第3話 岩盤浴

 隆の父親は今日も権蔵夫婦に会った。

「精が出るのう」

「いいや。温泉に浸かって、後は岩盤浴しとるだけやからのう。まあ、食事も出るんで、遠くからの泊り客も多いわ」


 隆の父親は、ニコニコして聞いている場合ではなかった。明らかに、お隣さんに異変が起きていた。それも、夫婦そろって。

 夕食時に家族に話した。

「おかしなことを言うのう。ボケてきたんかなあ」

 母親は信じられない様子だった。


 隆は、洋一と従弟の修司を誘って、権蔵夫婦の後を付けた。

 夫婦は千足谷に向かった。水車小屋で服を脱ぎ、タオルを手に、水たまりに座った。体に水をかけ、満足げに空を仰いでいる。

 隆たちは見ているだけで、体が震えてきた。


 やがて夫婦は水から出て、岩の上で甲羅干しを始めた。

「ほう、愛媛から来なさったか」

「それはそれは。どこにも悪い嫁はおるもんやなあ」

 夫婦はそれぞれ勝手なことをしゃべっている。まるで誰かと世間話でもしているかのようだった。


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