第112話 侍の戦場
ひゅうすとん、の奪還作戦に参加したおいは、夷人の指揮に従って、刀振り回したんじゃ。
あやかし共は、まあ、れべる四十くらいはあったじゃろ。
獣物のよなあやかしばかりじゃったな。
戦のやり方も知らんで、馬鹿正直に突っくんだけの阿呆じゃて。
真っ直ぐに突っくんだけじゃなく、えじこつせんとな。
そげんにチェストするだけで勝てる程、戦は甘くなか。
ちょっ、鉄砲を撃ってびびらすっと、泣っかたではっちくんじゃ。情けんなか。
そんなんで、ここらに天幕張って、明日の戦に備えて休むんじゃ。
けんども……。
「はーい、屑籠屋でーす!冒険者の皆さんの為に、わざわざ日本から出張してきましたー!」
………………うむ!
……ないごておるんじゃ、羽佐間どん。
「羽佐間どん」
おいは、羽佐間どんに声をかける。
「ん?ああ、《鬼武者》と《夢想神楽》か」
おいは、いっちゃん勉強できんが、ここが異国であるこつはうつっとる。
ここに来っまで、転移門を潜り、何日か車ん乗っとるんじゃぞ?日本からあめりかは、じょじょん、遠かとこいやんど?
「なしてここにおるんじゃ?」
「普通に転移して」
あー……。
「あっでなあ!」
「いやいや……、納得できる要素あった?!何が『なるほど!』よ!」
ん、相棒の命がなんぞ言うとるが……。
「阿呆、羽佐間どんはなんでんしがなっぞ」
「……まあ、羽佐間さんがなんでも出来るって言うのは同意するけど。でもやっぱり、驚くのは驚くじゃない!ここ、アメリカのヒューストンよ?!日本から一万キロメートルくらい遠いのよ?!」
一万きろめーとる……?
「一万きろめーとるてどしこばっかいじゃ?」
「どれくらいって言うと……、えーと……」
「日本一周が一万二千キロメートルくらいだぞ」
と、羽佐間どん。
「ほう、そんなんか」
日本一周が一万二千きろめーとる。
ここは、日本から一万きろめーとる……。
つまり……。
「ゆ、わからんが、遠かとこじゃの!」
「めちゃくちゃ遠いのよーっ!!!」
命……。
「景光、アンタ本当に分かってんの?!転移魔法ってのはね、移動距離に比例して消費する魔力の量が激増するのよ!」
命が言いたいこつ、おいはうつっとる。
じゃが……。
「羽佐間どんならできるじゃろ」
「……本当にその一言で納得できちゃう自分が悔しいッ!!!」
「で、俺が何でここに来たかって?」
「うむ」
「それはまあ、ほら……。イベントボス前には、薬草やら毒消し草やらを売る謎の商人がいるのが定番だろ?RPG的に考えて」
「あーるぴーじぃ……?」
なんじゃそりゃ。
「すみません羽佐間さん。こいつ、本当に機械とか分かんないんです。スマホはシニア向けで、パソコンやゲーム機なんて触ったこともありません」
横から命が口出ししてくる。
「えぇ……。本当に現代人なのそれ……?ま、まあいいや。ほら、アレだよ……、物語!小説とか、アニメとかだと、何故か都合がいいタイミングで、都合がいいキャラクターが現れるだろ?」
羽佐間どんはそう言うた。
物語……。
まあ確かに、物語なら、そげなこつもあるかもしれん。
黄門様が、なしてか、いっもかっも馬鹿太者と出会うが、ありゃおかしか。
そもそも、あげんずんばい馬鹿太者がおったら、お江戸は立ち行かんじゃろ。
「俺は今回、お助けキャラとして後方支援しに来たんだよ。暇だから」
「い、いや、暇て……。良いんですか、そんなことして?会社とか、天海街の運営とか……」
命が訊ねる。
「おっ、社会人エアプか?大切なのはトップじゃなくって運営機関だぞ。国だって、総理大臣が居なくなっても、官僚機関が無事なら、次の総理大臣が選ばれて再び動き出すだろ?それと一緒よ」
「は、はあ……」
「俺は既に、俺の会社を、俺が居なくても運営できるように調整してある。でなければ、喫茶店の店長なんていう道楽みたいな仕事はやらんよ」
「あ、道楽だったんですねアレ」
なんの話かまこち分からんのう。
「つまりなんじゃ?」
「羽佐間さんは暇だから遊びに来たんだって」
「ははは!相変わらずだの、羽佐間どん!肝ん太か!」
遊びに来た?
剛毅じゃな!
戦場に遊びに来れるとは、どひこ強えんじゃ?
羽佐間どんは、自分が死んなんて、いっちゃん思うとらん。
かった、羽佐間どんがいっすん本気を出せば、ここにおるあやかしなんぞ、鎧袖一触で蹴散らすじゃろな。
本来なら、こげなけすったよなこつすっ奴は打ったくられるんじゃがの、羽佐間どんは別じゃ。
羽佐間どんは強え。
強えから、横暴も堪えられとる。
「まあ、そんな訳で『屑籠屋』として出張しに来たんだよ」
ちょこっ目を離すと、羽佐間どんの前には、ずらりと出店が並んどった。
ぽーしょん……、水薬やら飲み物やらの自動販売機に、飲食ができる机や椅子。
羽佐間どんは、焜炉の前で串焼き肉を焼き始め、学校給食のような大鍋がいくつも並ぶ。
米の匂いが漂う大型の炊飯器と、平積みされた焼き立ての麵麭が麦の香りを風に乗せる。
他にも、武器弾薬やらが並べられ、本格的に商売をやる気でいるのが分かる。
「「「「まいどどうも!冒険者ギルドです!」」」」
冒険者組合から出向して来たらしい、亜人の職員共があやかしの死骸を運ぶ。
「カゲミツ・ヘシキリさん!こちら、モンスター素材の査定結果になります!お納めください!」
「ん、おお」
そう言ってくるえるふの良か稚子に、新日本円の札束とみすりる貨幣の入った革袋を押しつけられる。
ひぃ、ふぅ、みぃ……、五百万円ってとこかの。
まあ、最前線でいっちにっ戦こうての額とすれば妥当じゃろ。
「冒険者の皆さーん!屑籠屋の食事は美味しいですよーっ!米軍のレーションとかぶっちゃけ不味いですよーっ!」
「れいしょん?」
「レーションってのは、あれだ……、兵糧のことだよ」
ああ、あっでなあ。
兵糧か。
ようは知らんが、牛酪臭い麵麭やら、缶詰やらだそうじゃの。
極論、食れば何でん良か。
ぢゃっどん、美味に越したこつはなか。
美味えもん食れば、元気が出る。
戦意も滾る。
おいどんは、飯の良し悪しで戦意がなくなるような、柔な鍛え方はしちょらん。
が、周りの、普通の冒険者は違うじゃろ。
羽佐間どんは、人ぉばけすっがうめ。
ばけすっがうめ奴は、逆に、褒むっもうめぞ。
人を動かすんが得意なんじゃろうな。
おまけに商才もある。
算盤弾きがうめ奴は好かんが、羽佐間どんは、無知な人間を騙かすような真似はせん。
羽佐間どんは、銭が欲しい訳じゃないからのう。
ありゃ、あまい子じゃて。
てんごをすっのが楽しいんじゃろ。
根っかい、全部、『おふざけ』じゃて。
まあ、人様い迷惑をかけんしの。
かえっちゃ、皆、助かっとる。
さあて、折角じゃ。
何か買わんな。
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