第124話 生の映画アメリカ編 その2

モハーヴェ砂漠。


ネバダ州を、武装トラックで旅する一人の中年がいた。


ちょっと待って?ナレーション君なの?


うるせーな、この時のために俺は『美声』のスキルを取っておいたんだ、大人しく聞け。


アッハイ。


……男の名はイーライ・パーカー。


元陸軍軍曹の、トラック運転手である。


イーライは、分厚い筋肉を持つ白人の中年で、オールバックの金髪とイカつい顔が特徴だ。


服装はミリタリー系のズボンと、鉄板入りの安全靴。黒いタンクトップに、モンスターの革でできた丈夫なジャケットを羽織っている……。


で、サングラス?


白人は光に弱いので、サングラスもかけている。


ってかさ、まず、一番のツッコミどころなんだけど……。


うん?


「イーライ……?」


「どうした、サラ?」


イーライの隣に座ってる女の子、何なの?


ああ……、彼女は『サラ・レイビス』だ。


世界崩壊に伴い、親を失った、イーライの家の近所の子だな。


イーライ自身に家族はいないの?


居たよ。


なるほど、『居た』のね。


サラちゃん、年齢は十四歳。イーライの娘の友人だった。


イタリアからの移民の家系で、地中海系の黒髪の少女だ。


崩壊前はロングヘアのオシャレさんだったらしいが、崩壊後は髪の手入れなんてできんから、さっぱりとショートカットにしたようだな。


ボロボロの服を着た短パンの女の子が、助手席で膝を抱えて座ってるとか……、側から見たら異常だよ。


事件性はねぇよ。ガチロリコンとかなら不愉快だから「生の映画」の題材にはしねぇ。


でも君もロリコンじゃん。


俺は関係ねぇだろうが。それに、揚羽も昌巳も一応結婚可能な年齢だし、ついでに言えば崩壊した世界じゃ法もクソもねぇ。


アッハイ。


「イーライ、私……」


「サラ……、その話はもういい」


「でも!」


「お願いだ、やめてくれ」


んー、揉めてるね。何の話?


聞いてろ。


「だってイーライ!私、何もやってないのに、ずっと貴方に守ってもらっている!こんなの、耐えられない!」


「サラは家事をやったりしてくれているだろう?俺は……」


「やめてよ!私だって知ってるんだよ?!今の時代に、女の人がどうやって生活しているかくらい!」


「頼む、やめてくれ……。俺は君にそんなことを望んでいないんだ」


「イーライ、綺麗事はやめて!もう嫌なの、役立たずの私が、何もできない私が!」


あー……?つまり、そう言うこと?


そうなるな。


サラは、缶詰一つを貰うために、複数の男達に一晩中陵辱される女性がいると、それを知っている。見てきたんだろう。


だから、ただ守られている自分が不安だと?


そうだ。サラは、命懸けでモンスターやレイダーと戦い傷だらけになり、少ない食料を分け与えてくれるイーライに感謝すると共に……。


恐怖している訳だね。


そりゃそうだ。親兄弟が全滅して、住む家も燃え、故郷も崩れ落ち……。


十四歳の少女が、まともな精神でいられる訳がないってことね。


「もう嫌、嫌なの、イーライ……。私は何なの?貴方のペットなの?」


「違う、そうじゃない。聞いてくれサラ、俺は……」


「何が違うの?!私は、私はッ……!」


まあ実際、ペットなんだよな。


そうだよねえ。あっ、シーマはこう言うの見ると怒りそうだし黙っとこ。


別に怒らないわ。


あ、そう?


嫌なら、この男の庇護下から外れて、どこへでも行ってのたれ死ねば良いでしょう?


い、いや、それはさ。


プライドも貞操も、両方を守ろうなんて、世の中を舐めているとしか思えないわね。


アッハイ……。


あー、確かシーマは、親父の残した借金を返す為に身体売ったりしてたからなあ。


えぇ……。やめてよ……、友人の辛い過去話とか、聞きたくないんだけど……。


あっほら、映画見ろ映画。急展開だぞ。


「サラ、もう今日は薬を……」


「……精神安定剤?こんなの、効いてないわよ」


「頼む。あと少し、あと少しなんだ……」


「そう言ってもう、半年も放浪してるじゃない!いつになったら、『ハリアルシティ』に着くの?!」


え"っ……?!


おやおや、どうしたアーニーさん?ハリアルシティの市長アーニーさん?


んんんもおおおー!!!何これ?!!!僕に対する嫌がらせぇ?!!!


いや別にそんなことはないぞ。今現在安定していないアメリカ人は、大抵はハリアルシティに行きたがってるってだけで。


次の「生の映画」の題材は日本にしてよ?!天海街に行きたいって言いながら死ぬ子供とか見せて!僕ばっかりこんな鬱な気持ちになるのはアンフェアだ!!!


おーおー、もちろん良いとも。次の「生の映画」の題材は、お前が選んで良いぞ?まあ俺は何とも思わんが。


畜生……、畜生……!




でさ、結局、何でこの人達はハリアルシティに来ないの?


来れないんだよ。


は?何で?ここネバダでしょ?車で二十時間くらいで……。


馬鹿が。ダンジョン化現象のことを忘れたか?


あー……。


都市そのものがダンジョン化してるんだ。ネバダなんて人口密集地、半径100km以上は呑まれてるぞ。


つまり、ハリアルシティに行くには、ダンジョン化した土地を避けながら遠回りしなきゃならない、と。


その上で、襲いくるモンスターやレイダーをぶち殺しつつ、飲食物や雑貨を集めながらな。


……無理じゃん?


ああ、無理だぞ。因みに、ハリアルシティに行くための道路も、一番楽なルートでも最低レベル40はないと突破できん。


無理じゃぁ〜ん!!!


ははは、だからこそ「生の映画」なんだろうが。


……んー、まあ、それを言えば悲劇の方が収まりが良いかも?イーライが死んでサラちゃんが跡を継ぐとか面白くない?


ラストオブアス2は絶対に許さない。


それは僕も許してないよ。


む……、あれは俺も許せないな。


私も許していないわ。


……んん、まあ、何だ?


他人の不幸は蜜の味、ってことだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る