第16話 第二王子の唯一の側近候補
「あ、エリザ。前髪切ったんだ。可愛いね。よく似合ってるよ」
公爵家で働いている伯爵家出身の侍女のエリザの髪を褒めると、エリザが嬉しそうな顔をして笑った。
「ふふふ、ありがとうございます。ルーク様、今の、女の子は嬉しいと思います!!」
こちらに来てすぐの頃。侍女や執事をはじめ、屋敷の人間は俺とかなり距離を置いて接していたが、最近ではマリー以外にも気さくに話してをしてくれる人が増えたのだ。
「……じゃあ、仕事の邪魔してごめんね」
「いえいえ、いってらっしゃいませ、ルーク様~~~」
「いってきます!」
「ルーク様~~可愛い~~~」
俺とレオンハルトの将来のためにも、俺は女の子にモテるようになる必要がある。だが、本来の俺は、全く女の子にモテないのでとても困ってしまった。そこでモテまくっている兄に『どうすればモテるようになるのか』を相談したのだ。すると兄は困った顔をして『私は、フロード公爵家の嫡男だから、女性に声を掛けられるだけなのだよ。ルークはそのままで十分可愛いよ』と言った。その答えを聞いて落ち込んでいた俺を見て、兄は眉間にシワを寄せて随分と悩んだ後に『家で働いている侍女たちは、貴族令嬢が多いから彼女たちに相談してはどうだい?』と提案してくれた。
そこで俺は、屋敷のみんなに『どうか、俺に女の子にモテる秘訣を教えて下さい』となりふり構わず、頼み込んだのだ。すると初めは戸惑っていた侍女たちも、俺の本気を知りどんな男性がモテるのかを、みんな真剣に教えてくれるようになったのだった。
最近では、侍女たちだけではなく、公爵家で働いている執事や庭師、料理場の男性からも『女性にモテまくっている伯爵の話を聞いてきました』とか『ルーク様、私のモテる友人のテクニックを盗んできました』と情報を貰えているのだ。
城では、レオンハルトと共に勉強や剣術などを学び、家では令嬢にモテるために指導を受け、いつの間にか俺は11歳になっていた。
そして、今年の側近試験。ベルンハルトの側近候補にはもうなれないので、今年の受験者はレオンハルトの側近希望者のはずだ。
だが結局、誰もこの部屋に姿を見せなかった。
「レオンハルト殿下。今年も側近候補者は来ないのですか?」
俺はその日のやるべきことが、全て終わったお茶の時間にレオンハルトに尋ねた。
「ああ。どうやら、私とルークの学びのスピードが早くて、誰も合格しなかったそうだ」
レオンハルトは当たり前だというように答えた。
「え……合格者なし……?」
俺は全く予想していなかった答えに、目を見開いて驚いてしまった。
「ああ。兄の側近候補者は多いからな。教師数も多い。だが、私はルークと2人だけだからな。教師を増やすことはしないと、父上が判断された。だから私の側近候補になりたければ、私とルークと共に学べる人物ということになったのだが……。私たちは、すでに王立貴族学院の内容をやっているし、語学と計算に関しては、学院の卒業資格は貰える。そうなると、該当者がいなかった。父上も、いざとなったらすでにたくさんいる兄の側近候補者の中から、兄の側近になれなかった者、私の側近にすればいいとお考えなのだろう」
「……は?」
今、レオンハルトは、とんでもなく恐ろしいことを言った気がする。この際、仲間が増えないというのは、仕方ない。
だが……。
すでに王立貴族学院の内容をやっている?
しかも、すでに卒業資格が貰える科目がある??
ええ、そんなこと、聞いてないよ?!
「レオンハルト殿下、俺たちってもう、王立貴族学院の内容を勉強していたのですか?」
レオンハルトは優雅にソファーに座りお茶を飲みながら言った。
「あ、そうだ。来年には、ほとんどの科目の卒業資格が貰えるからな。それが、終わったら、卒業試験の自由課題に取り掛かることにする。私とルークは共同研究にするつもりだ。私たちの身分は、王族と公爵家だからな……かなり大掛かりなことをする必要があるな……ほら、ルーク。早く来い。茶が冷めるぞ」
レオンハルトにせかされて、俺は急いで自分の机の上を片付けてると、ソファーに座りながら尋ねた。
「あの……卒業資格が取れているのでしたら俺たちはなんのために、王立貴族学院に通うのですか?」
俺の問いかけにレオンハルトは、息を吐きながら言った。
「社交と、後は教師が少ない科目は学院で学ぶことになる」
「ああ……なるほど」
「私もルークも在学中に公務が入る。外国に行く機会も多いのだ。学院に入学してから勉強していたのでは、勉強する時間などない」
確か王立貴族学院は、13歳で入学して18歳で卒業するはずだ。日本のように学年ごとに授業を行うわけではなく、それぞれが必要な単位を取って卒業するので大学のようなシステムになっている。ただ卒業資格は早く取れても卒業は18歳になった歳と決まっている。
「確か、レオンハルト殿下は、16歳から外交を行うのですよね?」
「ああ、そうだ。だから来年から卒業課題に取り掛かり、遅くとも15歳には全ての卒業資格を取得していきたい」
「15歳に卒業資格を全て取得……あれ? そう言えば、俺って15歳で側近試験がありますよね?」
「そうだ」
「それは……確かに今、少しでもやっておいたほうがいいですね……」
そして、俺たちは日々側近試験に合格するための勉強、外交の勉強など日常の勉強をしながら卒業テーマを考えたのだった。
◆
季節が巡るのは本当に早く、卒業テーマが何も決まらないままおれたちは12歳になった。
「卒業課題のテーマ……なかなか、決まりませんねぇ~~」
今年、俺たちは取得できる単位は全て取得して、後は学院で単位を取得する科目と、卒業課題を残すのみとなった。
ちなみに今は、昼食が終わってレオンハルトとのんびりとお茶を飲みながら卒業課題について考えていたが、一向にいい案が浮かばずに、俺はソファーに沈みこんでしまった――と、いうところだ。
「問題点を明確にする必要があるな。それに王家の私と、公爵家のルークの共同課題となると下手なことはできない」
レオンハルトが鋭い目で俺を見ながら言った。
「ううぅ……プレッシャーです……はぁ、頭が煮詰まってきました」
俺が頭を抱えていると、レオンハルトがソファーから立ち上がり俺の隣に座ったかと思うと、ゴロリと俺の膝を枕にして寝転んだ。
「っわ!! びっくりするので、いきなりは止めて下さいって言ったじゃないですか!!」
レオンハルトはそんな俺の叫びを流して、俺の手を取ると自分の頭に持っていった。どうやら、頭を撫でろということらしい。レオンハルトの頭を撫でると、レオンハルトが気持ちが良さそうに目を閉じた。
レオンハルトの髪は、とても気持ちいい……。
優しく指通りのいいサラサラの髪を撫でていると俺まで癒される。
――ああ……癒される……。
レオンハルトの指通りのいい髪を撫でていると、俺まで気持ち良くなって、眠くなってきた。
眠っ……。
眠気が襲ってきて、ぼんやりとレオンハルトの頭を撫でていると、ふとレオンハルトが瞳を開けて、楽しそうに笑った。
「ふっ。癒されたようだな……」
「え? まさか、俺のため??」
レオンハルトは起き上がると、今度は俺の肩を抱いて、自分の膝に俺の頭を押し付けた。いつの間にか、今度は俺がレオンハルトに膝枕をされることになっていた。
「っわ!! もう、強引だな~~」
「交代だ。私にも撫でさせろ」
「えー。寝たらどうするんですー」
俺は弱々しい抵抗したが、そんな抵抗レオンハルトには無意味だった。
「起こしてやるから心配するな」
レオンハルトは俺の髪を撫で、耳を撫でたかと思うと、軽く引っ張ってみたり、頬を手の甲でスリスリと撫でてみたり……。
あああ~~~気持ちいい~~~~!!
なんなんだよ?!
寝る。
こんな気持ちがいいの耐えられない……寝る。
おやすみ!!
そう思っていた時――。
コンコンコンコン。
誰かがここを訪ねて来た。今は、昼食の後の休憩時間なので、教師というわけではないだろう。それに次は、マナーの授業なので貴賓室に移動する予定だ。
「確認して参ります」
ミルカがすぐにドアに向かい尋ねて来た人物と話をすると、こちらに戻って来た。
俺はミルカの少し緊張した顔を見て、異変を感じ取り、急いでレオンハルトの膝から起き上がった。
「レオンハルト殿下。王妃様からの伝言をお伝えしたいと、王妃様専属の女官の方がお見えです」
「母上からの? わかった、すぐに通せ」
「かしこまりました」
レオンハルトは立ち上がると、ソファーではなく自分の執務机に座った。俺もつられるように自分の席に座った。
6年ほどレオンハルトと一緒に勉強しているが、これまで一度もレオンハルトを訪ねて来る人はいなかったので、俺は驚いてしまったのだった。
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