第5話 留守番電話
「いやぁー!うまかった!」
あっという間に食べ終わって会計をし、
近づいてきた爺さんに挨拶をする。
「いやーお世話んなりました。
あと大将。メンマ、かっこよかったっす。」
「あぁ。たまたま聞こえたんだよ。
テレビの音は全然聞こえねーのに、
大事なことは聞こえる、都合のいい耳だわさ。
寂しくなるなぁ、史ちゃん。ありがとうね。」
「…また来るよ、お爺ちゃん」
少し照れくさくて、下を向きながら伝えた。
だから一瞬びっくりした顔をした爺さんを、俺はみていなかった。
「あぁ。ありがとうな。爺さんも元気に頑張るわ!」
ははっと笑った。
すると奥から爺さんの奥さんらしき女性が出てきた。
その女性を見たのはその日が初めてだった。
爺さんが紹介する。
「家内の、美子(よしこ)。婆さん。」
「こんにちは。いつもお話に聞いている史斗くんね」
「はい。」
「かわいらしい子がたくさんラーメンを食べにきてくれるって」
「…ありがとうございます」
「なんだ史斗、緊張してんのかあ?
きちんと挨拶しぃ!」
父親が横で笑っていた。
「たくさん来てくれてありがとうねぇ。
これからも、たまには顔出してね。」
「はい、美味しかったです。」
「ありがとうね。またね」
こうして、引っ越す前日に父親と来た最後のラーメン屋。
この日が俺の運命の日となることを俺はまだ知らなかった。
「やべっ!!!!」
歩き出して父親が叫んだ。
「なに、どうしたの」
「おかあさんから留守電!みろ!4件も来てるぞ」
「出かけること言ってなかったの。」
「わっすれてたぁー…」
恐る恐る聞く。
「”お父さん!?どこにいるの!?史斗も一緒なの??
頼み事があるのにどこにいるのよもう!!
引っ越しは明日よ?わかってるのよね?」
耳に当てなくても聞こえる母の怒った声。
1件聞いてふふっと笑った父親は、
「よーし帰るぞー!史斗。
わかってるな?」
念を押すように父が聞く。
「んもう、分かってるよ。」
俺が続ける。
「ラーメン屋に行ったことは、この先ずっと男同士の内緒!でしょ。」
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