第104話 亜人向け飲食メニューの考案
食品会社トラッシュ。
これの設立については、前々から考えていた。
現在、世界では、卸売業と言うものがないのだ。
野菜や穀物は、「自分で生産する」か、「生産者から直接売ってもらう」しかない。
こんなんじゃ俺、地球経済を食い物にしたくなくなっちまうよ……!
と言う訳で、食品の卸売業を開始。
全国の生産者から、ケンタウロス荷馬車で食品を輸送して一ヶ所に集めて、それを卸売、小売する……。
要するにスーパー。
社会から搾取する為にまず投資する。
取らんと欲するものはまず与えよってことだな。
うん、実に健全だ。
……とは言え、部下のローゼリンデに丸投げしてるから俺はよく分からん。
食品の品質管理の徹底と、汚職の一切を許さないことのみは何度も言い聞かせたが、どうなるのかは謎。
従業員はほぼ全員、エルフと人間だ。
エルフは、この世界の人間並みの衛生観念と道徳観を持っているから、問題はないとは思う。
トラッシュは、とあるスーパーに本社を置いている。
雷魔石カートリッジによって、パン工場の電気釜やベルトコンベアを再稼働させ、パンを量産している。
大麦パン、小麦パンを2:3くらいの割合で生産。
また、輸送員に氷魔法の使い手を雇い入れ、食肉や鮮魚を冷凍して輸送することもやっている。
因みにスーパーは、元はコストトという大型のスーパーだった。
このスーパーの裏口を、天海ポータルゲートと繋げて、卸売業を始める。
よし、トラッシュはこのくらいで良いだろう。
そうしたら次は、亜人向けメニューに挑戦だ。
俺は、天海学院食堂部部長の荒石さんを連れて、大倉教授の亜人研究会に乗り込んだ。
そして、大倉教授に、亜人用飲食メニューの考案のために、亜人研究会の力を貸して欲しいと頼むと、快く承諾されたので……。
『えー、では、皆さんには、天海王国での亜人用飲食メニューの開発にお力を貸していただこうと思います。今回調査したメニューは、天海王国の亜人食の基礎となるものです。なので、好きか嫌いかだけでなく、栄養学的に適切かどうかなども考えていただけますと幸いです』
『『『『はい!』』』』
まず、バイキング方式で様々な料理を並べる。
料理には数字の書かれたプレートを近くに置いておく。また、原材料や料理名もプレートに書き入れておく。
そして、お手元のフリップボードに評価を書き入れる。
評価はこう。
《名前、種族名を記入
食べられる? はい/いいえ
美味しい? 五段階評価 不味い、食えないこともない、普通、美味い、とても美味い
栄養はある? 少ない/普通/多い
自由回答欄 感想をどうぞ》
このような形で実験をやっていく。
何故か、大倉教授も参加した。いや、あんたは人間だろ、人間が食うものは俺も知ってるよ。
まあいいや。なんかこう、亜人研究会だけじゃなく、学院の賢人達もゾロゾロ集まって、立食パーティーが始まってしまったし、仲間外れにするのはよくないな。
折角なので、荒石さんもパーティーに参加してもらう。俺も参加する。
「いやあ、本日はお招きいただきありがとうございます」
大倉教授が挨拶しに来た。
「いやー、ぶっちゃけ、招いてないんですけどね」
「ははは、まあまあ。人間的な知見も必要かと思いまして」
意外と厚かましいぞこの人。
まあいいや。
「ルリャさん、どうですか?」
大倉教授の嫁に話しかける。
「イチハン、イイ。ゴハン、イイ」
一番は小麦パン、五番は犬用ユッケだな。
「ソレト、ニジュウロクハン、アァクテ、オイシイ」
二十六番、甘くて美味しい。二十六番は米粉ケーキにホイップクリームとベリーを乗せたものだ。
「なるほど、大変参考になります」
この調子で色々聞いてみるか。
まあ、ちゃんとフリップボードに書いてもらっているが、生の情報も欲しいな。
荒石さんと一緒に聞いて回るか。
『こんにちはー、いかがですかー?』
『よう、陛下。中々だぜ』
ワーウルフ、二十四歳、男性。
『美味しいですか?』
『うんまあ、やっぱり生肉はうめぇな。この五番の生肉の卵黄乗せが今のところ一番うめぇよ』
ふむ。
『どんなところが美味かった?』
『ゼピの実(ゴマ)の油と、醤油のソースがうめぇ。ゼピの実の油は良い香りだ。肉はカヤ(牛)だな?俺はグララ(馬)でも美味いと思うぜ』
へえ、ワーウルフって馬も食うんだ。
『グララは、グララに乗った人間を倒した時くらいしか食えねぇんだ。カヤは、カヤ型のモンスター肉をいつも食ってるが……、カヤ型のモンスターは強いから、大掛かりな狩りになるんだぜ』
なるほどなあ。
『タツ殿!』
あ、ケンタウロスの部族長の娘、ヘレナだ。
『どうだ?美味いか?』
『うむ!美味いぞ!』
『どれが美味かった?』
『四十番の大麦パンは良いな!』
『小麦パンは駄目なのか?』
『うーん……、駄目ってほどでもないのだが、小麦は腹の中で膨らんで、腹が痛くなるのだ』
なるほど、そんなことがあるのか。
『それと……、六番の豆腐ハンバーグは美味だったぞ!ふわふわの豆のペーストに、こりこりした野菜を混ぜて焼いたものらしいな。あれは良い!こりこりが美味い!』
レンコン入り豆腐ハンバーグ薄味醤油餡掛け、だったが、美味いのか。
『それとな、四十四番の大根粥がとても美味であったぞ!似たような料理がケンタウロス族にもあってな。何というか、故郷の味だった!』
へえ、大根粥。昆布出汁の薄味大根粥が、故郷の味なのか。
『色々と試してみるので、何卒、我が氏族をよろしく頼む!』
と、ケンタウロス陸運計画について念押しされた。
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