第103話 食品会社トラッシュ

七月頃には、ガーベージの陸運業が本格始動していた。


だが、学院のサブクエストはまだいくつかある。


時を巻き戻して、五月のサブクエスト受注日に戻ろう。




「それでじゃな、次の問題は……、学食じゃ!」


とアジール女史。


「はあ、学食」


「そうじゃ。まずじゃな、この天海学院には、百を超える種族の亜人が集まっておる」


「そうですね」


「そして、亜人は、人間と全く同じ食性ではないのじゃよ」


あー、なるほど。


「もちろん、学食の職員らは、最大限に亜人達の要望を聞いてくれてはいるのじゃが……、あちらが立てばこちらが立たぬ、と言った様子でのう……」


なるほど。


「ついでに言えば、職員も食品もどちらも足りぬのじゃ!これは、最初の問題である、登校の問題にも関わってくるのう。人や物の流通が滞っているのじゃ」


うむ、分かったぞ。


「わかりました、ではこうしましょう」




まず、札束ビンタで求人を増やして、学食の職員を倍増させる。


流通については、ケンタウロスに荷馬車を牽かせることにして……。


「メニューを増やそう」


ということに。


学食の職員を集めて会議開始。


学食部の部長である荒石さんに挨拶する。


荒石さんは、元はとある商社に勤めていたサラリーマンだが、料理について造詣が深いので雇われたそうだ。


料理もやっているが、主にやっているのは食材の発注やら何やらの、学食部の事務仕事だ。


その他にも、どうやら、食材の仕入れ先への挨拶なんかも引き受けてくれているらしい。


「こんにちは、羽佐間です」


「こんにちは、荒石です。羽佐間さんの噂はかねがね……」


「いえいえ、噂ばかりが先行して、おまけに尾びれも背鰭も付いてしまっているだけですよ」


ん……、ああ、もちろん、表面上の付き合いをする相手には敬語も使う。


喧嘩を売られた訳でもないのに、いきなり突っかかるような真似はしないよ俺は。


別に、礼節とかそんなものは気にしてないんだが、ビジネスの付き合い相手にタメ口で話しかける奴は頭が逝っちゃってるだろ。


そりゃ、ビジネスだろうと何だろうと、ムカつく奴にはタメ口で返すが、別に何にもやってきてない荒石さんに偉そうな顔でパワハラするのは意味不明じゃん?って言うか、そんなことしたら純粋にみっともない。


「さて、荒石さん。早速ですが、天海学院の学食部の問題についてお教え願えますか?」


「はい、ではまず、こちらの資料を」


おお!偉いな、資料を用意してあるのか。


流石は元商社マン。


資料も読みやすい。


特に、数理的観点から語られると、理系の俺は理解しやすいな。ポイント高いぞ。


「まず、一ページ目の予算不足の件からですが……」


なるほど、予算が足りない。


「第二に、三ページ目ですが、予算が足りたとしても、大規模に食料を卸せる業者が存在しないんです……」


なるほど、大規模な卸業社が存在しない。


「第三に、五ページ目ですが、仮に食料があっても、職員が根本的に足りておらず……」


職員不足。


「そして最後に、七ページ目ですが、亜人さん方の好むメニューが良く分からないのです」


亜人向けメニューがよく分からない。


「なるほど、よく分かりました。では、一つ一つ解決していきましょう」


まず、職員と予算の不足だが……。


「とりあえず、学院の方に三億円ほど寄付するので、当面の予算と人員はこれで賄ってください」


「は……?!い、いえその、恐縮ですが……、それほどの予算を投じたとして、利益が出るのでしょうか?」


ん?心配してくれんのか?


「いえ、まだ出ないでしょうね」


「で、でしたら……」


「ですが、この天海学院は現在、世界最大の大学機関です。まだ、投資額に見合うほどの成果は上がっていませんが、いずれはこの三億円なんて目じゃないほどの利益が出ると思います。優秀な人材を輩出したならば、国からの支援も期待できますね」


「そうでしょうか……?」


「ええ。まず、走り出すことが大切なんです。エンジンがかかればどこまでもいけるはずです」


はい、解決。


「亜人向けメニューについては、こちらで調査しておきますので、しばらくお待ちになっていただけたらと思います。この問題については、私の伝手が使えますので」


「はい!ありがとうございます!」


伝手?亜人研究会だ。あそこに乗り込んで、大倉教授を巻き込み、亜人向けメニューを考案しよう。


そして次は……。


「で、卸業者について、ですが……」


「伝手はありますかね……?」


「ないですね」


「そう、ですか」


「まあ、なければ作れば良いだけじゃないですか」


「え?」


「いや、だから、卸業者を作るんですよ」


「………………はい?」




俺は世界各地を巡る。


まず、天海街の農家からだ。


「すいません、わたくし、こう言うものですが」


「はい……?」


「実は、ここの野菜や穀物を定期的に売って欲しいのです」


「は、はあ。そりゃあ、買ってもらえるんならいくらでも売りますが……」


「ありがとうございます。詳しい売買契約の方を……」


その後も、亜人集落などを巡り、海外にまで手を伸ばす。


そして、静馬市にあるエルフの里から、使えそうなエルフを引き抜き……。


「今日から君がこの会社の社長です。頼みますよ、ローゼリンデさん」


「はい!」


ローゼリンデというエルフの女を社長に任命。


『食品会社トラッシュ』……、開業だ。

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