たっくん
叔父がユカに触れたのはユカが6歳の頃だった。小学生になったばかりのユカに相好を崩す叔父に、すっかり懐いていた。一緒にお風呂に入ろうと誘われて嬉しかった。母親と違って料理が上手く温かい風呂に入れてくれ、一緒に遊んだり本を読んでくれたり。泊まりに行くといつも必ず新しい、可愛いパジャマを準備してくれている。叔父をユカは心から慕っていた。
「そろそろ寝ようか」
微笑まれたところで疑うはずもなく、「うん」と元気に返事をして叔父の腕枕に落ち着いた。叔父が伸ばした左腕に頭をくっつけ目を閉じる。暫くして叔父の右手がパジャマの上を這うのも
「くすぐったいよ」
と笑っていた。叔父も笑っているように見えた。右手がパジャマの中に滑り込み、ユカの胸元や臀部や太腿の付け根を撫で回すのは少し不気味に感じたけれど、痛いわけでもなかったから
「やめてよ」
と言ったものの、一向に止める様子のない叔父にされるがまま一夜を過ごした。
翌朝はユカの大好きな卵やアスパラ、ハムなどを彩りよく配置してお花の形を模したトーストとココアと小さなサラダを用意してくれていて、普段と変わらない叔父の様子を暫し眺め、ユカは昨夜抱いた警戒心を解いてしまったのだった。
しかし母親の「仕事の都合」で預けられた数週間、ユカに対する執着は収まる気配がなかった。ユカの顔を見に来た母親に不安を打ち明けたのは堪え切れなくなっていたからだろう。
「夜寝てたらたっくんが、おっぱい触ってくるの」
お尻やおしっこをするところを触られていることは言いたくなかった。母親に嫌われるような気がして。母親はユカの意に反してとても嬉しそうに、弟に顔を近づける。
「ロリィタ・コンプレーックス!」
ヘラヘラ笑いながら。かわそうとする叔父に母親は容赦ない。
「言っちゃおうかなぁ、ママに」
叔父のこめかみが少し引き攣れたように見えた。怯む叔父に母親が見せた表情を忘れない。爛れた横顔、濁った瞳。
手の平を叔父の鼻先に突き付ける。叔父はテーブルに置いていた財布から一万円札を何枚か取り出した。
「もうちょっと弾みなよ。世話してもらったんでしょ?」
ユカを顎でしゃくる。
弟に手渡されたカネをジーンズのポケットにねじ込んで
「条件によっては他も考えてやってもいいよ。下手打つならママにチクる」
何らかの約束を取り交わし、母親はユカの手を引く。もう叔父に会わなくて済むと安心したユカを母親は、いともあっさり弟に差し出した。
「ユカちゃんはいけない子だね」
母親が出かけるのにユカを同伴するとき、綺麗な服を着せるようになったのはこの頃だ。守ってくれないとユカは知った。叔父にされるがままの時間は、冷たい洞に放り込まれたような恐怖と孤独に満ちていて心臓が破裂しそうになる。
叔父の要求は、ユカが成長を遂げるごとに汚らしいものへと変容していった。堪え切れなくなってユカは誰かの法事に
「行きたくない」
と母親に告げた。10歳の誕生日少し前。
ありったけの勇気を振り絞っての訴えを母親はあっさり受け容れた。拍子抜けしてしまうほどのあっけなさに、長く苦しんでいた事実が覆いかぶさる。
抱いてはいけないと思い込んでいた母親に対する憎悪が滾る。胸を焼き尽くす劫火が。
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