第99話 サブクエストの始まり
MMORPGで例えるならば、サブクエストだ。
いかにも、って感じじゃないか?学院のお悩み解決!とか。本筋に関わらなそうな感じがね。
でも、この世界は、ダンジョンはあれども、悪の帝国やら魔王の軍勢やら、その手のメインクエストっぽいものは今のところないからね。
いやー、流石にそんなメインクエストはないだろう。
地球にダンジョンが現れただけでも厄介なのに、悪の帝国やら魔王の軍勢やらが来たりは流石にしないって。賭けてもいいよ、そんなことにはならない、絶対に。
さあ、アホくさいこと言ってないで、サブクエストをこなしていこうか。
「で、アジール女史」
「女史などと!恐れ多いぞい、陛下!」
「いえいえ、女史と称されるに相応しい、聡明なお方ではないですか!」
あ、口説いてないからね。これは本音。
「むふふ、照れるのう!」
照れるアジール氏。うんまあ、普通にかわいいね。性欲はあんまり湧かないけどね。
「それで……、本題ですが」
「うむうむ、分かっておるぞ。この学院の抱える問題について、じゃな」
「はい」
「まず、こちらでまとめた優先度が高い問題から解決してもらおうと思うが、良いかの?」
「ええ」
では、話を聞いていこうか。
「まず、差し迫った問題として、生徒や職員の登校に問題があるのじゃ」
ほう?
「この地球という世界では、黒油水……、ああ、そう、石油を使って動く『ジドウシャ』なるものや、『デンシャ』なるものを使って移動するそうじゃの?」
「ええ」
「じゃが、今はもうないんじゃろ?」
あー……。
「なるほど、移動が困難だと」
「そう言うことじゃな。移動が楽になれば、時間の余裕ができて、遅刻も減るし、昼休憩の時に遠くで食事をすることもできるじゃろ?」
なるほどなるほど、そりゃごもっとも。
さあ、どう解決するか……?
「分かりました、札束ビンタです」
札束ビンタである。
まず、シーマを叩き起こして、馬車の図面を引かせる。
「おはよう、シーマ。いや、もう昼だな、コンニチワだよ、コンニチワ。いい御身分だな、こんな時間まで寝ていて。勤勉な俺の爪の垢を煎じて飲むべきだな?」
「……ロシアでは一日中Здравствуйтеよ」
「嘘つけボケェ、Добрый деньの時間だろうが」
「はぁ……。で?昼間から人に嫌味を言いに来る自称勤勉野郎は、暇人の私に何の御用かしら?」
「図面を引け」
「何のよ?」
「馬車だ」
その間に、世界各地のケンタウロス族の集落を巡る。
まずは、アメリカ。テキサス州にある、グランドサリーン周辺に住み着いている大規模なケンタウロス族の集落からだ。
ここはまあ、グランドサリーン全域にケンタウロス族が住んでいて、その総数は数千人くらいはいくんじゃねえのかな?
『あ!タツ殿ー!』
んー?
『誰だ?』
『んなっ?!あの一夜の逢瀬をお忘れか?!私はセレスティア族の族長の娘、ヘレナだ!!』
あー……?
あー!
ミスリルの魔剣で身売りしてくれたあのポニテ美女ケンタウロスか!
『もちろん忘れていないとも!久しぶりだね、ヘレナ!』
『ふふっ、忘れていないか!嬉しいぞ、タツ殿!』
そう言って俺に抱きつくヘレナ。
うーん?
あの、これ、なんかこう……。
『いや、距離が近いんだが』
『それは当たり前だ、つがいだからな』
んー?
まあいいや、そう言うことにしておこう。
『実は、労働者の募集がしたくてだな……』
三日後。
運送会社ガーベージの名目上の社長(スケープゴート)である、村上芳雄を呼び出す。
「こ、これは羽佐間さん!な、何の御用ですか?私は何も悪いことはしていませんよ?!」
教師に呼び出されたガキのような態度で現れたこの小男が、社長の村上だ。
能力的にはそこそこで、決して使える人材ではない。
だが、この男は、自分の身の程を知っている。弁えているのだ。
だから、余計な野心を持たないし、言われたことのみをやる。
実に都合の良い傀儡だ。
一応は、崩壊前は大手運送会社の会計部部長であったからして、仕事そのものは普通にできるんだよな。
その癖、俺に首根っこを掴まれていて、俺がいつ切っても痛くも痒くもない存在であると、自分が蜥蜴の尻尾であると自覚している。
故に、首を切られないようにビクビクしながら、精一杯の力で組織を回している苦労人でもある。
使える人材ではない、が、ひっじょーーーに使いやすい。
頑張りに応じて、出来るだけ大事にしてやろうと思っている。でも困ったら切り捨てるんだが。
「村上社長。ガーベージで新事業をやります」
「は、はあ」
「タクシー業です」
「で、では、また、運転手と会計を雇う必要があると?」
「いえ、運転手はこちらで用意します。そちらでは会計と、馬車の掃除要員を用意してください」
「は?馬車……?」
ん?ああ……。
「はい、ケンタウロス族に馬車を牽かせて、人員や物資の運搬をします」
「は、はあ……?ええと、その、寡聞にして存じ上げないのですが……、ケンタウロス、とは……、あの、下半身が馬の?」
「ええ」
「となると、小さな馬車ですね」
「いえいえ、ケンタウロスは力自慢の若い奴なら、マイクロバスほどの重さを牽引できますよ」
それを聞いた瞬間、利益の匂いを嗅ぎつけて、即座に商売人の顔になる村上。
「……なるほど。それなら、充分に商売として利益が出るかと思います」
これだから、こいつは信用できるんだよな。利に聡い奴は使いやすい。
村上は、俺の提案を聞いて、即座に頭の中で算盤を弾いたんだろう。さっきまでの、親に叱られる子供のようなペコペコした態度は引っ込んで、仕事人の態度になる。
そりゃあ、いくら人手不足だからって、この俺が完全な無能を雇う訳がねーだろ?
もう、俺が雇う側なんだからな。
前みたいに、スポンサーという名の何も分かってない老害に横から手出しされることはない。
村上だって、見た目は草臥れたサラリーマンだが、俺が選んだ男だぞ?
無能な訳がない。
「例によって、馬車はこちらで全て用意しますし、当面の運営資金もこちらから支給します。即座に人員を集めてください」
「はい、直ちに」
そう、俺のプランは、ケンタウロスによるバス、タクシー。
ケンタウロスは、車くらいの速さで、マイクロバスくらいの重さのものを牽引できる。
これは、利用しない手はない。
ケンタウロス族を天海街の経済圏に引き摺り込めるだけでなく、雇用を生み出し、またもや俺の権力を増強できる。
やらいでか。
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