第84話 北海道矢切市

現存している、北海道最大のコミュニティ、矢切市。


人口三十万人を超える巨大な街。


北海道の南側に存在する、山のすぐ近くにある街である。


この街は、日本一マタギの多い街とされている。


崩壊前は、女マタギの登場や、仕事を辞めてマタギになった人間なども多く、JHK放送局の特番、『マタギの流儀』はそれなりの人気を集めた。


その他にも、ユウチューブに狩りの様子を投稿するマタギなども存在し、街おこしの一部として、たくさんのマタギが在籍していた。


これは、俺が伝え聞いた、マタギ達のこれまでである。




立花万次郎と言う男がいる。


歳の頃は三十手前、マタギにしては若い。


まるで獣のように鋭い眼、そして髭面。短く刈り上げられた髪。それらは、本当の歳よりも老けて見える特徴だった。


しかし、背筋はまっすぐに伸び、筋肉に覆われた190cmもの肉体は、熊のようであった。


一見、プロレスラーや軍人のようにも見えるが、それにしては「鋭過ぎる」のだ。


戦う者ではなく、狩る者。


狩人の鋭さは、戦いに生きる軍人のそれよりも恐ろしい。




『NAME:立花万次郎

TITLE:ポンヤウンペ

RACE:人間

AGE:29

SEX:男

JOB:叉鬼

LEVEL:51

 

HP:511

MP:141

 

STR:207

DEX:278

VIT:103

AGI:141

INT:8

MND:205

LUK:7

CHA:14

 

SKILL

毒薬調合(中級)

薬品調合(下級)

神降ろし・大山祇(中級)

槍術(下級)

弓術(中級)

銃術(中級)

追跡(中級)

察知(中級)

器用増大(中)

心眼(下級)

生活魔法

鑑定』




立花万次郎は寡黙な男である。


まあ、生きるか死ぬかの山でペラペラと口ばかりが回る男などそうはいないのだが、そんな山の男の中でも、万次郎は殊更に無口な男であった。


万次郎の友人は、万次郎を見て、「まるで巌のような男だ」と評価した。


ゴツゴツとした拳、真一文字に閉じた口、岩のような筋肉。なるほど確かに、万次郎は言い得て妙だと、その評価を受け入れていた。


そんな軽口を叩く友と会って、次の日のことである。


万次郎が街から離れた山に入り、春の熊狩りをするところの話だ。


万次郎が険しい山を、相棒の北海道犬である『八郎』を伴って登り、熊をスコープに捉えた時。


「……なんだ、これは?」


山の匂いが変わったのである。


いつもの土とは違う匂いが、いつもの風とは違う風に運ばれて、万次郎の鼻孔をくすぐった。


万次郎は下山してから知ったのだが、それは、世界が崩壊した時の変化であった。


スコープに映る熊も、山の匂いの変化を感じ取り、すぐさま警戒態勢に入り、姿勢を低くしたまま走り去っていった。


「……くっ」


万次郎は、構えたライフルを下ろして、周囲を見回した。


「八郎、おかしな匂いがするか?」


「ウー、ワン!」


「そうか……、行くぞ」


万次郎は、おかしな匂いを追跡する。


八郎は、鼻をひくつかせて、空気の匂いを嗅ぎながら山を駆けた。




「ここは……」


隠して、万次郎がたどり着いたのは、山には不自然な穴倉。


熊が掘る巣よりも大きな、まさに洞窟といった風貌のそれである。


万次郎は、その洞窟に飛び込むべきか逡巡するが……、次の瞬間、万次郎に何者かが飛びかかってきた。


『ガアアッ!』


「……おおおっ!!」


万次郎は、咄嗟に、右足で蹴りを入れて、飛びかかってきた何者かを弾く。


『ギャオオオオオッ!!!』


万次郎の瞳に映ったのは、黒い体毛、人のような長細い腕、猿に似た顔つきの、まさに物の怪である。


この物の怪を見て、万次郎の心に、自己防衛本能から湧き出る殺意の雫が滴った。


万次郎の体は、殺意に突き動かされて、ほぼ自動的に動いた。


獣との戦いでは、殺すかどうかを迷っていては、こちらが餌になってしまう。


故に、万次郎の心はすぐに、この化け物を殺す方向に決まった。


万次郎はライフルを腰だめに構えて、牽制するように化け物の土手っ腹に一撃を見舞う。


『ガアアッ?!!』


叉鬼が狙うのは心の臓。獣の頭蓋は硬く、銃弾を逸らすからだ。


しかし、この化け物の心臓の位置など、万次郎は知らなかった。


故に、万次郎は、そのまま土手っ腹に何発か弾丸をぶち込んだ後に、山刀で化け物の首を切り裂いた。


『ガアーーーッ!!!』


大きな断末魔を上げて倒れた化け物に駆け寄った万次郎。


脳内に響く『レベルアップ!』の声を無視して、万次郎は、化け物の皮を剥いで腹を割いた。


「なるほど、ここが心臓、ここが……、肝臓か?」


化け物の心臓を割ると、中から透明な、人の親指程の石が出てきた。


心臓に石の詰まった獣など見たことはない。


「八郎、どうだ?」


「ワン!」


万次郎が八郎に石を見せると、八郎は石を飲み込んでしまった。


すると、八郎の身体が大きくなった。


万次郎も、それを見て驚いた。


「お前、大丈夫なのか?」


「ワン!」


しかし、八郎が大きくなったこと以外には異常が見られない。


まあ、なんにせよ、このような化け物は生かしてはおけないと思い、万次郎は洞窟に飛び込んだ……。




万次郎が黒い猿の化け物を殺し、山を下ると、街は大騒ぎになっていた。


街の人々が言うには、モンスターが全世界に現れたと……。


「モンスター……」


「万次郎!帰ってきたのか!」


万次郎を出迎えたのは、万次郎の竹馬の友にして、街で鉄工所を営んでいる、山崎春生という男である。


「春生」


「ああ……、それなんだが、色々な物の怪が世界中に現れて、人を襲っているそうなんだ」


「………………」


「東京は壊滅、札幌もほぼ皆殺しにされたみたいだ」


「……さっき、山で出たぞ」


「……なんだと?」


「人間の半分ほどの大きさの、黒い猿のような化け物だ。巣を見つけたから、壊してきた」


「……はぁ〜。お前ってやつはなんでこう、いつもいつも」


「山の匂いが変わった。他にも、モンスターという奴がまだ出てくるかもしれない。行ってくる」


「そう言うと思ったぜ、ほらよ!」


「これは?」


「俺が作ったフクロナガサの槍だ!棒には鉄芯を仕込んである!行ってこい!」


「……ありがとう」




マタギ達は、頭領の命令に従って、ライフル片手に現れたモンスターを壊滅させた。


弾丸が尽きた後は、山崎春生がモンスター素材で弓矢を作り始め販売していたそうだ。


だが、貯蔵されている燃料や資材も、この一年で切れてしまい、どうするかと途方に暮れていた頃に、運送会社ガーベージが現れた……。


おかげさまで国民感情は最高だ!


国からは搾り取っているが、民意は味方に付けたいとおもっていたところだったんだよな!


さあ、この調子でどんどん稼ぐぞ!

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