第101話 陸運隊講習会

ケンタウロス族の出稼ぎに来た若い衆に、たらふく飯を食わせてやった。


こいつらの価値観では、支配者=飯を食わせてくれる人、である。


ワーウルフでは、支配者=強くて賢い人、であり。


エルフやエントでは、支配者=賢い人、だ。


デーモンは、支配者=魔法が上手い人、で。


エンジェルは、支配者=徳の高い人、である。


オーガなんかは、支配者=強い人、なんだよな。


まあ基本的に、草食獣系亜人は、支配者=飯を食わせてくれる人、であると思ってもらって結構だ。ある種、日本人的かもな。


なので、こうして、うまいものをたらふく食わせてやった俺は、ここにいるケンタウロス達の心を掴んだのだ。


つまりはハートキャッチ。


「プイキュアはスマイルが一番可愛かっただろ!!!!」


『えっ?!どうしたんだ?!』


ヘレナに気遣われながらも、業務内容の説明を始めた。




『えー、ケンタウロスの皆さんには、荷運びと人運びをやってもらいます。こちらに用意した馬車で、荷物や人を運ぶのがあなた方の仕事です。使い方は、これからこちらの社員が説明します』


カッコいい馬車を見せる。


『『『『おおー!』』』』


好評だ。


ケンタウロスはパワーはあるがそこまで器用じゃないらしく、荷運びには、人のうち捨てたボロボロの馬車や猫車を修理して使ったり、ドワーフから物々交換で買い取ったりしたものを使っていたようだ。


新品の馬車を牽けるのは嬉しいそうだ。


『給料は、月に手取りで四十万円を支給します。それと、社員食堂は完全に無料で弁当も用意します。あー……、そうですね、この給料なら、子供を二、三人なら養えると思います』


『『『『おおーっ!』』』』


『年間休日は百二十日、完全週休二日で、残業時間は月三十時間以下を約束しましょう!』


『『『『????』』』』


え?その辺、大事じゃないのか?


『休んだら糧が得られないではないか』


とヘレナ。


『まあ、働きたいなら働いても良いが、俺は有給を用意すると言っているんだ。まあ、年に十日くらいだが』


『有給?』


『あー、働かなくても給料が貰える日だ』


『……?!?!!??!?!』


そんなに驚くことか?


いや、そういうもんなのか。


『例えば、怪我や病気で働けない日があったとする。その日に有給をとれば、働かなくても給料が貰えるんだ。ただ、何度も使うことはできない。年に十日から二十日くらいだ』


『な、なんだそれは?!!それは……、何だか、ずるくないか?!!良いのか、そんなの?!!』


『労働者の権利だ』


労働者の権利を守る姿勢を見せておかないと、資本家は守られないからね?国とか法とかから。実際にどうなのかは抜きにして、そういう姿勢は大事だ。




と、まあ、次は馬車の使い方を教える。


何千ものグループに分かれて、使い方を覚えさせる。解説役はうちの社員と俺。


『えー、まず、ここがブレーキで、こっちがサイドブレーキです』


『ブレーキ?』


『普通のブレーキは、ここを握ると使えます。使うと、馬車の車輪がロックされ、止まる時に便利です。サイドブレーキは、駐車した時に、馬車が動かないようにできます』


実際に、タクシー型を使わせながら実習。


まず、最初にブレーキの使い方から。


まあ、ケンタウロスは走りのプロであるからして、アクセル……、走ることについては問題ないだろう。


そして、集金装置の使い方を教える。


集金装置は、コインとお札を入れる電子機器を、雷魔石カートリッジで動かすものだ。


自動で金をカウントし、自動で釣り銭を出すから、信頼性バッチリ。


そもそも、メイドインシーマだから、その辺は抜かりない。


何故こんなことをするのかというと、ケンタウロスは基本的に、複雑な金勘定ができないからだ。


いや、できないというのは正確じゃないな、習っていないのだ。


四、五桁の計算とか、ケンタウロスはできない。


そもそも、自然とともに生き、農耕をして暮らす民族であるからして、千を超える数を扱うことは基本的にない。だから習ってない。当然のことだろ?


もちろん、ケンタウロスにも賢人はいるし、そいつらは計算もできるだろうが、ここに集まった出稼ぎの若い衆には、そんな能力はない。




そして、業務規定を叩き込む。


ついでに言えば倫理観も。


肉食獣系亜人は、割と、「いや、ぶっ殺して奪えば良くない?」みたいな思考回路のやつも多いのだが、草食獣系亜人は、「自分で作った方が安定する」って感じなのだ。


だが、群れで生活するので、「所有」の概念が曖昧で、その辺にあるものを拾って自分のものにすることが多い。


町先に陳列されているものを勝手に持っていってしまうのだ。


これはまずいので、徹底的にその辺を教え込む。


いや、新人研修なんてアホみたいなこと、俺はやりたくないので、雇ったエルフにやらせてるんだが。


エルフは使えるねー、殆ど人間と同じ倫理観だ。明文化された法律も持ってるし、文化政経については、こっちの世界の後進国なんかよりよっぽど進んでいる。


哲学分野や教育分野についても結構進んでいるらしく、野蛮なケンタウロス達に過不足なく教育を施してくれているようだ。




そして、七月……。


運送会社ガーベージ。


陸運部門、開業だ。

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