第83話 ガーベージと日本

搾取搾取〜。


愚民とおっぱいは絞らにゃ損だ。


もちろん、俺も国に税を納め、搾取される側でもあることを常に自覚しなければならない。


まあ、だからこそ、国の力も削いでいるのだが。


俺は、経営者、株主として、大きな権利だけは行使でき、責任は国がかぶる……、それこそが理想の形だと思っている。


いかに権利を手にできるか、いかに責任を逃れられるか。


その二つをバランスよく追求することこそが、できる経営者の仕事だ。


カッコ良く言えば、利益を上げ、リスクヘッジするってことだな。こう言うとなんか頭が良くなったかのように錯覚するだろ?詐術も経営者には必要なテクニックだ。


俺が相手していた無能な株主共は、適当な横文字を並べ立てれば、賢いことを言われていると錯覚して首を縦に振った。


世の中の大半のことは、思ったより、結論はシンプルだ。


だが、無能ほど、プライドやら何やらとくだらない足枷に囚われて先に進めないものだ。


それでも、世界にいる大多数の人間は無能だ。足下をすくわれないように気を張る必要がある、な。


今のような崩壊した世界では、世界を動かすのは一握りの天才だが、また人間が増えれば、世界を動かすのは大多数の凡人になるだろう。


そうなった時、凡人共に足を引っ張られないような、強大な利権を確保しておく必要がある。


さっきも言ったが、いつだって話はシンプルだ。


つまりは力……。


物理的な力は充分だ。


次は、金の力、権力……、そう言ったものを集めたい。


さて、今日は株主として、運送会社ガーベージの視察だ。


俺の権力を支えるのは人間と、その人間が作り出したシステムだ。


システムが、歯車が、プログラムが。


正常に動くかどうかは気になるだろう?




北海道矢切市。


北海道、東北は、その地域に住んでいたマタギ達が強かった。


マタギとは、漢字で書くと叉鬼。


鬼よりも強い、鬼の「また」強い者として、叉鬼と呼ぶのだ……、と言う説がある。


そんな鬼より強い奴らが、この終末世界をどうやって生き抜いてきたか……?


銃弾なんて、補給路がないんだからすぐに無くなっただろう。そもそも、モンスターは普通の銃では中々倒れない。


では何を使ったか?


毒を塗った弓矢と槍である。


トリカブトをすりつぶした毒薬に魔石粉を混ぜ込み作った毒は、レベル三十帯のモンスターにも充分に効く。


これを使って、次々と付近のモンスターを狩り、その肉を喰らい、生存権を確保していったのだ。


ああ、魔石粉入りトリカブトは加熱すると毒性が消えるそうだ。


そんなこんなで、叉鬼は、北の大地でモンスターを殺しまくり、安全圏を確保していた。


だが、物資がなくなってきてピンチだったのだが……。


そんな時に、我が社、運送会社ガーベージが現れた訳だな。


叉鬼の仕留めたモンスターの素材、家畜の肉、野菜類が売られている。




鹿児島県黒土市。


薩摩の民。


こいつらはキチガイだ。


何故か?


モンスターが湧き出た、世界崩壊のX DAYのあの日、剣士たちは、刀を持ってモンスターを撫で斬りにした。


怖過ぎる。


モンスターの血を吸うことで強靭になっていく刀や槍、薙刀。


それを駆使して暴れまくったのだ。


その上、「昔は犬も食ってたし」とか言いながら、ゴブリンやオーク、ウルフのようなモンスターまでバラして、鍋にして食うわ。


こんな状況でも機材を動かして、芋焼酎を作り始めるわで、大暴れした。


一瞬でレベルを上げた剣士達は、周辺地域から戦力を集めて、黒土市を国にした。


驚いたことに、九州で一番大きなコミュニティが黒土市だったと言うだけで、薩摩全体がそんな感じで、剣士のコミュニティを形成していた。


薩摩人は武器がなくても敵の武器を奪ったり、その辺のダンジョンの木を折って棍棒にしたり、最終的に素手で戦ったりする。


身体が動く限り戦う野蛮人だ。


野蛮だからこそ、崩壊後の世界でも楽しく生きてこれたのだろう。


そういう訳で鹿児島からは、モンスターの素材、酒、野菜、魚などを輸出。




長野県長野市、暫定首都。


暫定首都長野。


ここは、元々山岳に四方を囲まれた地で、防御力が高い。


東京その他から逃げてきた人々が集まってできた都市だ。


自衛隊が残り、政治家が残っている。


自衛隊は、前線で戦いレベルを上げているので、かなり強い。


この一年で、兵器工場や薬品工場、製紙工場などもできたそうだ。


そして、新潟周辺にタンカー船もあり、そこから、外国に行って小規模ながらも貿易をしている。


更に凄いのは、石油、石炭が産出するダンジョンを国有化したことだ。


このおかげで、割と余裕が出てきたらしい。


輸出品目は、石油、石炭、薬品、紙製品。そして、弾薬と銃も売っている。




山梨県芽久里市。


いや……、なんか……、俺もよくわかんないんだけど、この辺りには風魔忍者がいる。


本当にもう、全く分からんのだが、忍者のテーマパークで働いていた人達が、なんか色々と頑張ったら忍術が使えるようになったらしい。


風魔忍軍が無辜の民を守り、モンスターを狩っているとのこと。


謎だ。


俺にだって分からないことくらいある……。


主な輸出品は果物と鉱物、薬草やキノコ類など。鉱物や薬草はダンジョンでとれるらしい。




広島県静馬市。


この辺りは、ダンジョンのエネルギーの流出により環境が変化し、森になってしまった。


この辺のダンジョンにはエルフが住んでおり、静馬市の人間はエルフを頼った。


エルフはたったの数十年で死ぬ人間に対しても友好的で、色々な知識を人間に授けてくれた。


エルフは探究者だ。


学問の門は万人に開かれると思っている。


そして、静馬市の人間に魔法を教え、弓を教えて、錬金術や薬師の技、狩りの技を教えた。


代わりに、静馬市の知識人が、人間の持つ知識をエルフに伝えたそうだ。


それにより、魔法を扱えるようになった静馬市の人間達は、森の中で生きている。


輸出品は、魚介類、布、木材、スクロール、魔法薬。




京都府京都市。


まあ……、なんかまあ、ここも、俺は全くもってよく分からんのだが、陰陽師が湧いて出た。


京都市在住の寺の人が、現れたモンスターに対し、「急急如律令」と叫んで手持ちの除霊札をぶん投げたら、モンスターが焼殺されたらしい。


この事実は、京都の寺ネットワークに素早く拡散。


そして始まる陰陽師ハザード。


ダンジョンは人口密度が高いところに湧くのだが、京都にはそもそもあんまり人が住んでいない観光地だったからなのか、モンスターはそれ程湧いていないようだ。


集まった陰陽師共は、無駄にたくさんある除霊についての資料を引っ張り出して、ありったけの紙を呪符や式神にして、京都市周辺を要塞化。


周りのモンスターをぶち殺しまくっているらしい。


なんだこいつら。


輸出品は、京野菜、味噌、醤油、豆腐など。あと護符とか売ってる。しかも効果ある。




さて……、ワイバーン便はちゃんと届いているみたいだな。


……日本。


日本これ……、日本……。


「どうなってるの?」


ハドラーよ、今一度聞く。


どうなってるの?


分からん……。


なんでこんなに強いの日本人。

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