第65話 ヴァイスベルグの冒険者

例年並みの冷え込みだ。


テイムモンスター達は風邪をひいたりしないだろうか?


僕にとっては、僕自身の健康よりも、動物達の健康の方が気がかりだった。


僕はユリウス・アルフレート・アイヒホルン。


高位調教師ハイテイマーのドイツ人だ。




僕の家系は何かと動物に縁がある。父はヴァイスベルグの動物園の園長で、母は動物の研究者だった。僕自身も、獣医として、ヴァイスベルグで働いていた。


しかし、今のヴァイスベルグに獣医は不要だ。


何故なら、ヴァイスベルグにはもう、動物がいないからだ。


全てのペットはモンスターになった。


今のところ、老いも病気も心配ないようだ。


この一年、一応、獣医として名前が知られているはずなのに、誰一人として動物を診せに来なかった。


故に、僕は仕事を失って、冒険者になった。


当然、僕自身は大して強くもなんともないんだけど、僕に懐いてくれていた、父の動物園の動物達を戦力として、冒険者をやっている。


まるで、動物達に寄生しているようで嫌になる。だからこそ、動物達の面倒はしっかりと見よう。


動物達、いや、テイムモンスター達の為に、ドワーフに依頼して厩を作ってもらい、定期的に餌である魔石と嗜好品である肉や野菜を食べさせる。


どうやら、モンスターは雑食で肉や野菜を体格に見合う量食べさせても良いし、魔石を少量与えるだけでも良いらしい。


僕の見立てでは、モンスターは、動物とはそもそも存在の軸が違って、栄養ではなく魔力を摂取して生きているものなんだろうと考えている。


モンスターは魔力で生きる。魔力は森羅万象に宿るから、普通の食べ物を食べても魔力が補給できる。魔石なら、より効率的に魔力を補給できるから少量で良いと言うことだろう。


僕自身も、説明はできないが、レベルが上がるにつれて、魔力を感じ取れるようになってきた。


あの、世界崩壊の日に、魔力という世界法則が追加された……?それとも、僕達が気づいていないだけで、魔力という不可視の力が存在していた?それは分からないが、ともかく、魔力はこの世界に存在して、モンスターは魔力と密接な関係にある。


何にせよ、その魔力のおかげで、僕は獣医をやめて、冒険者になったって事実は変わらない。


それについては、恨んでいない。


医者なんて、いない世界の方がいいんだ。


だってそうだろう?医者のいない世界、きっとみんな健康なんだろうからね。




さあ、今日は仕事をしよう。


テイマーは装備にお金がかからないから、他の冒険者よりも有利かと思う。


魔石代はかさむけど、武器や防具よりは安いさ。


一応、護身用のショートソードは腰から下げているけれど、力任せに振り回すことしかできない。


その前に食事だ。


どうせ、朝の張り出し依頼も、高ランクのものは余っているだろうしね。


そう、毎朝六時くらいに、冒険者ギルドで依頼を張り出すんだけど、僕がやるような高難度の依頼は大抵は残ってるから、午後からでいいんじゃないかな。


朝、家でライ麦パンにバターを塗って食べる。


そして……。


フレアレオンのヴォータン。


ライジングイーグルのトール。


フロストベアのロキ。


三匹の従魔に餌の魔石を食べさせる。


ヴォータン……、炎のたてがみを持つ赤いライオン。全長三メートル程。全身から炎を出して、炎を操る。


トール……、紫電が迸る黄色い羽毛を持つ鷲。通常の白頭鷲より更に大きい。僕を掴んだまま空を飛べるくらいにパワーもある。


ロキ……、冷気を纏う白いクマ。全長四メートルを超える巨体。グリズリーよりも大きい。


名前は北欧神話からとっているよ。


従魔が満足したら、朝の散歩をしよう。


三匹と外をしばらく歩く。


「アスガルトだ……」


「うっひょー!相変わらず凄い従魔だな!」


「従魔も凄いがユリウスさんも凄い。従魔ってのは、適切に指示できなきゃ宝の持ち腐れだからな」


街の人や他の冒険者に噂される。


少し恥ずかしいが、別に汚名ではないので受け入れる。


そして……、冒険者ギルドに着いた。


その時。


「緊急依頼です!オークの群れが来ているそうです!レベル二十帯以上の冒険者は全員集まって下さい!!!」


不味いな、オークの群れか。


オークは、豚人間といったようなモンスターで、多産、早熟、他の種族を孕ませる。


そしてその性格は残虐で邪悪。


しかし、肉は食べられないし骨や革も使い道のない、まさに百害あって一利なしのモンスターだ。


たまに、このようにして、オークのようなモンスターが集まって街を攻めてくることがある。


恐らくは、僕がいなくても戦力的には、他の冒険者達で十分だろうけど……。


一応、行こうか。




「うげっ?!オークキングだ!みんな気をつけろ!オークキングはレベル四十帯だぞ、囲んで殴れ!!!」


「オークキングは僕がやるよ」


「あんたは……!《アスガルト》のユリウスか!有り難い!頼んだ!」


付近の冒険者に挨拶して、僕とその従魔は駆け出した。


「行くよトール!『ファンクション:サンダーフォール』!!!」


『『『『ギャギャッ!!』』』』


トールが空を飛び、空中で身を翻すと、雷光が弾ける。


迸る光の線は、触れたオークキングの護衛を黒焦げにする。


「行けっ、ロキ!!!」


『ガアアアアッ!』


雄叫びを上げながら、ロキがオークキングに殴りかかる。


『ブモオオオオオ?!!!』


もちろん、ロキも殴り返されているが、ロキはオークキングよりも丈夫だ。


ロキは、オークキングより大きいからね。


「今だ!投げ飛ばせ!」


『ガアッ!!!』


『ブモオオッ?!!!』


強力なパワーでオークキングを殴り、更に投げ飛ばすロキ。


動物なのに投げ技を使えるなんて、賢いにも程があるよ、本当に……。


「ヴォータン!『ファンクション:フレアドライブ』!!!」


『ガアアアアッ!!!』


ヴォータンが全身に炎を纏いながら、オークキングに高速で突進する。


あまりの高熱に、地面は融解し、ガラス状に。


そしてその速度は、高速道路を走る車の倍は速いだろう。


『ギャガアーーー!!!』


そんなヴォーダンに撥ねられたオークキングは、苦しみの声を上げて倒れる。


オークの軍勢は、リーダーであるオークキングが倒されたから、総崩れになった。


「「「「うおおおおっ!!!」」」」


冒険者達が勝鬨を上げた……。




今回は報酬に四千ユーロもらえた。


ユーロはもちろん、新しく印刷されたNW€(ニューワールドユーロ)だ。


風の噂によると、どこの国家も新貨幣を発行しているらしい。


このお金で従魔におやつ代わりの干し肉を与えて、ロキにポーションを与えて……。


ついでに、僕の昼食も済ませる。


今日はこんな感じだ。




今日は、街を守ることができた。


明日も頑張ろう。

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