第100話 ケンタウロス陸運隊
村上には、少々無理させて会計員を揃えさせた。
労働基準法ももうないんだから、奴隷のように鞭打って働かせても良いのだが、村上のような色々と都合の良い人材を使い捨てるのは馬鹿のやること。
トカゲの尻尾とは言ったが、逆に言えば、つまり身体の一部。ギリギリまで捨てはしない。
最低限、家に帰って寝られるくらいには残業時間を配慮する。
しかし、この一週間は納期寸前の三流IT企業並みの労働を強いてしまったので、しばらく休ませてやることにした。
それと、特別ボーナスも。こっちが無理を言って働かせたのだから、それくらいの仁義は見せてやる。
ケンタウロスは、ヘレナと交渉した結果、出稼ぎの若い衆をたくさん集められた。
他の部族を回ったりなんだりで、二万人は集まったかな?
馬車も完成。シーマの引いた図面は、強度計算などもバッチリだ。スキルを使って引いた図面だ、そうそう問題は出ない。
そして、シーマがスキルで一瞬で作った魔導馬車をスキルで複製。
なら最初から魔石駆動の魔導車とか作れよと思われるかもしれないが、それはまだ早い。
交通網整備やら信号機やらがまだ復活していないし、モンスターに襲われる可能性もあるから、ある程度の戦闘能力があるケンタウロス族に馬車を牽かせる方が安全なのだ。
信号機はもう仕方ないので、主要な道路のみに、手旗を持ったバイトを置こう。そもそも総数もそんないないから、渋滞とかもしないだろ、多分。
あ、そうそう。
これを機に、ガーベージの従業員に亜人を混ぜることとした。
エントやエルフの会計人、ハーピィの配達員、ケンタウロスのタクシー、ドワーフの整備員……。
外国人採用枠って訳じゃないが、更に亜人を経済域に組み込む為だ。
現在、天海街は拡張に拡張を繰り返し、千葉県の一部と、茨城県全域を支配している。
とは言え、主要な地は、千葉県と茨城県の県境にある天海街と、学院のある地陰街であり、市民が多いのは茨城県一帯だ。
通常、この領域は天海王国と呼ばれている。
人口は亜人含めて二百五十万人ほど。
日本人と在日亜人の一割くらいが天海王国に住む計算だ。
因みに、国王は俺と言うことになっている。
だがまあ、主に俺を国王扱いしてくるのは亜人のみなんだがな。
さて……、こんなもんか。
早速、ケンタウロス車が実用化された。
企画から人員物資を集めて開業までほんの二週間くらいだが、細かな調整をするのは俺の仕事じゃない。
俺はただ、思いつきを圧倒的な資本(魔法などのスキル含む)で無理矢理実現して金の稼ぎ口を作り、そこから湧き出る金を使って、稼ぎ口の整備保守点検を他人にやらせているだけだ。
で……、ケンタウロス車は、降車の為のブザーや、移動距離を測るメーター、集金装置、操縦者兼エンジンのケンタウロスが握って使うブレーキのある、金属フレームの馬車だ。もちろん、揺れないようにサスペンションの類も付いているし、タイヤはゴムに近い錬金物質製だぞ。
見た目は、中世ヨーロッパというよりも、西部開拓期のアメリカって感じの馬車。帆馬車ではなく、駅馬車っぽいの。
バス馬車は、イギリスのあの、パプリカみたいに真っ赤なバスをモデルにした、洋風仕立てのバス。
何故そんなデザインなのか?
シーマの趣味である。
あの女は、ハイテックが好きな癖に、デザインは古い方が良いらしい。
好きな車は?と問いかけると、メルセデス・ベンツSKKなどと答える変な女だ。
俺?俺はシボレー・カマロとかロールス・ロイス・レイスブラックバッチとか持ってるよ。たまに乗る。
まあほら……、機能的にはバッチリだし、なんでも良いだろ。
むしろ、古臭いデザインの方が、このファンタジーと化した崩壊世界の雰囲気にマッチするんじゃねえの?いや知らんけど。
「セレスティア族、傍流含め一万千三百十人!ブランディ族、傍流含め五千五百四人!バーバリー族、傍流含め八千七百七十人!ジュリア族、傍流含め七千四百八十八人!……」
合計、五万人ほどのケンタウロス族の若いのを集めた。
全員に仕事をやるから可能な限り集めろと、セレスティア族族長の娘のヘレナに言いつけたら、馬鹿みたいに集まった。いや、鹿ではなく馬だが。
実は、セレスティア族は、ケンタウロスの氏族の中でも一番大きなリーダー的存在だったらしく、そのセレスティア族が音頭をとったから、こんなに集まったそうだ。
うーむ、これは大変だぞ。
とりあえず、遥々出稼ぎに来たケンタウロスの若い衆を労って、飯をたらふく食わせてやる。
ああ、ちなみにここは、成田空港だ。
成田空港は、建物と滑走路を接収して、株式会社ガーベージの本社とさせてもらった。
なので、ケンタウロスが五万人もゾロゾロと全然余裕な広さではある。
今、この成田空港、いや、ガーベージ本社では、ドワーフに作らせた煉瓦造りの竜舎(厩の竜バージョンだ)と、空港の建物を改装して作ったオフィス、倉庫がある。
この滑走路の部分で、ケンタウロスに今、飯を食わせている訳だな。
『んめ、んめ』『うまい!うまい!うまい!』『うんめえ!うめえなあ!』
因みに、食わせているのはケンタウロス用の特別メニューだ。
例えば、ワーウルフなんかは、ネギや辛いもの、チョコレートなんかを食うと、体調を崩すんだよ。
ああいや、もちろん、亜人は基本的に雑食なので、苦手なものでも馬鹿みたいに食べない限り、そうそう健康被害は出ないが。
でも、食べると体調を崩すものは、「何となく嫌い」「食べ慣れない」などと言った反応を返すことが知られている。
先日、ヘレナを口先で言いくるめて、色んなものを食わせてみたから、その結果から選定したメニュー。
内容は、大根粥、大麦パン、豆腐ハンバーグ、煮物、スイートポテト、スティック野菜、レタスサラダ、果物ってところだ。
お分かりだろうか?
そう、ケンタウロスの食性は、馬と一緒だ。
もちろん、肉が食えない訳じゃないが、あまり好きではないそうだ。
大根粥は昆布で出汁をとり、大根の葉っぱも入れた緩めの粥。鰹出汁はあまり好まない。
大麦パンは大麦百パーセント。小麦のパンはそこまで好きじゃないそうだ。大麦はケンタウロス族の主食で、粥やパンにして食べるとのこと。
豆腐ハンバーグは、豆腐とおから、たけのこや豆乳で作った精進料理もどきに、うっすい醤油と椎茸の戻し汁で作った刻み椎茸ソースをかけたもの。基本的に、濃い塩気はあんまり好きじゃないそうだ。病院食くらいの味の薄いものがいいらしい。
煮物。南瓜と大豆、えんどう豆の煮物。スッゲェお腹に優しい味。
スイートポテト。蜂蜜と豆乳で作ったやつ。これは大人気。
スティック野菜。セロリと人参。セロリっぽい野菜がダンジョンに自生していて、それを食べるらしい。
サラダ。キャベツはそんなにだが、レタスは好きだそうだ。
果物。果物は何でも食う。りんごが大人気。
基本的にこいつらは、こういうものしか食えない。
ネギや、ナス科、アブラナ科の植物は避けた方が良いらしい。馬じゃん。
そして問題は量!男なら、一度の食事で二、三キロぐらいは平気で平らげる!やはり馬。
うーん、これは、社食を格安で支給したりしてやらなきゃならないな。
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