第85話 鹿児島県黒土市
鹿児島県黒土市。
人口十万人程の、九州最大のコミュニティだ。
特産品は『鬼黒土』と言うかなり強い芋焼酎で、酒飲みが多いらしい。
また、街中に剣道場や居合道場があり、武術の達人も多いことで有名だった。
例えば、ある道場の目の前に別の流派の道場が出来て、そのまま睨み合い、他流試合やら看板の奪い合いやらをしているような、好戦的な奴らが多いところらしい。
年に一度の喧嘩祭では、毎年百人近くが病院送りにされる。
これは、俺が伝え聞いたばんぞ……、侍達のこれまでである。
辺志切吉宗という男がいる。
示現流剣術の達人で、御齢五十六歳にして未だ現役。
剣術無双の武人である。
白髪の混じる黒髪を短めに切り揃え、猛禽のように鋭い眼に闘気を滾らせ、鍛え込まれた肉体は老いてなお健在。
その肉体は、生き様は、まさに一本の刀であった。
『NAME:辺志切吉宗
TITLE:剣術無双
RACE:人間
AGE:56
SEX:男
JOB:侍
LEVEL:54
HP:588
MP:157
STR:258
DEX:158
VIT:141
AGI:189
INT:7
MND:282
LUK:7
CHA:14
SKILL
示現流(上級)
神変自源流居合(上級)
空歩(下級)
瞬動(中級)
縮地(中級)
神降ろし・八幡大菩薩(下級)
神降ろし・武甕雷(中級)
神降ろし・不動明王(中級)
神降ろし・摩利支天(下級)
筋力増大(中)
心眼(中級)
生活魔法
鑑定』
辺志切吉宗は、息子の景光と義光の二人と共に、今日も剣術の稽古に励んでいた。
辺志切示現流道場は、突きあり足払いありの超実戦的な道場だった。この平和なご時世に何をやっているのやら。
しかし、その実戦的な道場の稽古は、これからの世界で活きるものだった。
世界崩壊……。
三月のとある日のことである。
まだ稽古をしている時間に、景光の幼馴染にして、近所の神社の娘、『益口命』が道場に怒鳴り込んできた。
「大変よー!!!」
「おう!みこっちゃん、どうした?」
吉宗は、息子の嫁になるであろう命に甘い。
色恋のことは分からなかったが、側から見れば、命が、景光に気があることはよく分かっていた。
吉宗も人の親である。息子の幸せを願っているのだ。
「おじさん!大変なのよ!ニュース見てニュース!」
「なんじゃ?地震かの?台風じゃろうか?」
「とにかく見てください!ほらっ!景光も!義光くんも!」
しっかり者の命が声を荒げている。その剣幕を見て、ただ事ではないと思った辺志切家は、一旦稽古を切り上げて、道場の剣士達とテレビを見たり、スマホを見たりし始めた。
「な、なんじゃ、これは?!!」
そして、テレビに映ったのは、醜悪なモンスター達が、東京の自衛隊や警察隊を食い荒らす姿であった。
戦争が終わって七十年、戦いでこんなに日本人が死ぬとは、という悲しみももちろんある。
しかし……、モンスターなるものの凶悪な姿を見て、辺志切家の者が思ったのは。
「「「斬りたい……!!!」」」
本当の殺し合いができる喜びであった。
吉宗は、凶悪な笑みを深めると、息子二人に声をかけた。
「景光!義光!」
「「応ッ!!!」」
「刀を持てい!征くぞ!!!」
「「応ッ!!!」」
街のど真ん中にできた穴倉から、緑の醜い小人や、醜く肥えた豚人間、赤い鬼のような化け物が山ほど現れる。
『『『『ゴアアアアッ!ガアアアアッ!!!』』』』
肌がひりつく、殺意の篭った咆哮の雨あられ。
それを身に受けながら、辺志切家の男は、息を飲んだ。
……ああ、楽しめそうだ、と。
そうでなくてはいけない、と。
「おうおうおうおう!吉宗殿!楽しそうじゃのう!」
「おいも混ぜてくれい!」
「カカカカカ!儂等もおるぞい!」
吉宗は笑った。
他の剣術道場の剣士達も集まってきたことを見て、「やはり、考えることは皆同じか」と思ったからだ。
「カカカカカカカ!こりゃあ楽しい!考えることは皆同じか!さあ、戦じゃ!戦をするぞ!」
「よか!鬼斬りじゃ!」
「クカカカカ!根伐りじゃ!撫で斬りじゃ!!!」
かくして、戦闘狂が勝手に、刀や和弓、槍に薙刀を振り回して、黒土市内のダンジョンは壊滅したのであった。
しかも、モンスターを斬れば斬るほど強くなれるとあらば、この黒土市のバトルジャンキー達が黙っているはずもなく……。
「儂思ったんじゃけど、この穴倉を壊さねで放っておけば、もんすたあ出るんじゃねか?」
「天才か?!」
などと言いつつ、黒土市外縁部のダンジョンを保護して。
「味噌で煮れば食えるべ」
「食える食える」
「えのころ飯じゃて」
ぶっ殺したゴブリンやオークを食い。
「酒と干し飯は持ったな?!遠征して戦じゃあ!!!」
「「「「応ッ!!!!」」」」
遠征を繰り返して、近隣住民の安全確保と生存域の拡大をした。
そして、酒造会社は昔ながらの方法で、機械を使わずに酒を量産して、それを住民へのせめてもの娯楽にと配った。
そして、息子の景光が、命を連れて、もっと戦える『天海街』なるところに行った数ヶ月後……。
我々、運送会社ガーベージが現れた訳だな。
ガーベージが現れたことにより、米やまともな肉類の輸入ができ、強力な武器も輸入できているので、助かっているとのこと。
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