第111話 ヒューストン奪還作戦
2021年、3月20日。
ヒューストン奪還作戦の人員たる、冒険者及び軍人が、ヒューストン前の仮設前線基地へと到着した。
3月21日。
時節は春。
アメリカの南、テキサス州ヒューストンでは、まだまだ寒い春風が兵士達の身体を撫でていた。
しかしこの春風も、ほんの数分後から、硝煙と血の匂いが入り混じる熱風となる……。
「作戦、開始ィッ!!!!」
「「「「おおおおおおおっ!!!!」」」」
全軍は、満を持して突撃した。
「モンジョワ、サン=ドニ!!!!」
まず、前線に出たのは、『パラディン』の異名と聖騎士のジョブを持つ、アベル・エドガール・テオフィル・フォルジュと……。
「「「「モンジョワ、サン=ドニ!!!!」」」」
その配下の辺境騎士団の精鋭達であった。
平均レベル、四十二にもなる精鋭中の精鋭である。
彼らは、中世フランスの騎士のように、フランスの守護聖人の名を叫びながら、モンスターの群れに突撃した。
対するモンスターの軍勢は……。
『『『『ガアアアアアアアッ!!!!』』』』
……まず、前提として、モンスターは連携的な行動をしない。
このように同種や近似種で群れることはあっても、人間のように、お互いの長所を活かして短所を潰すような連携はしないのだ。
稀に、ゴブリンがウルフに騎乗したり、昆虫型モンスターが植物型モンスターと共生していたりはするのだが、それは連携ではなく、単なる生物的な共生関係である。
故に、このモンスターの群れにも、戦略や司令塔などというものは存在せず。
一斉に、津波のようにモンスターの群れが押し寄せてきたとしても、まず、足の速いものが最初に喰らい付いてくる……。
最初に、最前線に躍り出た辺境騎士団を襲うのは、レベル三十前後のサベージビースト。
サベージビーストは、全長3メートル前後の黄土色い毛皮を持つ猫科でも犬科でもない獣である。
鋭い爪と牙、素早い身のこなしと、狒々のような豪腕を持つ魔獣。
当然、ただの人間がこのサベージビーストに襲われたら、逃げる事は不可能だ。
だが、ここにいるのは一騎当千の勇士達である。
よって……。
「『物理防壁』ィイーーーッ!!!!」
「「「「『物理防壁』!!!!」」」」
騎士団長たるアベルの一声により、騎士達はスキルを発動、物理攻撃を半減させる魔力の防壁を顕現させる、『物理防壁』のスキルを一斉に発動させた。
それにより、この部隊の最前列に、幅五十メートル前後の防壁が敷かれる。
『『『『ガアッ?!!』』』』
サベージビースト達は、物理防壁に思い切り突っ込み、弾かれてひっくり返る。
そのようにして第一波を防ぐと、次が来る。モンスターの大軍との戦いとは、津波に立ち向かうようなものだ。
第一波を防いでも、第二波第三波と連続して雪崩れ込んでくるのだ。
続いて現れたのは、人の身長の三倍はあろうかという巨体を誇る、ヒルジャイアント。
樹木をそのまま引っこ抜いてきたかのような棍棒を振り回しつつ、人の頭がすっぽり入りそうな大きな口を開ける。
『『『『ガガガアアアアアアッ!!!!』』』』
物理的な圧力を感じさせるような、大きな雄叫びが方々で上がる。縄張りに入ってきた人間軍を威嚇しているのだ。
あの巨体、あの質量で押しつぶされれば、戦車でさえスクラップになることは予想に難くない。
だが、その心配は杞憂である。
「魔導師団!……放てぇーっ!!!」
「『ファイアストーム』!」「『ライトニングボルト』!」「『アースキャノン』!」「『マギアレイ』!」「『スティンガーフォース』!」
四魔導師が指揮する、日本の魔導師団だ。
この距離ならば、圧倒的な火力と攻撃範囲を誇る。
向かってきたヒルジャイアントと、その辺に転がっているサベージビーストは、断末魔すらあげる間も無く消し飛ばされた。
これで、ある程度足の速いモンスターは殲滅できた。
これから来るのは、足が遅いが強力なモンスターである。
それらは……。
「今だ!グリーンベレー隊、前へ!!!」
本作戦の指揮官である、ジョセフ大佐の指示の元、グリーンベレー隊とガンマンズギルド、叉鬼衆達、遠隔攻撃の使い手達が銃を片手に陣を敷いた。
『ガオオオォ……ン』
騒ぎに気づいた大型モンスター達は、ゆっくりこちらに、遠くから走ってくる……。
しかし、そこはモンスター。
障害物は全てなぎ倒しながら、猛烈な野性のまま、猛然と前進して来るだけだ。
それを、人間達は……。
「射撃、開始ィーーーッ!!!!」
『グオオ……ン?!!』
槍衾ならぬ、射撃衾の陣で待ち構える。
アメリカ軍も馬鹿ではない。
あらかじめ、敵の調査は充分に済ませていた。
このアメリカ、北米大陸には、獣系のモンスターが多く存在している。
獣系のモンスターは、知能は最低限の獣並みだが、そこそこに丈夫な肉体と、素早い身のこなしが厄介だ。
また、獣らしい直感力で、こちらの攻撃を回避する傾向にある。
であれば、どうするか?
米軍が出した答えは、いつものように物量攻撃であった。
即ち、『避け切れないほどの』『弾幕で』『面制圧』するということ。
面制圧型の射撃弾幕に曝されたモンスター達は、一撃死までとは言わないが、大きなダメージを受ける。
モンスターも生物であるからして、恐怖心はある。
『ギャウン!』『ギャピィ?!!』『キューン!』
少なくないモンスターが、数多の射撃をその身に受け傷ついたことにより、怖気づいて逃げ出した。
若い個体や弱い個体は、そういう傾向にあった。
逆に、人を食い慣れている強い個体、凶暴な個体は……。
『『『『グルル……、オオオオオッ!!!!』』』』
餌である人間『風情』に攻撃されたことで、怒髪天といった様子だった。
怒りのままに突撃して来る……。
その内の何割かは、弾丸に魔法の雨霰を浴びて力尽きたが、半分以上は、弾幕を受けて血を流しながらも、すぐそこまで迫ってきていた。
それらのモンスターは、こうやって対処するのだ。
「近接部隊!突撃ーーーッ!!!!」
「「「「おおおおおおおっ!!!!」」」」
侍、瑜伽師、功夫師など、近接戦闘型のジョブを持つ冒険者達が迎え撃つ!
目測十メートルはあろうかと言う、ちょっとしたビルくらいのモンスターが腕を振り回す。
それを、辺境騎士団を押し退けて前に出た侍が、一太刀で斬り捨てた。
小さな子供なら丸呑みできるであろう、裂けた口を持つ虎のようなモンスターが飛びかかって来る。
それを、功夫師の一人が、腕に気功を集中させ、突きを放つと同時に気功を解放。
気功の塊が大人一人分くらいの気弾となって飛んでいき、虎のモンスターを迎撃する。
気弾が直撃した虎のモンスターは、自慢の大口の上顎から上が弾け飛んだ。
火を纏う鶏冠を持つ、鳥のモンスターが火を吐いた。
それを、魔剣士団の魔法剣士が、吹雪を纏わせた剣で突きの動作を徐に放つと、突きと同時に氷の光線が迸り、鳥モンスターを貫いた。
すると、鳥モンスターは氷の彫像と化して、そして五秒もしないうちに自重で崩れ落ちた。
近接部隊はそうやって、圧倒的な戦闘能力で思い切り前線を押し返して……、騎士団がそれを引き継いで押し返した前線を固定する。
そこにまた、遠距離攻撃隊が騎士団が抑えている後ろから射撃して、数を減らす……。
個々の力は強くとも、集団としては烏合の衆であるモンスターは、連携力のある人間軍に、簡単に倒されていった……。
そうして、およそ半日かけて前線を押し上げた人間軍は、前哨基地を作り上げる……。
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