第105話 亜人向けメニューの調査
さあ、どんどん聞いていこう。
『俺達は肉しか食わねェーんだ。だから、五番、六番、七番だな』
ライオン獣人……、ナラシンハの男性。十九歳。
『五番のユッケってのは、生肉と、塩味のあるソースと、植物の脂がかかってるな?これがアクセントになってウメェぞ』
『なるほど』
『六番のカラアゲってのも、ぱりぱりしてウメェ。外側のぱりぱりしたところが野菜の粉らしいが、俺らは多少は野菜も食える。こんなふうに、おまけ程度に入ってるだけなら、美味いと感じるぜ』
『七番はどうでしたか?』
『七番のサカナのサシミは中々だな。サカナなんて俺は初めて見たが、柔らかくてウメェじゃねえか。気に入ったぜ』
『そうだね、やっぱり、百三番のお酒が良かったよ』
羊の獣人、サテュロスの女性。十七歳。
『僕達サテュロスは、酒造が得意な民族なんだけど、このウイスキーってお酒は初めてだね。琥珀のような色合いと、酒精の強い甘み、豊かな香り……。とても良いね。惜しむらくは、素材が普通の麦を使っているところかな?ダンジョン産の麦なら、もっと良い味が出せると思うよ』
『酒造?どんな酒を?』
『僕達が作るのはワインさ。サテュロスのワインは、色々な種族に高値で売れるんだよ』
『へえ、それは良いですね。トラッシュの方で是非購入させていただきます』
『酒屋でもやるのかい?』
『食料品店やります。酒も扱う予定です』
『陛下の国営の店で、僕達の部族の酒を扱ってもらえるの?すごく光栄だよ!』
『みゃー達はやっぱり、肉と魚が好きだにゃあ』
ワーキャット、女性、十六歳。
『サシミはとっても美味しいにゃあ。ミリンボシも美味いにゃあ』
『味の濃さは問題ありませんでしたか?』
『んー、ちょっとしょっぱいにゃ?サシミはショーユじゃなくて別のものを付けた方が美味いと思うにゃ』
ふむ。
『多分、すり下ろした果物や野菜、あとは油なんかが合うと思うにゃ』
マジでペットの餌でOKらしい。
『それと、十八番の、鳥ささみのチーズフライがとっても美味かったにゃ〜!あれは衝撃的にゃ!あれは流行るにゃ〜!』
『俺の一推しはこれだな!四十五番のベジトルティーヤ!これならいくらでも食えるぜ!』
ミノタウロス……、要は牛人間。三十八歳、男性。
『穀物を粉にして練った物を焼いて食べるのは、俺達、ミノタウロス族の基本的な料理だ!だがこれは、皮で野菜の具を包んでいるから、手が汚れなくて食いやすいな!』
俺の聞き齧った知識によると、牛は牧草以外の高栄養価な飼料を与えすぎると病気になるとあったのだが、その辺は大丈夫なのだろうか?
『んん?いやいや、俺達は牛に近いんだろうが、牛じゃねえぞ?まあ、病気の時とかは麦粥なんかが良いらしいが、普段は農耕して、パンを焼いて食ってるよ』
なるほど。
『それとな、このトルティーヤの油で揚げたチップスもウメェな!この菓子は、ガキは喜ぶと思うぜ!……うちのガキに土産にしたいんだが、分けてもらえるか?』
「うん?エルフの食事?そうさのう……、我々は、人間からすれば清貧で、味気ないようなものを好むんじゃ」
エルフ。三千四百五十五歳、女性。
「お主ら、若い人間は、脂でギトギトのステーキや、甘ーいケーキなどを好むのじゃろうが、我々はそう言ったものは苦手じゃな」
ふむ、高カロリーな食事が苦手、と。
「その点で言えば、この八十番のオロシソバというのが美味であったぞ。ソバ麺の穀物の柔らかな香りと、ラディッシュの辛味と甘み……。それに、ツユも丸い味で大変によろしい」
老人かな?
「それと八十二番の五目ご飯も美味であったなあ……。魚と海藻のフォンで穀物を炊く発想は、エルフになかったぞ。それに、キノコや根菜などの具も優しい味で良かったぞ。こんにゃくというのも、不思議な食感であるが美味じゃのう」
老人だな?
「七十七番のロールキャベツも中々じゃったぞ。野菜と肉のフォンで、野菜に包んだ肉を煮込むとはの。エルフにも、穀物粉の皮で具を包んで茹でる料理はあるのじゃが、葉物野菜で具を包むのは見たことがない。じゃが、肉は鶏胸肉の方が良かったかのう?豚の肉は脂気が多いのじゃ」
「アジール女史?失礼ですが、お年を召されていらっしゃるから、重いものが食べられないということでは?」
「ほ、本当に失礼じゃな?!そうではないのじゃ、エルフは本当に、脂気と臭気の強いものが苦手なのじゃよ」
『儂らはエルフとは逆じゃな。ドカンと脂っこくて、ガツンとくる食い物と、それと酒を好む』
ドワーフ、二百八十四歳。男性。
『八十五番のニンニクチャーハンは美味いのう!ガリクの実(ニンニク)とヤク(牛)の肉をたっぷり使った焼き飯か!儂らはこういうのが大好きじゃ!』
基本的にそういう感じのものが好きらしい。
『八十六番のニンニクギョーザも最高じゃ!ガリクと肉の組み合わせは何よりも美味いっ!』
まあ、俺も好きだけどさ。
『八十八番のカラアゲもばっちりじゃな!ガリクとショーユ風味の肉を油に潜らせるとは、もうたまらん!エールにぴったりじゃ!』
こんなもんか?
『あと……、儂は、人間の本で読んだシローラーメンというのが食ってみたい!陛下、どうにかならんか?』
それは民間がどうにかするから……。多分……。
『我は九十番の、イナゴの佃煮が美味であると言っておこう』
蜥蜴人間、リザードマン。二十歳、男性。
『ぱりぱりとしながらも薄氷のように柔らかな甲殻と、滋味のたっぷり詰まった虫腹を、甘辛いソースで味付け。これがうまくないはずがない』
うん、見解の相違。
『九十一番の、大さそりの腹肉のスープもまた美味だ。さそりの腹肉の濃厚な苦味と、コマツナの野菜の苦味が堪らん!』
荒石さんも食った。苦味がかなり強いが、慣れれば蟹味噌のような濃厚な味がするそうだ。
うげー、キモいキモい。
『九十二番の、土芋虫揚げも素晴らしいの一言だ。カリカリにした虫肌はサクサクで、ゴキブリの中身のような濃厚なとろみが……!パンの屋台などが並ぶのをよく見るが、土芋虫揚げの屋台もどうだろうか?一考の余地はあると思う』
ねーよ……。
しかし、試食した荒石さんは、結構美味いとのこと。海老煎餅のような味がしたそうだ。
『そして九十三番の、蜂の子ご飯!これは最高だな。蜂の子は滅多に食べられないご馳走だ』
試食した荒石さんは、魚の白子っぽい濃厚な味と表現していた。
ふむふむ、データはたくさん集まったな。
これを参考にして、天海学院の食堂を改革だ。
こうして、一斉調査をして、亜人研究会の力を借りつつも、一ヶ月ほどで亜人向けメニューが確立した。
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