第88話 広島県静馬市
広島県静馬市。
広島の海沿いにある学園都市だ。
流石に、旧帝大のような高い学力がある訳ではないのだが、層が厚いのが特徴だ。
商業高校、工業高校、専門学校。
医大、美大、体育大、工業大。
色々な学校が集まった学術都市である。
知識人も多く在籍し、学生向けのレストランなどに勤める社会人も多い。
学生が欲しがるものを売っている店は大抵揃っているし、住宅地も多い。
しかし何より、学生が多い。
その人口は崩壊後でも二十万人を超えるそうだ。
現在、この静馬市は魔法都市と化している。
学生達が魔法を覚え、魔法使いとして街を防衛しているのだ。
これは、俺が伝え聞いた、魔法使い達のこれまでである。
五条院椿という女がいる。
大学にて天文学を修め、博士課程を修了した女だ。
おっとりとしていて、知的な垂れ目の美女である。
子供や可愛いもの、それと何より星が好きで、望遠鏡を抱えて夜な夜な外に出るような陰気な少女時代を過ごした割には、社交的で明るく、優しげな女であった。
また、スタイルも抜群で胸もデカイ。豊満ってやつだな。その上、良家のお嬢様で作法もバッチリ、上品。
卒業後はアメリカの研究所で働く予定だったが……、世界は崩壊した。
街の様子は変わり果て、人々は死に。
椿は思った。
私が救わなければ、と。
世界を今一度元どおりにして、星を見て、研究をして暮らしていたあの日常へ戻るのだ、と。
故に、椿は、世界崩壊により現れたエルフの魔導師達に師事し、僅か一年に満たない期間で、『黄昏の魔女』の称号を得るまでに至った。
魔術はスポーツのようなもので、センスと研鑽の両方を必要とする。
しかし、たまにいるのだ。
椿のような、稀代の天才が。
『NAME:五条院椿
TITLE:黄昏の魔女
RACE:人間
AGE:24
SEX:女
JOB:魔女
LEVEL:50
HP:105
MP:421
STR:85
DEX:97
VIT:74
AGI:101
INT:280
MND:150
LUK:18
CHA:19
SKILL
火属性魔法(上級)
光属性魔法(中級)
星辰魔法(中級)
回復魔法(下級)
薬品作成(中級)
魔導具作成(下級)
天文学(下級)
占星術(初級)
知力増大(中)
遠話魔法
生活魔法
鑑定』
椿は、この静馬市にある良家、五条院家の令嬢である。
五条院家は、この学園都市静馬街に多額の投資をしている資本家の一族だ。
明治の時勢に酒屋の三男坊から日本屈指の資本家までに成り上がった五条院家は、様々な分野に手広く投資する資本家であり、五条院グループは日本だけではなく、今や世界にまで浸透している。
まあ……、世界が崩壊した今、そんな肩書きに意味はないのだが。
実家の屋敷で荷物をまとめ、渡米の準備をしていた椿。
その時である。
街中に木が生えて緑が溢れた。
「きゃあ!何ですか、これは?!」
屋敷に被害はないようだが、少なくとも、窓から見える庭はめちゃくちゃだ。
椿が好きだった屋敷の庭は見るも無残な状態になる。
「お嬢様!とりあえず、リビングへ避難を!一箇所に集まりましょう!」
「え、ええ……」
使用人に呼ばれて、リビングで身内と集まる。
テレビのニュースでは、世界各地で、モンスターなる怪物が現れ、人々を殺して回っていると聞いた。
そうして、一晩、震えて眠った。
そして、次の日の朝。
「おい、誰かいるか?!」
誰かが訪ねてきた。
しかし、声は子供のそれだ。
「は、はい、どなたですか?」
「おお、おったか。妾はハイエルフの賢人、アジール・リリアーデ・テスタロッドじゃ。この地に住む人間達に、多大な迷惑をかけてしまっているそうじゃな」
意味がわからなかった。
ひょこっと現れたのは、小学生中学年ほどの年齢に見える北欧人のような少女。
但し、耳が長い。
「『前』の世界が崩壊してしまってのう、妾達エルフは、このチキューという世界に来てしまった」
「は、はあ……」
「つまりは、そう、妾達の管理ダンジョンの暴走のせいで、この街をこのような森にしてしまったのじゃ。その点においては、申し訳ないとしか言えないのじゃ」
「え、えっと、貴女が、世界をこんな風にしたのですか?!」
「いや……、そうではない。街が森になったのは妾達の不手際じゃったが、世界に現れたモンスターは別件じゃな。とにかく、詳しい話をしたいのじゃ。ここは危険じゃから、妾達の管理ダンジョンの中に来るのじゃ」
「は、はい……」
アジールは全てを語った。
だだ、それはシンプルな一つの言葉で言い表わせる。
『前』の世界が滅亡し、亜人達は、それぞれの種族が管理するダンジョンに篭り、逃げたこと。
異世界『コカティウス』は何らかの原因で滅亡したらしい。
直接的な原因は、星に太陽が落ちてきたことらしいが、何故コカティウスという世界に太陽が落ちてきたのかは不明だ。
亜人達は、一種の別世界であるダンジョンに逃げ込み難を逃れたらしい。
ところが、ダンジョンは何故か地球に転移して……、とのこと。
現時点では、何故地球に転移してきたのか、全く不明だそうだ。そして、コカティウスが滅亡した理由も分からず終い。
とりあえず、自分達エルフのダンジョンの流出現象により、街を駄目にしてしまった分、しばらくは支援をすると、アジールは言った。
これに対して、ふざけるなと憤る人もそれなりにいたが、そう言った人間に対しては、嫌ならば好きにしろとアジールは言い切った。
最低限、詫びはするが、自助努力を怠る奴はどうなっても知らないという方向だ。
それを聞いた椿は、アジールに尋ねた。
「自分の身は自分で守るべき、それは分かります。しかし、私は見ての通り非力で、恐ろしいモンスターと戦うことなどとてもじゃないですが不可能です」
「ふむ……、つまり?」
「先程、アジール様がお使いになった不思議な力……、あれは、魔法とお見受けします。あれを、私達も使えるようになりませんか?」
「ふむふむ……、よし、良いじゃろう。この、賢人アジールが、諸君らに魔法を教えてしんぜよう!」
アジールの指導は難解だった。
才能のないものはすぐについてこれなくなりドロップアウトし、才能がそこそこにあるものも、やがて他の一般的なエルフの弟子になった。
アジールの指導についていけた魔導師はたったの四人。
それぞれの魔導師は、『黄昏』、『黎明』、『禍時』、『薄明』の称号を得た。
『黄昏』は炎の魔女。
『黎明』は水の錬金術師。
『禍時』は土の呪術師。
『薄明』は風の魔法剣士。
それぞれが、並みのエルフを超える程の力を持ち……、学園都市の生徒達を、カリスマをもって支配している。
因みに、全員が学生である。
そんな中、『黄昏』の称号を得た椿は、良家の令嬢としてのカリスマで、若者達をまとめ上げ、人々を守るようになっていた。
しかし……、いかんせん、学園都市の静馬市は、食料が自給できない。
臨海部なので、魚は取れるし、エルフの管理するダンジョンからモンスターやある程度の食料は得られるのだが……、それでも、慢性的な食糧不足に悩まされていた。
だが、それもこれも、全て、この運送会社ガーベージの出現によって解決したのだ。
特に、若者が飢えるのは辛かろう。
それを解決したガーベージは大人気だ。
素晴らしい傾向である。
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