときに……今日は誰だよ?」
せっちゃんがお決まりの悪役ムーブで睨めつけた先にいたのは、いつものような恋愛相談に来た女子生徒ではなかった。
せっちゃんとよく似た銀髪を生暖かい風に靡かせ、ネクタイを緩めながらひとりの男子が入ってくる。
「へぇ、楽しそうなことしてんじゃん。僕も混ぜてくれよ」
「清泉……どうしてここに……」
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