第102話 一般通過冒険者のお話 その三

俺の名前は伊藤和雄!

 

レベル二十五の冒険者だ!

 

司祭の水樹、魔法使いの恵、騎士の暗子とパーティを組んで、仕事に励んでいるぜ!

 

それより聞いてくれよ!


最近、天海街……、いや、天海王国にタクシーができたんだよ!




ここ最近の天海王国の拡張はマジでスゲーよ。


最初は、温泉街である天海街一つだけだったんだけど、隣の地陰街を吸収合併し、なんだかんだで天海街がある銚子市を全域支配。


その後、じわじわと支配領域を広げていき、最終的には千葉県の半分と茨城県全域を支配したんだよな。


亜人さん達から見れば、こりゃもう国だってことで、『天海王国』だそうだぜ。


まあ、そりゃそうだよな。


絶対的な支配者である『ムンドゥス』がいる訳だし、亜人から見りゃこりゃもう国だ。


今、天海王国の国民は二百五十万人行ってるらしいな。


それに、一万五千を超える管理ダンジョンに、東京方面に行けばアホほど未管理ダンジョンがある。


ああ、管理ダンジョンってのは、素材採取やらなんやらのために、あえて攻略されてないダンジョンのことな。


最近はめっきり、仕事は管理ダンジョンで間引きや素材採取やらだな。もうこの辺に野良モンスターは出ねえよ。




でさあ、やっぱりね、移動がめんどくせーのよ。


いや、もちろん、俺も腐っても冒険者だぜ?


だから、その気になればちょっとした原付より早く走れるし、全力で走っても体力は三時間くらいは保つんだけどな?


でもさ、やっぱ、街中でそんなスピードで走っちゃダメだろ?疲れるのは疲れるしよ。


そこで、今回のこのタクシーだよ!


ありがてえ!これで遠くのダンジョンまで遠征ができるぜ!


……まあ、やっぱり、案の定、タクシー会社はチーム廃棄物の会社だったんだがな!


知ってた。


……マジであの人らなんなん?


ヤベーっしょ……。


俺、中卒ニートだから、ケーザイとかはよくわかんねーけどさ、なろうでやるようなレベルの改革っぽいものは大抵やってるっぽいらしいし、その上で、ネットとか冒険者用品店とか、輸送とか、そういう……、国のやるような事業をやってる訳じゃん、あの人らは。


つまりさ、国くらいつえーんじゃねえの?力じゃなくって権力がさ。


だって、ワープゲートは持ってるだろ?冒険者用品店もある。流通は全部支配してる。新聞も支配してて、ネットも支配してる。ついでに言えば、色街も。


これさ、完全にさ、ヤベーじゃん。


だってさ、ネットとか新聞を支配してたら、情報統制っての?できるじゃんかよ。


しかも、流通を支配してるから、ムカついたやつには荷物が届かない!とかできるんでしょ?


これ、ヤベーってマジで。


この街で生きられるかどうかって、ムンドゥスの気分を悪くしないやつだけってことだろ。


……でも、みんな分かってて何も言わねえ。


だってよ……、怖いじゃんか。




まあ、それはいまに始まったことじゃねーもんな。良いとするか。


それより、タクシーだよ、タクシー。


ケンタウロス・タクシーの名前で開業したタクシーは、インターネットや新聞で広告を出されて、誰もが知っている。


いや、チーム廃棄物はインターネットも新聞も全部支配してるから、好きな広告を好きなだけ打てるんだ。


因みに、インターネットについては、広告は全てチーム廃棄物の支配下にある企業か、金を払った企業の広告かのどちらか。検索エンジンも、今はもはやググーレもヤホーもないので、チーム廃棄物が作ったやつ。


ま、そんな感じで、広告がたくさん出てるから、みーんな知ってる。


まあ、元から、天海王国に移り住んできたケンタウロスは多いから、受け入れる土台はあるんじゃねえのかな。


例えば、飲食店のメニューなんかで、草食獣系亜人種向けメニューとかがあるんだぜ?


商魂たくましいってのかねえ……、商売人ってスゲーわ。


まあ、何にせよ、いきなり国民が増えてもセーフっぽいな。


その辺は元老院が考えてくれるだろ。


さあ、タクシーに乗ってみるぜ!




タクシーは……、うーん。


「中世ヨーロッパ?」


「馬鹿だな、和雄は。あれは、西部開拓期の駅馬車がモデルだろう」


暗子が言った。


「西部開拓期って……、ああ、ウエスタン的な?」


「うむ、ここに、『ガーベージ・オーバーランドメール』と書かれているだろう?これは恐らく、アメリカの国土横断の駅馬車である、バターフィールド・オーバーランドメールのパロディだろう。そして、赤の車体に金色の文字なのは、ウェルズ・ファーゴのパロディだな。ウェルズ・ファーゴは昔は金融ではなく駅馬車運行業をやっていたらしいからな。うーむ、ムンドゥス殿は相当に学があるな」


「へー、俺は中卒だから良くわかんねーや。ま、使えるならそれで良くね?すいませーん!乗れますかー?」


「おう!乗れるぜ!」


ケンタウロスの男に話しかけると、乗って良いと言われた。


馬車のドアを開いて中に入ると……。


「あ、普通にタクシーですね」


恵が言った。


「へー、タクシーってこんな感じなのか。まあ、メーターに降車ボタン、車体の上と後ろに荷台があるのは良いとして、椅子とかも車っぽいし、タイヤもゴムだな」


「いや……、何でタクシーが分からないんですか、和雄は」


「しゃーねーだろ、俺は元ニートだぜ?」


「自慢げに言うことですかそれは……」


タクシーは四人乗りで、座席は二席ずつ向かい合うように配置されている。


タクシーに乗って、と。


おっと、その前に料金表見とこう。


えーと、初乗料が一キロまで千円で、以降二百メートルごとに百円、か。


「これって高いのか?」


「結構高いですね。近場に行くだけなら歩けということでしょう」


なるほどなあ。


でも今日は、俺達は、二十五キロメートルくらい先のダンジョンに日帰り遠征するからな。


往復で五万円くらいするけど、遠征先のダンジョンでは六十万円を超えるくらいは稼げる見込みがあるから、利益はバッチリ出るぜ。


「行き先は……、って、これ、タッチパネルで行き先を選択するのか。カーナビみたいだな。えーと、鹿嶋市の……」


すると、ケンタウロスの男の目の前に、赤い光の矢印と線が出る。


何だあれ……。


いや、でも、できるか?魔法でできるだろうな。


「よし、出発するぞ!」


ケンタウロスは、その光の線の上を、矢印に従って走り出す。




うーん、こりゃスゲーな。


マジで快適なタクシーだ。


移動が楽になって、大助かりだぜ。

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