第86話 長野県長野市
長野県長野市。
世界崩壊の折に、日本人の多くは、モンスターの少ない田舎に避難した。
そんな中でも、日本の中央政府は、東京のモンスターと一当てし、勝てないと踏んだ。
政府と自衛隊は、野党の反対を押し切り、日本の自衛隊の過半数を生かしたまま、周囲を山岳に囲まれて防衛力が高いと考えられる長野県の盆地に撤退したのだ。
今思えば、それは英断であり、最良の一手だったとされている。
野党は、何も考えず自衛隊を投入しろと喚くばかりだったが、与党の◯◯党の総理大臣、跡部雄三は、モンスターに勝てないことを察すると、即座に撤退作戦を指示した。
そうして、長野県の長野盆地辺りまで自衛隊と政府関係者を撤退させたそうだ。
最初は立川に撤退していたのだが、東京はあまりにもダンジョンが多く、また、避難民の数もあまりにも多かった。
故に、長野の盆地に撤退したそうだ。
長野の人々はそれぞれ避難して、長野市はゴーストタウンになっていたらしい。
そこを、俺の訓練によりレベルを上げた特殊作戦群や自衛隊員が掃討して、ダンジョンを潰して生存圏を確保したそうだ。
そして、今年の四月には、野党を排除して、◯◯党の独裁政権となり、自衛隊を自衛軍に昇格し、軍事独裁国家となった。
今では、長野県全域と隣の新潟に、百万人近い人々が避難している。
これは、俺が伝え聞いた、自衛軍のこれまでである。
来栖志郎という男がいる。
特殊作戦群所属の軍人だ。
瘋癲、飄々とした雰囲気は、軍人というよりは旅人のそれである。
しかしその実、外国のPMC上がりの、本物の戦場を経験したことのある貴重な自衛隊員であり、ここ一番の勝負には強い男だ。
英語、フランス語、中国語を話せる上に、頭も良く、身体能力も高い、日本にいるのがもったいないくらいの兵士だった。
『NAME:来栖志郎
TITLE:一路順風
RACE:人間
AGE:28
SEX:男
JOB:侍
LEVEL:44
HP:125
MP:78
STR:140
DEX:124
VIT:129
AGI:197
INT:18
MND:69
LUK:12
CHA:15
SKILL
刀術(中級)
居合(下級)
柔術(中級)
銃術(中級)
火砲術(中級)
投擲術(下級)
空歩(下級)
瞬動(下級)
敏捷増大(小)
心眼(初級)
生活魔法
鑑定』
世界崩壊。
それはまさに、地獄であった。
「おいおい……、俺は今日は非番だぞ」
来栖志郎の趣味はサブカル。
良い歳して、漫画やゲームをするのが何よりも好きな男だ。
趣向的には格闘漫画や少年漫画など。FPSは仕事で嫌という程にやっているからやらない。
14番目のナンバリングタイトルのファンタジーなゲームなどのコアプレイヤーであり、今日は、少年漫画雑誌ジャプンの発売日であるからして、ジャプンを買いにコンビニに来ていた。
しかし、一瞬、世界が揺れるかのような錯覚の後に、ここ、東京で何かが起きた。
勘が鋭い者は気付いた。
言語化できないなんらかの変化を感じ取った。
この志郎も。
志郎の感覚が示すのは、ここがもう戦場であることだ。
戦場、否……、航空爆撃機の通過する致死のルートの上にいる。それ程の危機感を感じ取っていた。
志郎は、迷いなくコンビニに再び入店すると、刃物をあるだけ、新聞紙と瓶入りウォッカに猫砂で火炎瓶を作り、そしてビニールテープで買ったばかりのまだ読んでないジャプンを腹に巻いた。
その時である。
『ゲッゲゲ!』
緑色の醜い小人が、コンビニに入り込んできた!
その姿は、志郎の好きなファンタジーゲームの、ゴブリンそのものであった。
志郎は軍人だ。悪意と殺意には敏感だった。
錆びたナイフを無茶苦茶に振り回すゴブリンの一瞬の隙を突いて、ゴブリンの首を斬り裂いた!
『ギョエエ!!!』
赤黒い血液が舞う。
倒れたゴブリンの首を踏んでへし折ると、志郎は叫んだ。
「全員、避難しろ!立川の自衛隊駐屯地に逃げ込め!」
志郎は、街中に溢れ出したモンスターを火炎瓶やナイフで殺しながら移動して、駐屯地に戻った。
服を迷彩に着替えて、アサルトライフルを持ち、手榴弾を持って、仲間と出撃した。
戦闘ヘリのバックアップもある。
しかし……。
「は、はは……、冗談だろ?」
『グルルルル……』
東京各地に現れた、身長10メートルの巨人が。巨大な狼が。ドラゴンが。得体の知れない触手の塊が。
一斉に暴れ始めた。
「……終わりか」
同僚が言った。
だが、志郎はこう返す。
「市民が避難し終わるまで、俺達はここを守るぞ」
「バカ言え、死ぬぞ」
「お国のために死ぬのが兵隊ってもんだろ」
飄々としたいつもの顔で、志郎はニタリと笑った。
「生きて帰ったら酒でも飲もう、俺が死んだらジャプンでもお供えしてくれよ」
「チッ、とんだ貧乏くじだぜ」
そして、志郎は……。
『ガーッ……、ザザッ……、特殊作戦群!聞こえるか?!撤退しろ!立川に撤退するんだ!』
「ッ……!!!撤退だ!!!」
「「「「応ッ!!!」」」」
特殊作戦群の仲間達が半分ほどに減った頃、本部から撤退命令が発令された。
案の定、精鋭の特殊作戦群も、自衛隊のレンジャーも……、音速でソニックブームを撒き散らしながら動く、核シェルターよりも丈夫で、10メートルを超える巨大な怪獣を相手にして勝てるはずもなく、現行の兵器群はことごとく破壊され、半数以上の自衛隊員が犠牲になった。
しかし、自衛隊員は、死ぬ最後の瞬間まで徹底抗戦し、一人でも多くの市民を逃がすために戦ったおかげで、人間を襲う雑魚モンスターをほぼ壊滅せしめ、かなり多くの市民を逃がすことに成功していた。
幸いなことに、現行兵器が通用しない程度の強力なモンスターは、まだ数が少ない。初期はゴブリンやオークなどから氾濫し、数日後にもっと強大なモンスターが湧き出てきた故に。初期の強力なモンスターは、数が少なかった。
そして……。
立川自衛隊駐屯地周辺でキャンプをすることに……。
それからは苦難の連続だった。
足りない物資、戦力、他国の援助もなく。
自衛隊は孤立奮闘していた。
しかし、やられてばかりではない。
この俺、羽佐間義辰の協力により、いくつかのダンジョンの攻略、ダンジョンから採取された魔法物質の採取などで軍備を強化し、長野まで撤退。
長野を暫定的に首都とし、他国との交渉チャンネルを再度開き、周囲のコミュニティを吸収合併し……。
東京近辺の学者や研究者などの層も取り込むことに成功し、機材を集めて、どうにか薬品や武器なども生産し始めて……。
人材は多いが、養うための食料もギリギリ、そんな最中……、俺に頼んで、運送会社ガーベージをやってもらうことにした訳だ。
長野には最も多くの人材が揃っている。
日本の復興、頑張ってね(他人事)。
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