第91話 経過を見る
経過を見る。
北海道矢切市。
北海道冒険者連合……、別名、叉鬼衆は、矢切市周辺にあった最大のダンジョンを攻略した。
ボスは、大きさ10メートルを超える赤い熊、『赤王』、レベル62だった。
鹿児島県黒土市。
侍の集団、島津組は、黒土市最大のダンジョンを攻略。
ボスは、『牛鬼』、レベル63だった。
長野県長野市。
自衛軍は、長野、新潟の近隣のダンジョンを管理下に置いた。
山梨県芽久里市。
風魔忍軍は、芽久里市最大のダンジョンを攻略。
ボスは、『大百足』、レベル63だった。
広島県静馬市。
魔法使いの集団、マギ・エクセルキトゥスは静馬市最大のダンジョンを攻略。
ボスは、『キマイラ』、レベル60だ。
京都府京都市。
陰陽寮は、京都市最大のダンジョンを攻略した。
ボスは、『鵺』、レベル62だ。
つまり何が言いたいのかと言うと……、長野の自衛軍以外の日本のめぼしい組織は、全員フリーになったということだ。
モンスターは、強ければ強いほど、生まれたダンジョンから離れようとしない。それは、周知の事実であった。
そうなってくると、各地で、冒険者が余り始める……。
ただ強いだけの冒険者が地方で生きていくことは難しい。
今、日本では、贅沢なことに、「冒険者余り」が発生していた。
一方で、人口密集地であった、東京、大阪、名古屋、札幌、仙台、広島、福岡は、レベル80を超えるモンスターが現れ、事実上の通行不能状態。
そして、日本の大きなコミュニティは、近隣の大きなダンジョンは攻略してしまった。
となると、あぶれた冒険者達はどこに行くのか?
天海街だ。
天海街の周りには、夥しいほどのダンジョンが、モンスターがいる。
それを買い取るギルドもある。
更に、天海ポータルからの、海外への遠征も可能である。
強い冒険者ほど、地元では恐れられる。
地方都市では、強い冒険者に居場所はないのだ。
地方都市に疎まれた凄腕の冒険者達は、続々と天海街に集結した。
天海街には、冒険者の「居場所」がある。
代わりに、天海街には、弱い冒険者や、障害者の……、弱者の居場所はない。
つまり何が言いたいか?
「運送会社ガーベージ、人員輸送コンテナサービス開始!!!」
ガーベージの人員輸送コンテナサービスとは!
廃棄された自衛隊の人員輸送ヘリからローターを取り外し、強化ワイヤーでワイバーンにくくりつけたものである!
これで、地方から冒険者を集めるのだ!
島津組の一部、マギ・エクセルキトゥスの筆頭四導師含む半数、風魔忍軍の頭領含む半数、叉鬼衆の一部、陰陽寮の長を含む半数が天海街に集まった。
これからも、地元の低レベルダンジョンで力をつけた冒険者が、都会である天海街に移住するというサイクルが始まるだろう。首都である長野を差し置いて。
するとどうなるか?
外国との折衝や政治などの面倒ごとは全部国にやらせ、冒険者が集まり栄える都市は天海街になる。
利益だけを得て、義務は最小限に。
素晴らしい、これこそ理想の形だ。
面倒なことは全部他人がやり、俺は利益を得て、悠々自適な生活を送る。
下々の民が汗水流して働き、我々経営者が上前をはねる。
最高じゃないか!
最近はダンジョンの増加も落ち着いて、俺達チームクズの高レベルダンジョンの間引きも、週一から二週間に一回に減った。
週一の会合も、天海ポータルを堂々と繋げたことにより、いつも会うようになったので、やらなくなった。
その代わりに、余った時間は、屑籠屋と運送会社ガーベージの運営に回している。
何気なく忙しいのだ。
まあ、5時上がりで週休は3日取ってるけどな!
その内、週に三日間は、趣味の喫茶店経営をやっているので、実質週一でしか働いていない感覚だ。
それでも生活できるし、何も問題はないのだが。
そう……、そして今日は喫茶店オープンの日。
すると……。
「失礼します」
おや。
「いらっしゃいませ、『黄昏の魔女』」
静馬市から来た黄昏の魔女だ。
垂れ目がちのセクシー巨乳美女、良いねえ。
「え?その……、貴方と会ったことはないと思いますけれど、どうして私が黄昏の魔女だとお分かりになったのですか?」
「さあ?どうしてだと思う?」
黄昏の魔女は、少し思案して、言った。
「……つまり、詮索するなという事ですか?」
「どうでしょうね?」
俺は適当に流して、コップを磨く。
「ミステリアスなお方なんですね……」
感心したように呟く黄昏の魔女。
セクシーだな。
「それで、注文は?」
「注文?」
「ここは喫茶店ですよ」
「私が聞いた話によると、世界最強の、『BIG4』と呼ばれる冒険者さんが経営する、週に3日しか開かない世界最高の飲食店にして、『BIG4』や世界のトップ冒険者の集まるサロン、と聞いたのですが」
そうなの?
「それで、今日は、この街の支配者であり、BIG4の一角である羽佐間さんにご挨拶をしに来たのですが……」
「はあ……?」
「何でも、異名持ちの冒険者は、ここに挨拶しにくるのが礼儀だとか」
は?
何それ?
そんな話になってんの?
俺の関与してないところで謎ルールできてるのは笑えるな。
まあ、害はないしどーでもいーわ。
「そうですか。ところで、そろそろお昼ですね」
「はい……?」
「昼食は摂りましたか?」
「あ、いえ、まだです」
「では、昼食はいかがですか?」
「まあ、良いのですか?」
「ええ、丁寧に挨拶しにきて下さった美しいお客様ですから、本日は私の奢りで」
「そんな、悪いです」
あら、良い子だな、遠慮もできるのか。
「分かりました、まあ、うちはそんなに高くないので、是非食べて行ってください」
「わ、分かりましたわ。では……、何かいただきますね。メニューはありますか?」
「ありませんよ。何が食べたいですか?」
「ええと、甘いものはありますか?」
「ふむ……、パンケーキなどはいかがでしょう?まだ少し肌寒いですが、熱々のパンケーキにアイスも乗せて、チョコレートソースもかけますよ」
「お願いします」
まあ、パンケーキなんて焼くだけだからな。
「紅茶にしますか?それともコーヒー?」
「え……、あるんですか?」
「何でもあります。安物の缶コーヒーから、スリランカ産の最高級茶葉まで、何でも」
「では、アールグレイを……」
「……美味しい!」
「ありがとうございます」
「あの、お代は……?」
「うちのランチは計算がめんどくさ……、大変なので、一律五百円です」
「えっえっ?ご、五百円ですか?!そ、その、失礼ですが利益は……?」
「そんなもの、どうでも良いじゃないですか。趣味でやっているんですから」
「な、なるほど!その財力も、BIG4の一角である者の力なんですね!」
なんか、勝手に納得したようだ。
「是非、また来てくださいね」
「はい!ありがとうございます!」
はー、俺に挨拶ねえ。
だから最近、色んな奴が来るんだなあ。
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