第122話 新世界電子マネー

スクエアウェニックス。


新天堂。


SONEY。


ご存じだろう、世界に名高い日本のゲーム会社だ。


世界の崩壊に伴い、まあ普通に潰れたのだが……。


その人員を俺が集めて、再びゲームを作らせたのだ!


「冷静に考えると、方針が違う三つの会社を無理やり一つにするとか、かなりヤバくない?」


「しゃーねーだろ!社員が殆ど行方不明だから、三つの会社を合併しないと人員を確保できないんだよ!!!」




何でこんなことをしているか?というと、つい先日認可が降りたからだ。


電子マネー、クレジットカードのシステムの認可がな。


まず前提として、魔力とは電力である。


……説明不足だな。


もう少し詳しく言おうか。


えー、まず、現代社会。崩壊する前は、電力が全ての文明の基礎と言ってもいいくらいだったな?


電力がなければ、何もできない。そういう社会だった。


だが、魔法が現れた崩壊後の世界では違う。


今度は、『魔力』が文明の基礎となってきている訳だ。


魔力は電力にもほぼロスなく変換でき、従来のシステムを動かせるし……。


逆に、魔力は、今の世界で使われるようになった『魔導具』のエネルギー源になっている。


化石燃料の産出国である中東は既に壊滅し、魔石の山脈が広がるダンジョンに成り果てた今。今後のエネルギーは魔力となる……。


まさにパラダイム・シフトだな。


パラダイスにならなかったのが残念だ。


ああそれで……、俺は考えた。


『魔力を徴収する仕組みが作れないか?』とな。


俺達、チームクズは、本気を出せば世界全ての人類が一日で消費するくらいの分の魔力を放出することができる。


だがそれを、俺達が負担するのは違うだろう?


寧ろ、魔力を使ったインフラを導入した今、インフラの使用料は魔力で徴収するべきだと俺は思った訳だ。


それからはもう研究、研究だった。


シーマの尻を叩き働かせ、殴り返され、殴り返し、亜人達の知恵も借り……。


やっと完成しました、『魔力徴収システム』が……!


俺は、パワポに図を表示して、指示棒で指しながら言葉を発する。


「……つまり、魔力を仮想空間のような場所に溜めて、好きな時に引き出して使えるようになるってことだ。このシステムを『グレートマザー』と呼ぶことにする」


「なーるほど、ユングね。洒落が利いてる。で、安全性は?」


「洒落で集合無意識なんて言ってないぞ?このシステムは、人類が一人でも生存している限り破壊不可能な、集合無意識を利用した概念的異空間に魔力を溜めるんだ」


「む、すまない。質問なのだが……、それは、悪意ある人類に溜めた魔力を横領されたりはしないのだろうか?」


「それは私が説明させてもらうわ。貴方達は技術的な話は理解できないだろうから省くけれど、魔力の受け取り主には複数の暗号化処理と生体認証を要求するわ。もし認証に失敗すれば、即座に処理をロールバックする原子性もある」


「この辺はまあ、クレジットカード並のセキュリティはあると思ってくれ」


俺が横からシーマの説明を補足。


「じゃあそんな感じで、『生物から魔力を抜き取って仮想通貨にする』『魔石から魔力を抜き取って仮想通貨にする』『仮想通貨を魔石に変換する』この三つのシステムが、今回の仮想通貨システムの基幹となる訳だね?」


「そうなるな」


さあ、始めよう。


仮想通貨『マナコイン』をな!




……で、始まったマナコイン。


使い道はまず、インターネット上でのアプリケーション購入となった訳だ。


経済しか知らないタイプの経済屋は、よく大層なお題目を口にするが、一般大衆レベルで物事を浸透させるには、知能を下げてやらなければならない。


バカの気持ちにならないと、バカな民衆から金を引き出せないってことは、実は経済屋はあまり知らないんだな。


そんな訳で、まずは身近なところから。


今は亡きゲーム会社の、権利者を捕まえて、過去作の権利を買い取り……。


その過去作を、魔法式スマートフォンのインターネットアプリに移植し、そのアプリをマナコインで購入できるように調整したと言う訳だ!


別売りのコントローラー端末(税込4980円)を魔法式スマートフォンに装着すれば、アクションゲームも快適にプレイ可能だゾ!


……いやもうぶっちゃけね、魔石の運搬コストが馬鹿にならんのよね。


エネルギー源を運ぶのに多大なエネルギーをかけてどうすんだよ、と。


石の形がいけないよね、石炭で文明を回そうとするようなもんだ。いや、石炭よりは効率が良くて、小さい魔石でもたくさんのエネルギーを出せたとしても、送電線で実質的に質量なしに等しい「電力」と比べると、どうしても利便性で劣ってしまうんだよ。


そんな訳で、魔力というエネルギー資源を遠隔転送する技術が欲しかった。


それこそ、送電網みたいなのでよかったんだが、今のこの崩壊した世界では、物理世界に依存するインフラは維持が困難ってことで、シーマが夢の魔力転送システムを実現した訳だな。


こいつ、普通に天才だからな……。


俺は自分で言うのも何だが、大体何でもできるタイプの天才だ。


だがシーマは、ある分野で一点突破して、他の追随を許さないタイプの天才なのだ。


今回のこの魔力転送システムも、複雑過ぎて、技術面は半分くらいしか理解できなかった。そもそもソフトはまだしもハードはあんまり……。


まあ少なくとも、数百年生きた亜人の賢人達も恐れ慄くレベルの大発明らしい。


そして、話は最初に戻るが……。


ゲーム会社の職員をどうにか集めて、新しいゲームを作った訳だ。


理由はやはり、マナコインの、魔力転送システムの宣伝ということも大きいが……。


とりあえず、ゲームが作れるくらいには復興してきましたよ、と示すためのパフォーマンスという点もまたある。


俺も一応、電子掲示板やSNSなどを覗いているのだが……、天海街や、天海街と直接転移ゲートで繋がる都市はどうにか復興しつつある。


だがしかし、やはり、天海街から遠いつながりの街は、まあ、酷い。


文明は江戸時代もかくやというレベルまで後退している。


だからこそ、せめても復興の兆しくらいはありますよと、俺は示したかったのだ……!


……いやだって、未来の顧客殺すのは良くないからね?


俺達チームクズは、人類社会の継続をそれとなく手助けして、その代わりに人類に寄生してぐだぐだ遊んでいきたいと思っているんだよ。


そりゃ生存するだけなら、チームクズそれぞれ四人の持つ力なら、もはや簡単だ。


だが、それはそれとして、俺達は人間なので、社会がないと辛いんだよね。


真面目に働く人々の上前をはねるのが一番楽な生き方だと、俺達はそれを理解している。


だから、人々をそれとなく支援してやってる訳だ。


ああ、つまり……。




俺達は、人間は好きじゃないが、人間が生み出す文化は大好きなんだよ。

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