第66話 サン=ウリエルの冒険者

フランス、サン=ウリエル……。


現在の人口は二万人。


主要産業は小麦の生産。


農作が盛んで牧場もあり、チーズを生産している。


マルセイユから車で一、二時間ほどの地にある、プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュールの、このサン=ウリエルは、広大な農地とチーズ工場がある、田舎町である。


私は、アベル・エドガール・テオフィル・フォルジュ……。


このサン=ウリエルにて、葡萄畑を経営している元貴族の家系の男だ。




私の家系は、代々この葡萄畑を経営して、ワインを作っている。


世界崩壊時に色々と苦労はあったが、それでも、葡萄畑の経営とワイン造りは今も続けられている。品質と生産量は大幅に下がったがね。


何せ、皆、逃げなかったからな。


どうやら、田舎にはあまり強いモンスターは現れないらしい。


パリは、もう二度と復興できない程に破壊されたが、この周辺はそこまでの被害はなかった。


しかし……、テレビで燃えるパリを見ていた私は、この美しいフランスをモンスターなどというふざけた存在に蹂躙されてたまるかと強く思ったのだ。そして周囲のモンスターを倒した。


短慮だったとは思うが、攻めてきたゴブリンの群れからこの葡萄畑と牧場を守るには、我々人民が戦うしかなかった。


フランスはフランス人民の国だ。


圧政や理不尽に対しては、我々自身が武器を手に取り戦うべきなのだ。


そうして、私が指揮をして周囲のモンスターを倒した後に、屋敷に残っていた、美術品の洋剣を手にして、皆でダンジョンを攻略していった。


そんな我々は、世間では冒険者と呼ばれる存在らしいと風の噂で知り、改めて冒険者と名乗り、ギルドを作り、この理不尽に対して抗っている。




フランスは現在、暫定首都をトゥールーズに置き、人民の保護を第一に行動しているようだ。


ならば、我々冒険者は、フランスの都市を奪還するために戦うべきだろう。


マルセイユはレベル五十帯のモンスターが湧いているようだ。


今、私もレベルは五十五あり、奪還するのも夢ではないと思える。


だがもちろん、独力では無理だろう。


都市奪還、その為には、私が更なる研鑽を積み、更に他の冒険者の成長も待つ必要がある。


確かに私は、頭に血がのぼって、街に現れたモンスターを殺して回るような、いわゆる単細胞だ。


だが、自分一人で世界を救えると考えるほど自惚れてはいない。


それとは別に、私の中には焦りがある。


一刻も早くフランスを人民の手に取り戻したいのだが、モンスターはあまりにも強大な存在だ。


果たして、私が死ぬまでに、どこまでフランスを奪還できるか……。


いや、やめておこう。


私は、今私にできることを全力でこなすだけだ。




さあ、今日もレベル上げに励もう。


レベルは、上がれば上がるほど、上がりにくくなる。


一年で私はレベルを五十五まで上げたが、レベル五十から五十五に上げるまでに二ヶ月程かかった。体感、四十を超えるとかなりきつくなってくる。


毎週のように、ほぼ自分と同等のレベルがあるモンスターと命懸けで戦って、それだ。


つまり、レベルは上がれば上がるほど、加速度的に上がりにくくなっていくということ。


もし、レベルの上限が百だったとしたら、そこまで上げるには、完全に人間をやめなければならないだろう。


人間の寿命ではレベル百まで戦い続けられないし、人間の力ではどう頑張っても最高レベルモンスターの狩りでレベル上げはできない。


まあ、できないならできないで、やりようはあるさ。


最低でも、私の代でマルセイユまでは奪還するぞ。


そんな思いを胸に秘め、私は手懐けたモンスター馬に乗ってマルセイユ近辺まで来ていた。


モンスター馬……。


どうやら、モンスターとは、魔力の篭った魔石を食べるが、生態は基本的に動物に近いようだ。


よく、ファンタジー小説で語られるような、闇の眷属などと言った不明瞭な存在ではない。


一部、ゴブリンやオークのような、本当にヘドが出るような邪悪もいるが、レベルの低いモンスターは、こちらに攻撃せずに逃げ回ったり、懐いたりすらする。


この、モンスター馬も、普通の馬と同じような生態をしている。


これは、私の愛馬のユニコーン。


名前はエデンだ。


彼に跨り、ステラダイトのランスを持って駆け出す。


私は、アベル・エドガール・テオフィル・フォルジュ……。


聖騎士パラディンの冒険者だ。




「フォルジュ様!」


「お帰りなさい、ムッシュ・フォルジュ!」


「パラディンの帰還だ!」


全く……。


「やめてくれたまえ、閣下などと。確かに私は貴族の家系だが、フランスに貴族という身分はもうないとも」


街の住人にフォルジュ辺境伯などと持て囃されるが、私とて、単なる人民の一人。


確かに、いの一番に逃げたこの街の市長に代わって、行政の仕事を果たしてはいるが……。


「何を言いますか!世界崩壊の折、自らモンスターを倒すために先陣を切り、逃げた市長に代わって政をして、警察官をまとめ上げて騎士団をお作りになった!我々は国よりもフォルジュ様を信頼していますよ!」


「それにしたって辺境伯はないだろう……」


「それですがね、閣下。実は、フランス本国から、このサン=ウリエルを閣下の領地にしないかと内諾がありまして」


「領地だと?!」


馬鹿な、フランス革命はなんだったのだ?


「はい、それが……。フランス本国は、もう既に、暫定首都であるトゥールーズを防衛する他に、アキテーヌ地方のいくつかの周辺都市をまとめるので精一杯なのです。ですから、こちら側の遠方の地方は、各地の有力者が自治と言う形にすべきだと言う話が」


「馬鹿な……」


私が領主だと?


「四月には本決まりだそうですから、閣下は名実共に辺境伯になるのですよ」


うーむ……。


「……分かった。人民がそれを望むならば、やろう」


「おおっ!フォルジュ様!」


私は、アベル・エドガール・テオフィル・フォルジュ……。


どうやら、辺境伯になる男らしい……。

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