第92話 天海新聞社

天海街の食料事情は、大体どうにかなっている。


今や、500円玉を握りしめて牛丼屋に行けば、大盛りの牛丼が一杯食える。


つまりは、崩壊前と変わらないくらいに、食料事情が改善しているのだ。


農業、漁業、鉱業、林業。


コーリン・クラークの示す一次産業は充実している。


全ては、ダンジョンのおかげだ。


天海街の周辺には、実に多様多種なダンジョンがあり、管理下に置かれている。


ダンジョンを維持して農園にしたり、ダンジョンでとれる山菜(ダンジョンの中に山があるのだ)や野草の類をとったりする。なお、ダンジョン産山菜野草も結構美味い。


そうじゃなくても、天海ポータルを通って外国から小麦や野菜が届く。


運送会社ガーベージから、日本各地の名産品や野菜も届く。


魚がとれるダンジョンもある。正確には、魚型のモンスターがいるダンジョンだな。海ダンジョンなどもあるので、それっぽい魚がとれる。


天海ポータルからは、主にヨーロッパ産の魚が流通。


ガーベージによる、日本の魚も多数流通。


鉱物がとれるダンジョンもある。余談だが、鉱物資源がとれるダンジョンでは、大体メタル系ゴーレムとかが出る。そして、メタル系ゴーレムのボディは金属なので、適当な冒険者がゴーレムのコアを吹っ飛ばして、ゴーレムの鋼鉄ボディを拾って帰ってくるそうだ。


そうじゃなくても、ダンジョンの鉱物は、掘っても段々と再生していく。なので、実質無限に鉱物が得られる。


鉱物資源は、ガーベージから、主に山梨県芽久里市から届く。


林業については、ダンジョンの森から適当に伐採して持ってこれば良い。


トレントから作られた紙は、新日本円の紙幣にも使われるくらいに丈夫だし上質だ。


ならば、製造や建設、電気にガスなどの二次産業は?


大工などの人員はいるし、電気ガスは魔石発電で、因みに水道はスライム下水道で代替している。錬金術師や薬師もいるので製造業も回っている。


大工や施工管理者など、その手の人間は割と多い。天海街には十万人を超える人々がいるのだ、その手の建設のノウハウを持った人間も当然いる。


機材が動かない問題も、魔石発電で解決した。


電気ガス石油は、魔石発電で代替し、ガスと石油はなんと、ダンジョンからとれちゃうのだ。少量だが。


しかし、ダンジョンに機材を設置したら、ダンジョンに「食われる」から駄目だ。


農園として使用することは可能だ。作物には生命があるからな。だが、生命のない機材や、魔力の少ない物質はすぐに劣化して土に還ってしまうのだ。


だから、ダンジョンの石油を採掘するとなると、魔法金属製のプラントを作る必要があるが……、コストがかかる。


首都長野では、数機だけだが、総アムドライト製の石油採掘プラントがあり、それを使っているらしい。


天海街でも、同じようなものが二機稼働している。なんか知らんけど政府がくれた。何でだろうなあ?


製造業については、中級までの鍛治魔法を操る鍛冶屋、魔導具職人、薬師、錬金術師などが幾人か存在する。


例えば、屑籠屋で売っている武器なんかは、ダンジョンの宝箱やモンスターからのドロップアイテム以外にも、ヴァイスベルグのドワーフから買い取ってそれを売っている。


薬品は静馬市から買い取って売るし、工業製品は長野から買い取っている。


こんな感じで、天海街の産業には余裕がある。


これからは三次産業が発達すると思われる。


その中でも、今回は……。


「何だこりゃ?天海新聞……?」


マスメディアの発達だ。




今、俺の手元にあるのは、天海新聞という、A2サイズの紙束だ。


どうやら……、天海街の有志が集まり、新聞らしきものを書いているらしい。


ふむ……。


利権の匂いだ。


俺達、チームクズは、天海新聞社に乗り込んだ。




「ひっ!な、何ですか?!」


「これを書いたのはお前か?」


丸眼鏡の、気の弱そうなヒョロガリ男に話しかける。


「ひいぃ〜!す、すみません〜!」


男は、半泣きで土下座をした。


「いや、待て、怒っている訳じゃない」


「そ、そうですか?」


「お前、名前は?」


「東啓介です……」


「この新聞だ」


「わ、私達の新聞が何か?」


「内容は同人誌レベルだが……、情熱は感じられるし、書いてあることは嘘じゃない」


「わ、分かってくださいますか?!ありがとうございますぅぅ!!!」


「だから、出資させてくれ」


「はい?!」


俺は、目の前に新日本円の万札の束を出して、押し付けてやった。


「もっと人を集めて、大規模な会社にしろ。俺が社長だ。お前は編集長」


「は、ええっ?!」


「問題はあるか?」


「い、いえ、ありません……」


「これは俺の名刺だ。何かあればこれを見せろ」


「は、はいっ!」




東は方々を駆けずり回って人員を集めて、天海新聞社を結成。


週刊新聞を発行することになった。


そんな新聞を読んでみる……。




『天海新聞 5/19(月) 天海新聞社


《元老院、今年も夏季の営業時間自粛を要請》

今週、天海街元老院は夏季の営業はできるだけ、日中の間は室内で行うことを提言した。

天海街市民の皆さんも、日中の外出は控えて、早朝、もしくは夕方に活動しましょう。

また、冒険者の皆様におかれましては、不要不急の冒険は控え、出歩く場合は、スポーツドリンクなどを持ち歩くようにしましょう。


《氷魔石、屑籠屋にて販売中》

夏の暑さを感じる日々が近い。熱中症の危険は常につきまとう。

氷属性を封じ込めた氷魔石なら、持ち歩くだけで一日中ひんやりとした冷気を放ちます。

氷魔石を組み込んだ肌着なども、熱中症対策に有効です。

氷魔石製品は、屑籠屋にて販売中。


《広告》

・屑籠屋

夏の冒険者はこれで決まり!最新肌着!

・運送会社ガーベージ

人員輸送サービス、始めました

・来々軒

冷やし中華始めました

・久慈屋

アイスクリーム大安売り!』




「ふむ」


上出来だな。


スポンサーの特権として、屑籠屋と運送会社ガーベージのダイレクトマーケティングを行なっているが、効果が出るかはまだ分からない。


しかし、三つ目の会社を手にしたことにより、利益は増えるはずだ。


赤字出すなら切れば良いしな。

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