第123話 生の映画アメリカ編 その1

「いや、意味が分かんないね。パンは炭水化物じゃん、焼きそばも炭水化物じゃん。なんで炭水化物に炭水化物を乗せてんの?日本人、どんだけ炭水化物好きなんだい?」


「いやぁ、カルフォルニアロールとかいうバカの塊みたいなもんを食ってるアメ公に言われたかねぇよ」


「あれはのカルフォルニアのバカが悪いよ。僕はテキサス民なんで」


「む……、日本の菓子パンは……、ケーキと何が違うんだ?」


「パンは酒の肴にならないわね……」


俺達は、俺の洋館の映画室に再び集まり、日本のパンをつまみながら映画を見ている。


だが、今回は色々と違うぞ?


見るのは、「生の映画」だ。




俺達が全世界に配布した、魔法式スマートフォン。


実はこれには、魔法的なマーキングがされている。


もちろん、ちゃんと防犯目的のものなんだが……。


マーキングである以上、誰もが悪用しようと思えばできてしまうのだ。


魔法も技術。スマートフォンなどでも、位置情報を取得すれば悪用も活用もできるだろう?今回は悪用させてもらおうって話だ。


そう、こんな風に……。




ここどこ?


西部アメリカ。位置は……、モハーヴェ砂漠辺りだ。


へえ、バグダッド・カフェ?


いや、フォールアウト・ニューベガスだな。


あはは!最高!電子化したカジノ支配者でもいるのかい?


いやぁ、それなら最高に面白いんだがな。ラスベガスはもう、ただの廃墟だよ。


なんだ、つまらないな。


お前の国だぞ?


知らないって。アメリカは、州ごとに別の国みたいなもんさ。


そうかい。


む……?誰かいるな?


ああ、こいつが今回の「生の映画」だ。


全く、悪趣味ね。暇だから、苦労して生きている人間の私生活を覗き見しようだなんて。


嫌なら見なくても良いんだぞ、シーマ?


嫌とは言っていないでしょう?私はこう見えても、ドキュメンタリー映画が好きなのよ。


はいはい。で、今回のターゲット。


名前は?


『イーライ・パーカー』……。三十五歳、崩壊前はトラック運転手だったそうだ。


トラック運転手?このご時世によくやるよ。


あー、確か、アメリカのトラック運転手って、ドがつくほどのブラックなんだったか?


そうそう、賃金だけはまあ高いけど、残業は当たり前。一日で十時間以上も車の運転をして、車の中で飲食や寝泊まりをする……。地獄さ。


うへー、ヒデェな。


むう……、何とか助けてやれないものか……。


やめろってそういうの。慈善事業はやらないんだようちは。


無論、彼らだけを助ければいいと言う問題ではないとは理解しているが、それでも、今の世を憂う権利くらいは、俺にもある……。


憂う?それをやって何の意味が?善人アピールしてもなあ?


はいはい!早く見ようよ!


あいよ。で、えー……と。映った。


お、トラック内?


流れている音楽は……、エド・シーランか。


ああー、僕らの若い頃にも流行ってた。


ロックを聞けロックを。


今時ロック〜?おじさんじゃん君ぃ。


ってかよ、こうして荒野を走る、武装したトラックなら!普通、流す音楽はロックだろうがよ!!!空気読めねーなこいつ!!!


む、待て。何故、ガソリンの供給が絶たれた今、カーステレオが鳴っている?


あー……、それは、アメリカの『支援物資』の力だろうね。


支援物資?


アメリカは、デトロイトを中心に、北部のある程度の地域に政府機能を移して、そこに籠城してるんだ。これは知ってるよね?


ああ、知っている。今は、どこの国もそんな感じだろう。ドイツもそうだ。


でも、流石に、他の地方の国民を見捨てたとあっては色々と拙いでしょ?


ああ、そうだな。国際的な批難は元より、国内からも不満が噴き出るはずだ。


そうそう。だから、定期的に支援物資を落とすようにしてるんだよ。


なるほど……、察するところ、その降下した支援物資の中に、ガソリンエンジンを魔力駆動式にする装置などが入っていたのだな。


そんな感じ。


だが……、無差別に支援物資を落としては、それを独占する悪意ある者などが出てくるのではないだろうか?


そうだね。で、それが何か問題?


問題だろう。弱き者にこそ必要な支援物資が、行き渡らなくなる。


そうだね、その通り。でも、政府はあくまでも「ポーズ」だけやってるから。気にしてないんだよね、実情なんか。


……そうか。つまり、彼らは。


『国に切り捨てられた』……ってこと。


その中でも、魔力駆動式武装トラックを持っているこいつは、かなり立場が高いな。


そうそう。今の世界では、「アフリカの恵まれない子供達」なんかより余程悲惨な生活をしている人がザラにいるからねえ。


今回、この男を「生の映画」の題材にしたのも、そういうガチ悲惨な層じゃつまらないからだな。


缶詰一つで一晩中陵辱される女性とか、流石にそういうのは見たくないよ僕も。そんな趣味はないもん。


まあそれはそう。


そんな訳で、西部アメリカを武装トラックで移動するスカベンジャーであるこのイーライさんを眺めることにした訳だね!


そう言うこと。


で、イーライさんの武装トラックだけど……。


アムドライトと鉄の合金製装甲板。ハードスライムの皮で皮膜したタイヤ。クリスタルビートルの甲殻でできたガラス……。


おまけに、車体上部に車載型の12.7mm機銃を無理矢理設置していやがる。カッケーなおい。


しかも見ろ!どこから持ってきたのかは知らんが、あれ、ロケットランチャーだぞ!


あれは……、米軍の攻撃ヘリのロケットランチャーを無理矢理取り付けたようね。


良いねえ〜!ポストアポカリプスも嫌いじゃない!


これは……、車体の加工は本人がやっているのだろうか?


ああ、イーライのジョブは『アーミーエンジニア』だからな。レベルは三十。中々やる奴だ。


へー、工兵ね。なんかやってたの?


元陸軍所属、膝の怪我で引退したらしい。


膝に矢を受けてしまってな……、ってこと?


まあ、ポーションで治ったらしいが。


意味ないじゃん!


じゃあ、しばらくイーライの生活を覗き見しようか……。

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