第113話 スラッピー・ジョー

はい。


ではですね!出張ということで!


ヒューストンに来た訳ですけど!


うん、屑籠屋と冒険者ギルドがここに来たのは俺の差し金だ。


屑籠屋は俺の会社だし、冒険者ギルドは、実は俺が最大の株主だぞ。


あたりめーだろ?あんなでかい組織、出資もなしに成り立つもんじゃない。


大体にして、まともな国なら冒険者ギルドなんて認可しないんだよなあ。


いや、よく考えてみろ?


軍隊に匹敵する戦力を持つ、フリーの武装集団が国内に居ていい理由とか、よっぽどのことでもない限りないだろ?


じゃあ、何で、冒険者ギルドのようなアホらしい組織が幅を利かせてるのか。


簡単だ。


よっぽどの事が起きてるんだよ。


街に一つ、冒険者集団がないと、国体を維持できないんだ。


さあさあ、もっとよく考えてみろ。


ほぼほぼ独裁国家である、中国やロシアのような共産圏で、軍に属さない武装勢力がいて許されている現状!


どう考えてもおかしい、狂ってる。


本来なら、軍隊がやってきて無理やりに徴兵されるはずだよな?そうでなきゃ、危険因子として抹殺かね?


でも、そうならなかった。ならなかったんだよ。


何故か?


簡単な答えだよワトソン君。


『そもそも兵士がいない』のだ。


イワンの兵士は畑からとれるなどとはよく言うが、そんな訳はない。人命も、それを育成するためのコストも有限だ。


ロシア軍、人民解放軍。


勇敢な兵士達は、もう本当に面白いくらいの勢いで死んだ。


そもそも、世界の人口が半分以下になるクラスの大事件なんだぜ、世界の崩壊ってのはな。


兵士、警察、そんなのは真っ先におっ死んだ。


人民解放軍!陸軍機動作戦部隊八十五万人!明確な数は非公開で、予備役などを含めればもっといるそうだな。


ほお、そりゃ凄い!


二十四万人しかいない日本の自衛隊と比べたら、天と地程の差があるな!


でも、モンスターに根こそぎ殺されたよ。


そりゃあ、俺はあまり、共産圏に良いイメージを持っていないさ。俺は資本主義の国家で育ったからな。


だが、上が駄目でも、末端の兵士達はまともな筈だろ?任務に殉じ、人を守る。そうだろ?


そんな奴から死んでいったんだよ。


例え、八十五万人の戦力があれど、兵士含めて八十五万人以上殺されたら無意味だろ?


そう、無意味なんだよ。


みーんな殺されちまった。


数少ない残った兵力は、分裂した軍閥の私兵として連れて行かれた。


うん、ぶっちゃけると、既に『国体を維持できている国は一つもない』んだよ。


日本も含めて、『地方都市は事実上切り捨てられた』んだ。


特に、中国、ロシア、アメリカにカナダにオーストラリアのような、国土が広い国はそれが顕著だ。




「つまり……、『国家解体』ってコト?!」


「ワアッ……!」


「国家の枠組みがなくなっちゃったから、冒険者の存在は黙認されてる……、ってコト?!!」


「フッ!」


「このサボり力……、間違いない!『無能型』だっ!」


「アアッ……!」


「いや……、何やってるんだお前ら」


「うるせぇな文句あんのか?うすらでかくて可愛くないやつめ!」


俺達チームクズは、ここ、ヒューストンに集まって仕事をしていた。


俺は飯炊きしながら指揮をとり、シーマは会計をして、アーニーはギルド側の指揮をして、ヴォルフは荷運びをする。


「アーニー!アメ公って何食うの?埼玉県民はその辺の草を食わせておけばいいそうだが」


「ベーコンでしょ」


「Ipsa scientia potestas est(知識は力なり)ってこと?」


「フランシスの方じゃないから!肉って事だよ!」


「肉っつってもよ、実際何よ?」


「あー……?まあ、僕はバッファローウイングが食べたいな」


「良いねえ、他は?」


「マッシュポテトでも置いておけば?」


「セルフサービスで?」


「そうそう。それと、フライドチキンにサラダ、チャウダーに……」


「それに?」


「スラッピー・ジョーも置いてよ」


「またかよ?!お前、本当に好きだな!」


「大好きなんだよね、スラッピー・ジョー」


スラッピー・ジョーってのは……、挽肉とトマトソースのサンドイッチみたいなもんだ。


特に、アメリカの子供が好きな料理だ。


アーニーは、子供の頃からこれが大好物だったそうで、一緒に学食に行くとほぼ100%これを食っていた。


完全に頭がおかしいが、それを指摘すると、「おかしいのはお前だゾ!」と周りから言われる。


どうやら、毎食違うものを食べるとか、わざわざそんなことをするのは日本人くらいのものらしい。


因みに、シーマの好物はラム肉のペリメニ(水餃子みたいなの)で、ヴォルフの好物はシュヴァイネブラーテン(豚肉のグレービーソース煮込み)だぞ。


俺はこれと言った好物はないけど、大抵何でも美味しく食べる主義だ。


ただ飽き性で、同じ食事が続くのは嫌だな。


さて、飯炊きはこんなもんか。


ガーベージの職員にスタッフをやらせて、飯とする。




定額一万円で、屑籠屋ビュッフェへの入場権を売る。


米軍兵士については、冒険者じゃないのでサポートする義務はないが、米軍が倒したモンスターの骸をいくらか融通してくれるなら、食品の融通をしても構わないと宣言した。


物資の融通については断られるだろうから提案はしない。


軍人が、よく分からん民間から武具を買い取る訳がないんだよなあ。


一方で冒険者達は、俺達、屑籠屋のサポートを、諸手を挙げて歓迎した。


当たり前だよな?


普段から、冒険者を一番サポートしている組織は屑籠屋系列の店なんだから。


もちろん、個人レベルの店もあるにはあるのだが、最大手はこの屑籠屋だ。


ここにいる冒険者のほぼ全員の、武器も、防具も、ポーションにマジックスクロールも、ほぼ全部が屑籠屋の製品なんだよ。


屑籠屋の商品はほぼ全て外注とは言え、一流どころだ。


今の世の中、個人で買うよりもずっと信頼性が高いってのは得難い利点なんだな。


何せ、露店やらで買ったら、詐欺製品ってことも充分にあり得るんだから。世が乱れると人心が荒み、人心が荒むと社会正義もなくなるんだな、これが。


新人冒険者が「安いから」と言って買った露店の武器が、実は詐欺製品で、戦闘中に駄目になってしまい、それが原因で死亡!なんて話もありふれている。


そんな中でも、商品の品質が安定している屑籠屋には信頼性がある。


信頼性!良い言葉だと思わないか?一番大事だろ、信頼性。


まあ、なんだ……。


冒険者から最も信頼されている屑籠屋は大歓迎!


更に、貴重な四十レベル帯のモンスター素材も大量ゲットでこっちも大助かり!


WIN-WINってやつだな!

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