第81話 運送会社ガーベージ

「そこをなんとか!」


「はあ?嫌ですけど」


俺が、屑籠屋で警備員をすると見せかけて、タラバガニを食べながら日本酒で優勝していたら、暫定首都長野から国土交通省の職員を名乗る男が現れた。


要求はこうだ。


日本各地にワープゲートを設置しろ!とのこと。


俺は、それはあんまり面白くない展開なので断った。


自分のいる街はある程度便利じゃなきゃ嫌だが、全世界が楽に便利になるのは嫌だ、つまらない。というか利益が独占できなくて困る。


今は雌伏の時、頑張って耐えてほしいと思う。


俺一人の力で、ではなく、日本国民それぞれが努力して、再び交易を開始する方が燃える展開じゃないかな?


それが無理で滅んだら、まあ、そこまでの奴らだったってことよ。


俺の予想では、末端のコミュニティは滅亡かなーって感じだが。


でも俺には関係ないんだよな。


崩壊前の話だが、遠いイランでテロがあった。


昔は、アメリカのビルに旅客機が突っ込む大きなテロが。


中国では、ウイグルやチベットの弾圧があった。


でも、俺には関係ないんだよな?


俺が美味い飯を食って美味い酒を飲んでいる最中で、地球の反対側では、その日の食事にすら困り、飢えて死ぬ子供がいた。


俺がアメリカの大学で経済学を学んでいる最中で、アフリカの子供達は学校にすら行けない。


俺がテレビゲームの中で人を殺して遊んでいる最中で、中東の子供達は無理矢理銃を持たされて兵士にされ、人殺しにされる。


でも、でもな?


俺には関係ないんだよな。


どうでもいいよな、俺とはなんの関係もない、遠い国の人間が、飢えで、戦争で、テロで苦しんで死んでも、俺の生活には微塵も関係ない。


恵まれない子供達とやらがいくら苦しんでも、俺は美味い飯と酒を楽しみ、娯楽を楽しみ、女を抱いて、楽しく暮らしていける。


所詮他人、関係ないの一言だ。


普通の人間はみんなそうだろ?


飯を食うときにいちいち、「アフリカの恵まれない子供達ガー」などとくだらねえことを考えながら食事する奴がいるのか?いねえだろ?


まあ、美味いものを食っている最中に、飯もろくに食えず苦しんでいる人間がいると思うと、優越感に浸れて更に飯が美味くなる可能性は高いが、それは置いといて、だ。


つまり俺が何を言いたいのかって言うと。


遠くに住む日本人も、遠くに住むアフリカの恵まれない子供達も、等しく他人ってことだ。


例え、アリを踏み潰す程度の労力だって、他人のためにはかけたくないと思う。


これがクズというものだ。


確かに、ワープゲートを日本各地に用意することは容易い。


しかし、どんなに容易いことでも、他人のために無償で働くと思うと虫唾が走る。


大体にして、力のない奴が力のある奴にたかること自体が気にくわない。恵まれない環境?だからなんだ?なら、命をかけて足掻いてみせろ。大丈夫大丈夫、スタートダッシュにスキルは多く持っていたが、俺も定期的に命をかけている。


……だが、政府に借りを作り、輸送業の利権を握るのは良いアイデアだな。


借りを作るってのはあくまでも副産物。人間、貸し借りなど、追い詰められればすぐになかったことにする。


他人をそこまで信用していないので、国に借りを作るのはあくまでもサブ目標だ。


メイン目標は、運送業の利権だ。


「つまり?」


アーニーが俺のタラバガニを奪い、蟹味噌を啜りつつ尋ね……、おい待てこの野郎、蟹味噌返せ!!!


「ガルルルル!!!」


「フシャー!!!」




アーニーをボコボコにして、一言。


「ワイバーン運送会社『ガーベージ』開業だ!」


「「「ワイバーン輸送会社?!!!」」」


俺は、ホタテにバターを乗せて炭火焼しながら言った。


「ワイバーン使って輸送業やるってこと?あちち」


アーニーがサザエに醤油を垂らした。


「そうだ」


「ワイバーンはどこにそんなにたくさんいるのだ?」


ヴォルフがエビを焼いている。


「イギリスにワイバーンダンジョンがあるから、そこを丸ごといただく」


「ワイバーンをどうする?貸し出すのか?」


シーマがイカゲソを火にかざす。


「そうだな、運送屋らしく、トラックであるワイバーンは貸し出し、利益も吸い上げる。会計は現地の人間を雇ってやらせて、俺達は利益だけいただくって寸法よ。ホタテうめー!」


「良いね、乗ったよ。僕も一口噛ませてくれ。あ、サザエ美味いねー!」


「む……、良いだろう。ドイツでも是非やってくれ。エビうまい」


「面白そうね、やりましょうか。ああ、イカ、Вкусно」


そういうことになった。




ワイバーンは、種族的には亜竜という分類で、龍に似ているが全く違う生き物。亜竜は羽根つき蜥蜴であって、龍とは格が違う。


龍、ドラゴンは、基本的にレベル80ほどで、亜竜はレベル40くらいか。


それでも、ワイバーンは、魔力を使って《飛行》スキルで飛んでいる生き物だ。


だから、物理的に飛べないフォルムでも飛べるので、その辺りに航空力学的なツッコミは無意味であることを先に宣言しておく。


そして、ワイバーンは腐ってもレベル40を超える化け物。


対空砲の弾丸くらいなら弾き返すし、火の玉のブレスは一撃で重戦車を吹き飛ばす。トラックくらいは平気で持ち上げるし、尾にある毒は一滴でアフリカゾウをも殺す。音速くらいの速さで空を飛び、ヘリ以上に小回りも利く。


……でも、ドラゴンはこれの数千数百倍は強いので、ドラゴンを狩れる俺たちからすれば、ワイバーンなどハエくらいのものだ。


さあ、アーニーにテイムスキルの魔導書を作らせて、テイムスキルを習得して、と。


転移……、と。


このワイバーンダンジョンは、大体、ドイツと同じくらい広いかな?


ここにいるワイバーンは全部で……、五十万ってところか。


馬鹿みたいに多いな。


このクラスのダンジョンになってくると、一つの階層が大陸くらい大きいから、まああり得るか……?


が、まあ……、何も問題はない。


「『ファンクション:ゲートオープン・フロント』」


「「「「ギャオー」」」」


このダンジョンにいるワイバーン全ての目の前にワープゲートを開いて、目の前に呼び出した。


「『ファンクション:殺意の波動』」


「「「「ギャ!!!!」」」」


ワイバーンがバタバタと落ちる。


威圧スキルの応用で、ワイバーンは全て墜落した。


「『ファンクション:テイム』」


「「「「ギ、ギ、ギ」」」」


ほーん、こんな感じかな?


テイムは、よく分からんが、対象と心を通わせるか、屈服させれば良いとか言われている。俺は、ワイバーン共の脳にハッキングを仕掛ける感覚で支配した。


ワイバーン共は、それが苦しいのか、泡を吹きながら悲鳴を上げているが……、所詮道具だからな。運送用のトラックが苦しんでも、俺は痛くも痒くも無い。


さて、こんなものか。


そうだ、尻尾の毒が危険だから、尻尾の毒腺を斬り落とそうか。


「アーニー」


「はいはい、尻尾の毒腺ね。『プロビデンス:クリエイトマジック』……、『ファンクション:蜥蜴の尻尾切り』」


「「「「ギギィ!!!!」」」」


ワイバーン共が苦しみながら、尻尾を切断された。アーニーの権能により、アーニーはあらゆる魔法を作れる。今は、ワイバーンの尻尾から毒腺を除去するだけの魔法を作ったのだろう。


生きたまま身体を裂かれるだなんてワイバーンかわいそう(他人事)。


涙を流しながらのたうち回るワイバーンを、俺が作った時間の停止した亜空間に押し込んで保管しておく。


これで準備は整った。


運送会社『ガーベージ』、開店だ!

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