第24話 模範生として
それから俺は無事に13歳になって貴族学院に進学した。
俺はここ数年、ずっとレオンハルトと2人っきりだった。そう……ずっと、2人だけの世界だったんだ。だから忘れていた――レオンハルトが……。
――超絶美形だということを!!!
「レオンハルト様~ここを教えていただけませんか?」
「レオンハルト様~、ご一緒してもよろしいでしょうか」
俺は自分がモブキャラ男子だということを、ここに来て思い出してしまった。
どうしてなんだ!!
俺の隣にはいつだって中島(美形)、徳田(超美形)、兄イザーク(超美形)そして、今はレオンハルト(超絶美形)が側にいるんだぁぁあああ!!
俺だって、決して悪い顔ってわけじゃない。それなりに愛嬌がある顔だと思う。いや、むしろ、いい方だ!!
……でも!!
俺は隣で無表情に女の子に対応しているレオンハルトを見て心の中で涙を流した。
俺の隣に立っている男レオンハルトは、顔は最上級、能力も高くさらには王族!!
しかもレオンハルトは、この学院に社交の一環として通っているので、どんなご令嬢も無下にはできない。
それをご令嬢の皆様もわかっているので、在学中に少しでも繋がりを持とうと必死なのだ。こんな男が隣に立っていて、俺が女の子の視界に入るはずがない!!
行く先々で囲まれるレオンハルト。
そして、それを眺める俺……。
……俺が不憫すぎる!!
今日も昼休みになるとご令嬢の皆様が、なんとかしてレオンハルトを誘おうと奮闘していると、不意にご令嬢同士がぶつかり一人が芝生に倒れた。
一部始終を見ていた俺は、すぐに倒れた令嬢に手を差し出した。
「大丈夫ですか? おケガは?」
そう言って令嬢に手を差し伸べて立たせると、令嬢が少し顔を赤らめて俺を見て微笑んだ。
「ありがとうございます……ルーク様。お優しいんですね」
助けたくらいで優しいと言われるのは大袈裟だが、女の子の嬉しそうな顔をみているとテンションが上がる。
「いえ、無事ならよかった」
そう微笑みかけた途端、後ろから手を引かれて、身体にあたたかさを感じた。俺はいつの間にか、レオンハルトの胸元に引き寄せられていた。レオンハルトは俺を引き寄せたまま、倒れた令嬢に向かって普段見せないような優し気な表情で言った。
「大丈夫だったか?」
「……は、はい!! ご心配頂きありがとうございます、レオンハルト殿下」
あ~~~~。
俺の顔を見て顔を赤らめていたご令嬢は、レオンハルトの優し気な笑顔にハートを乱舞させている。
周りのご令嬢も『素敵』『レオンハルト様、お優しい……』と俺の存在など意識からも消え去ったことだろう。
なんだよ!! まぁ、慣れてるから、いいけど。俺、女の子にスルーされるの、慣れてるからね!!
レオンハルトは、俺を令嬢から隠すように、ご令嬢たちに向かって言った。
「では、失礼する」
そしてレオンハルトは、俺の手を取り早足で歩き出した。ご令嬢たちは、ハートを飛ばしながら、レオンハルトを見ていた。
俺は溜息を付きながら、レオンハルトに尋ねた。
「レオンハルト殿下、いきなり、どうしたんですか?」
「ルーク、お前はこの国の令嬢と懇意になるつもりなのか?!」
するとレオンハルトから鋭すぎる視線を向けられたので、俺は慌てて首を振った。
「いやいや、助けただけですよ。レオンハルト殿下……あのくらいで女性の心が掴めるのなら、苦労しませんって……」
「とにかく。お前は、不用意に令嬢と関わるな。行くぞ」
俺だって少しくらい女の子と話をするぐらい許されるのではないだろうか?
レオンハルトが隣にいて、俺と話をしてくれる女の子なんて先程のようなアクシデントでもなければいないのだ。
でも俺と仲がいいと思われて、なんの関係もないご令嬢に迷惑をかけるのも避けたいので、俺は素直に頷いた。
「……はい」
こんな風に少しの出会いさえ、レオンハルトが阻止してくる。そんなわけで、俺は全くモテない。
モテる男を指を咥えてみているという暗黒の学院生活だ。
こうなったら他国の令嬢に望みをかけよう。
他国では、レオンハルトに仮面でもつけさせようか……と、本気で思ったのだった。
◆
そんなわけで13歳で学院に入った俺は、7歳からのモテる男になるための努力も虚しく、女の子に全くモテることもなく13歳、14歳、15歳と全てを学院の勉強や卒業課題に捧げた。
なんて、模範的な学生生活だろう!! 俺、最高に偉い。パーフェクトでエクセレントな学生だ。
貴族学院にはダンスパーティーや、遊戯会と言う合コンのような集まりや、公園ピクニックなど男女が親しくなるイベントが結構用意されている。
それなのに!!
勉強一筋な俺!! ……泣いてもいいかな?
超モテまくるレオンハルトと、レオンハルト目当ての大勢の令嬢と俺。令嬢に囲まれたレオンハルトを眺める役、それが俺の役目。
くつ!!
こんなの大学の時の置物合コンと全く変わんねぇじゃねぇか!!
「レオンハルト様、ぜひご昼食を」
「レオンハルト様、私もぜひ」
今日もレオンハルトは、女性に囲まれ「ああ」と「いや」の2語を使いご令嬢に対応。
どうして、その2語でモテるんだよ?!
だからと言ってレオンハルトを置いて1人で食事に行くと、その後レオンハルトが『なぜいなくなった』と、うるさいので先に行くこともできない。
「はぁ~~」
完全に置物になってレオンハルトを待っていると、向こうから女性の集団が出現した。数十人規模ということは……。
「ルーク!! ここにいたのか!!」
出た!!
令嬢の中から手を振っているあれは、次期フロード公爵イサーク。つまり俺の兄。
――と。
「ああ、やっと見つけた」
次期国王、去年王太子になったベルンハルトが姿を現した。
美形が3人。トリプル美形。美形トリオ。
うん。
現在、俺は、ご令嬢の皆さんの視界からは完全に消されていることでしょう。
ベルンハルトと兄は、女性たちに自分たちから離れるように言うと俺の側に歩いてきた。
「ふふふ、実は探していたのだルーク。側近試験合格おめでとう」
ベルンハルトが、俺の肩を抱きながら小声で言った。
「え? 発表まだですよね? どうして知っているのですか?」
確か、発表はまだだったはずだ。
ギョッとしながらベルンハルトを見ると、ベルンハルトが片目を閉じながら言った。
「ん~~王太子権限? まぁ、ルークが受かることなんて試験の前から皆わかっていたことだ。今更だろ?」
うわ~~職権乱用も甚だしいが、絶対王制のこの世界に王族の職権乱用を咎める者は、そうはいない。
「ふふふ、おめでとう。私も今朝、ベルンハルト殿下にお聞きしてね。学院に入ってからのルークはとても頑張っていたからね。ベルンハルト殿下とご褒美をあげたいと話をしていたんだ。ルーク、側近に受かったご褒美に、何かしてほしいことや、欲しいものはあるかい?」
兄が嬉しそうに俺の頭を撫でながら言った。
「ああ、本当によく頑張ったな、ルーク。私からも何か贈らせてくれ」
ベルンハルトも嬉しそうに言った。
わ~~王太子様と、公爵代理様がご褒美くれるって……俺、女の子にモテずに勉強頑張ってよかったぁ~~~。なぜか悲しみの涙がでそうだけど!!
よし、ここは素直に甘えよう。俺はもうこうなったら、とことん甘えることにした。
「では、甘えます。ヴェステンエッケ地区のことなんですけど……。お2人のおかげで、学校や住居建設も問題なく子供たちの世話をしてくれる方や、勉強を見てくれる方は見つけたのですが……。畑とか果樹園とかのために、水路を整備したいんです。水路プレゼントしてくれませんか? あと、農園の初期整備もしてほしいなぁ~~って思います」
俺のお願いを聞いたベルンハルトが突然笑い出した。
「あはは、随分と大変そうなお願いだが……。ルークのためだ。では私は水路をプレゼントしよう」
おお!! さすが、ベルンハルト!!
ダメ元で言ってみたが、即決でお願いを聞いてくれるようだった。
「ルーク、兄様は農園の初期整備をしてあげるよ。他にはいいのかい?」
兄も頼られることが、嬉しいという感じで上機嫌だ。
「十分です! 2人とも大好きです!!」
俺が笑顔でお礼を言うと、ベルンハルトが俺を抱きしめて俺の頭に頬ずりをしながら言った。
「はぁ~~、ルークは可愛いな~~」
ベルンハルトも頬にキスをしたり、頬ずりをしたり、スキンシップが激しい。やはり、兄弟だな~と思っていると、誰かがベルンハルトと俺の間を強引に引きはがした。
「兄上、頭を撫でるのは目をつぶりますけれど、抱きしめるのはやめて下さいと、いつも言っているではないですか」
やっぱりレオンハルトだった。どうやら、ご令嬢の対応が、一通り終わったらしい。
俺は後ろに立って俺の肩を掴んでいるレオンハルトに、首だけ向けて見上げながら言った。
「ベルンハルト殿下が水路を、お兄様が農園の初期整備をしてくれるって」
するとレオンハルトは眉を寄せた。
「……なぜ、突然?」
「俺、側近試験受かったんだって。そのご褒美」
「……ああ、受かったのか」
レオンハルトは相変わらず、素っ気なく言った。元々、レオンハルトが喜んでくれるとは思っていなかったので気にはしないが。
「これからもよろしくお願いします。レオンハルト殿下」
俺がレオンハルトに上目遣いで笑いかけると、レオンハルトは目をそらしたが、ベルンハルトが声を上げて笑った。
「あははは、素直じゃないな~レオンハルトは~~。ニヤけてるのが隠せてないぞ」
「え?」
ニヤけてる?!
レオンハルトが?!
俺がじっと見ようとすると、レオンハルトに後ろから抱きしめられて、顔を見れないようにされてしまった。
「兄上、イザーク。水路と農園の件は感謝します。では、私たちは午後から城に戻るので失礼します」
「え? もう? ベルンハルト殿下、お兄様、ありがとうございました~~。失礼致します」
レオンハルトに手を引かれながら、2人に頭を下げた。2人は笑いながら見送ってくれた。
ふと俺の手を引きながら、先を歩くレオンハルトを見ると、顔は見えなかったが耳は赤くなっている気がして俺は小さく笑ったのだった。
◆
城に戻るために馬車に乗った途端、レオンハルトの膝の間に乗せられて後ろから抱きしめられた。俺は溜息をつきながら、俺の肩に顔を乗せているレオンハルトの頭をヨシヨシと撫でながら言った。
「はぁ。どうせ自分より先にベルンハルト殿下が、側近試験に受かったことを知ってたのが、気に入らないんでしょ?」
「……」
レオンハルトは何も言わないが、変わりに脇腹を撫でてきた。
「ひぃや!! ちょっとレオンハルト殿下、脇腹ダメだってふっくっくく。もう俺でストレス発散するの止めて」
すると今度は、俺の耳を唇で挟んできた。
「ふへぇ!! 耳は、手で触るのいいけど、口はダメだって言ってるでしょ?!」
俺が抗議するとレオンハルトは、不機嫌そうに「手は塞がっている」と言う「じゃあ、手を離せばいいでしょう?」と返すと「それは無理だ」という。
俺は結局、機嫌を損ねたレオンハルトのストレス発散の犠牲になりながら、城に戻ったのだった。
◆
そんな日常を過ごしながら俺は16歳になり、正式にレオンハルトの側近に任命された。
16歳は……筆舌に尽くしがたいほど忙しかった。
まず社交界デビューと同時に、レオンハルトと俺の婚約が発表された。それだけではなくレオンハルトが正式に国の外交の責任者に就任した。
そして責任者に就任したと同時に、諸外国に外交の新しい責任者としてのあいさつまわりをする日々……。初めて会う人、初めての土地、初めてのことばかり。やることや、覚えることが多すぎて、16歳の時は、1日も学院に行けなかった。
夜は毎日のように、外交に出掛けた先でレオンハルトと2人で過ごした。
別々の部屋を用意されることも多いのだが、外交に関する打合せや、話し合いをするので同室の方が都合がよく、結局、毎日のように一緒の部屋で寝泊りしていた。
「ルーク!! もう、限界だ!! 抱かせろ!!」
毎日、毎日、朝早くから、夜遅くまで公務とその準備に費やす日々。レオンハルトも俺も、毎日が限界ギリギリ。
「はいはい、どうぞ、どうぞ。そろそろ寝ましょうね。おやすみなさい、レオンハルト殿下」
俺は毎晩、疲れ切って壊れかけたレオンハルトの抱き枕となった……ことは覚えている。
だが……。
正直に言うと16歳は忙しすぎて、記憶が曖昧であまり覚えていないのだった。
ちなみにベルンハルトと兄は18歳になり、貴族学院は卒業したが貴族学院の敷地内にある大学院に進学するので、私たちの卒業と同時期まで一緒に通うことが決まったのだった。
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