第110話 作戦会議
ハリアルシティには、現在、世界トップクラスの冒険者が集まっている。
『鬼武者』の辺志切景光を筆頭に、賢者アジールの弟子である四魔導師、忍者四天王、叉鬼衆、陰陽寮など、日本の目ぼしい組織は皆参加した。
その他にも、『ノヴォルーニエ』『アスガルト』『パラディン』『カラミティ・ジェーン』や、『アグニ』『エレメンタルマスター』『九頭龍』など、世界中の最強クラス冒険者が集まっている。
『パラディン』は辺境騎士団を、『九頭龍』は九龍寺武僧団を、『エレメンタルマスター』は魔導騎士団を連れている。
『ノヴォルーニエ』は数名の同志と共に参加、『アグニ』も、ブラフマーの蓮華団という武装集団を連れてきている。
『アスガルト』はヴァイスベルグ動物園を連れ、『カラミティ・ジェーン』は何人かの腕利きガンマンと共に参加。
総勢二百人ほどの、一級冒険者が揃った。
そして、グリーンベレー部隊も五百人ほど動員されている。
この大軍、この質で勝てねば、諦めた方がいいと言うレベルの話だ。
埒外の存在であるチーム廃棄物は除くとして、世界最高のレベルの存在が揃っている……。
2021年、3月18日。
本日は、集まった冒険者の登録をする日となっている。
百人を超える冒険者が、ハリアルシティに仮設されたテントで、依頼受領のサインを書く。
午前中はそれによって潰れる。
また、時差の関係から、本日は、世界各国から来た冒険者達は早めに休んだ。
3月19日。
コンディションを整えた冒険者達に、作戦説明が行われる……。
「冒険者の諸君は初めてか。私は、ジョセフ・ブライトマン大佐だ。よろしく頼む」
前に出たのは、本作戦の指揮官である、グリーンベレーのジョセフ・ブライトマン大佐。
このジョセフ大佐は、そこそこに老齢ではあるのだが、イラク戦争などの中東での作戦行動を経験した叩き上げであり、経験豊富な指揮官であった。
ハリアルシティのコンサートホールにて、パイプ椅子に座った冒険者、兵士の双方に、作戦を説明するジョセフ大佐。
その説明は、専門用語が控えられ、素人である冒険者にも分かりやすい内容だった。
「まず我々は、諸君らのグループの特性について確認したいと思う。まずは、『侍』についてだ」
コンサートホールの大型プロジェクターに侍の動画が流れる。
「侍は、刀、槍、長刀、火縄銃などを使用するメレー職だ。とにかく攻撃力に優れ、機動性も高い。その代わり防御力が低いのが難点だ」
プロジェクターに、居合抜刀によりビルのように大きいモンスターを斬り裂く侍が映し出される。
侍はSTRが高く、またAGIもかなりの高水準である、メレー型のジョブだ。
メレーとしての切り込み隊長役はもちろんのこと、その気になればその高い機動性で、タンクの物真似……、回避盾になることも可能。
「また、『忍者』も、高い機動性と火力を誇る……」
忍者が壁を走るシーンが映る。
忍者は、AGIが極めて高いメレーだが、ジョブ限定の『忍術』スキルにより、ヌーカーのような高火力攻撃も可能としている。
「中国の『九龍寺武僧団』とドイツの『ヴァイスベルグ動物園』の諸君も同じだ」
武僧の集団やテイマーの集団が映る。
武僧……、『功夫師』のジョブは、中国で最も多いジョブだと言われている。
中国で国民に広く親しまれている功夫……、中国武術の使い手がなれるジョブとされており、メレー型にしてはVITそこそこに高いのが特徴だ。
また、気功系スキルは応用性が高く、様々な場面で重宝される。
そして、
ヴァイスベルグ動物園の調教師は、モンスター化した動物園の動物達を従えた、元動物園職員である。
確かに、調教師本人は『剣術』や『火魔法』などの汎用的なスキルをバランス良く覚えるのだが、そのステータスの伸びとスキルのレパートリーはあまりパッとしない。
だが、調教師は、ジョブスキルの『調教』の位階にもよるが、何体かのモンスターをテイムできるのだ。
つまり、調教師本人と合わせて、モンスターの分で戦力は数倍。更に、コンビネーションにより、戦力は何倍にもアップする。
連れているモンスターによって、一人で冒険者パーティ一つ分の働きをこなすことも可能だ。
「そんな君達は、例えるならば『戦闘機』だ。ヌーカー達の露払いや、切り込み役になってもらう」
その次……。
「次に、インドの『ブラフマーの蓮華団』やロシアの『魔法剣士団』の諸君らだ」
プロジェクターに、カラリパヤットの達人たる『瑜伽師』のジョブを持つ者達と、魔法剣士団の名の通りに『魔法剣士』が集まった集団が映る。
『瑜伽師』は、要するにヨガマスター……、ヨガの使い手のことである。
インドの独特な、踊りのような柔らかい動きをするカラリパヤットという武術の使い手達を『瑜伽師』と呼び、棒術、剣術、鞭剣術などを使う。
そして瑜伽師の最大の特徴は、『点穴』というツボを突くことにより様々な状態変化を起こすことができる点だ。
『魔法剣士』は特に説明することもないだろう。
魔法を使える剣士であるということだけだ。
「それと、日本の『魔導師』と『陰陽師』諸君もだが……、君達はとにかく火力と攻撃範囲が大きい。これは、軍で運用するならば『爆撃機』だ。戦闘機型の諸君との連携を密とし、敵中枢に高火力の攻撃を叩き込んでくれ」
『魔導師』は、魔法士の上位職であり、広範囲かつ高威力の魔法攻撃が可能だ。
その代わり、機動性と耐久性、筋力は低い。
とは言え、一般人と比べれば化け物級ではあるのだが。
そして『陰陽師』について。
『陰陽師』は、魔法の亜種である『陰陽術』が使用可能な存在だ。
『陰陽師』は、式神というある種の召喚獣と符術、呪術、反閇など、様々なスキルを持つ。
どちらかと言えば小技で対応するタイプのサポーターだが、火力もそこそこに高い、器用貧乏的なジョブだ。
この陰陽寮という組織には、他にも、前衛として活動できるような力を持つ『山伏』『武僧』や、バッファー兼ヒーラーの『巫女』『神主』などが存在している。
次……。
「次に、我々アメリカ軍と、『ガンマンズギルド』『叉鬼衆』の諸君らは、遠くまで届く遠距離攻撃が特徴だ。『戦車』として扱わせてもらう」
アメリカ軍は、やはり、基本方針は高火力な銃器による物量攻撃という基本的なドクトリンを変更してはいない。
しかし、その武装は、崩壊前と比べて更に強化されている。
それは、弾頭や砲身を、崩壊後のダンジョンから採取された幻想金属に代替し、炸薬なども、魔石などから作られる強力なものに変更されたからだ。
もちろん、反動が極めて大きくなっていて、常人では扱えないのだが、そこは、兵士のレベルを上げて筋力を強化することで解決した。今回の作戦のために鍛えたのだ。
『ガンマンズギルド』『叉鬼衆』の双方は、アメリカ軍が、幻想金属で銃器を作るという発想に至る前からそれをしていた組織である。
アメリカ軍の二歩も三歩も先を行っている。
更に次……。
「そして、フランスの『辺境騎士団』と、イギリスの『魔導騎士団』は、防御の要である『防壁』だ。最前線で肉の盾となってもらわざるを得ない。力を貸してくれ」
辺境騎士団は、前衛職の花形である『騎士』を中心とするタンクの集団である。
その防御力は核シェルターをも超える。
鍛え抜かれた騎士は、それ程までに強いのだ。
そして、魔導騎士団。
これは、魔法を使って動く強化外骨格『魔導騎士』に搭乗した騎士達である。
魔導騎士、強化外骨格とは言うが、メカニカルなものではなく、単純にバフ効果が多重にかかった鎧のようなもの。
イギリスは物量に乏しいので、技術力と装備の質でモンスターに対抗しているのだ。
そして、大佐は最後に……。
「大統領も仰られていたが、この作戦はアメリカの今後を左右する大事な作戦だ。諸君らの健闘を祈る!」
その一言と共に、話を締めた。
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