第63話 ヴァイスベルグの冒険者事情

今日は、ヴァイスベルグに行こうと思う。


人口は亜人を含んで一万五千程。


ドイツの南側にある、アルプス山脈に近い、川の近くにある自然豊かな街、ヴァイスベルグ。


元は貴族の避暑地として作られたこの街は、石造りの建物と、見通しと風通しのいい、涼しげな街だ。


そこら中にテイムされたモンスターがいるのが特徴だな。


一面の麦畑とジャガイモ、キャベツ畑が広がる農地、山脈付近から取れる岩塩、川の魚、豚モンスターの牧場。


少なくとも、ドイツ人の常食であるヴルスト……、ソーセージと、ザワークラウト、それとジャガイモの三種の神器が手に入る状態。


そこで暮らすのは、多くが調教師テイマーだ。


また、千人に満たない程度だがドワーフも存在しており……。


鍛治とテイマーの街、ヴァイスベルグ。


今日は、そんなヴァイスベルグを見ていこう。




春のヴァイスベルグ。


まだ風が肌寒いが、日は出ていて日光が少し暖かく感じる。


日の当たるバルコニーや、車のボンネットの上には、猫系や爬虫類系のモンスターが張り付いてくつろいでいる。


モンスターにはそれぞれ、赤い首輪やスカーフが身体のどこかにあり、それで野良かどうかを判別するそうだ。


本当に、猫か何かのようなノリで、軍隊を蹴散らせるレベルのテイムモンスターがその辺にいるので怖い。


しかし、テイムモンスターは、決して人を襲わないし、餌も魔石を食わせておけばいい、肉や野菜も食うが。


人と同じものを平気で食べるし、基本的には魔石で生きていける。


それがモンスターだ。


また、鍛治も盛んだ。


千人近くいるドワーフ達がそれぞれ、昔ながらのやり方と鍛治魔法スキルで武器を作る。


鍛治魔法とは、魔法金属……、いわゆるミスリルなどの、魔法的な金属を加工する際に必須の魔法スキルだ。


かなり簡単な魔法で、鍛治センスがあれば簡単に覚えられるが、極めるのは難しいスキルである。


鍛治魔法スキルは、あくまでも、魔法金属を魔法的な熱で加工可能な状態にするだけのスキルだから、エンチャントには付与魔法スキルが必要だ。つまり、炉の代わりになるってことだな。


逆に言えば、鉄を叩くのも研ぐのも、全部手作業でやれってことになる。


俺は錬金術スキルで、簡単な武器なら作れるのだが、鍛治魔法スキル単体では武器や道具を作ることはできない。


鍛治魔法はあくまで金属を加工可能な状態にするだけ。加工は人の手でやらなきゃならない訳だな。


錬金術は、鍛治魔法や製薬スキルの上位互換スキルだな。


まあ……、大抵のドワーフは、鍛治魔法スキルを持って生まれてくる。


そこから、剣職人、鎧職人、斧職人と分業したり、幅広くやってるやつもいたり……。


色々ある。


後でヴォルフがドワーフ街を案内してくれるらしいので、楽しみにしておこう。




さて。


「む……、ヴァイスベルグには調教師テイマーが多く、レベルは四十くらいが最高だ」


「そんなもんか」


「テイムモンスターが街中にいるから、治安はいいぞ。少なくとも、この一年くらいで殺人事件は三度しか起きていない」


お、平和。


因みに、ハリアルシティでは、数十件、殺人事件があったらしい。


天海街は暴行くらいで、殺人は起きてないな。


「ってか、テイムモンスターはそんなに賢いのか?」


「レベルと知能は比例する。このレベルのモンスターは人間の子供より賢い」


ふーん。


「テイムモンスターは、この街を自分達の縄張りだと思っている。だから、秩序を乱すものや外敵は許さない」


「そりゃあ、なんだか、それじゃここは人間の街って言うより、モンスターの街だな」


「かもしれんな」


だが……、と言葉を続けるヴォルフ。


「だが、モンスターが武力面を握っているからと言って、モンスターが偉い訳じゃない。軍人は政治家じゃないだろう?」


「そんなことを言っても、モンスターが反旗を翻したらどうするんだ?」


「殺すさ、俺が。責任を取る」


そうか。


「なら、好きにすりゃいいさ。俺もお前も大人だからな。自分のケツは自分で拭けってことだ」


自分で責任取るなら好きにしろよ。お互い、ガキじゃねえんだからよ。




ヴァイスベルグは城塞都市だ。


本来は城塞などなかったのだが、ヴォルフの街の運営方針は安全第一。


ドワーフ達に頼んで、高さ三メートル程の城塞を一部に拵えてもらったのだった。


まあ、このヴァイスベルグは田舎で、強いモンスターはいない為、最低限の城壁でいいらしい。


街の内部は、モンスターが徘徊している。


動物系モンスターが多いな。


二、三メートルありそうな四足獣が我が物顔で街を歩いている。


『ハッハッハッハッ』


「あら〜!マルスちゃんおはよう!はい、おやつよ〜!」


『クゥーン』


体重百キロは超えているであろう大型犬が、人参を齧っている。


俺もなんか食わせよう。


「ほーら、チョコレートだぞー」


『ワウワウ』


あ、食った。


「むむ、犬にチョコレートを食わせるな」


「モンスターだからヘーキだろ」


そのまま、ドワーフの居住区へ出向く。




「ほーん、この辺は石の建物が多いな」


「ドワーフには建築スキルがある」


ふーん。


ヴァイスベルグには、日本の中華街みたいなノリで、ドワーフ地区がある。


ここにドワーフが住んでいるようだ。


石畳に石の家。


どこからこんな石材が?ダンジョンである。


ダンジョン内の石切場から石を切り取り、それでドワーフがドワーフ区画を作ったらしい。良いのかね、そんなことして……?


まあ、この街の人々が認めているんなら、俺から何か言うことはないが。アレかな?ドイツが大好きな移民ってやつ?


……おや?飲食店?


気になったので、ドワーフの飲食店に入ってみる。


売ってるものは……。


焼いたヴルスト、蒸したジャガイモ、ニジマスの燻製、焼きニンニク……、そしてビール。


概ね、俺の想像の中のドワーフ像と一致するドワーフっぷりだ。


どうやらドワーフは人間とは食性が微妙に異なるらしく、人間では早晩死ぬような不摂生が正しい状態であるらしい。


つまり、酒をがばがば飲んで、野菜を食わずに脂でギトギトの肉と炭水化物をバクバク食う感じ。


胃腸の作りが違うんだろう、酒を飲んでいれば最悪死なないんだとか。酒からより多くの栄養とエネルギーを得られるってことか?


だが、酔いはするらしく、酔ったドワーフが歌って踊って大声で騒いでいる。


ああ、そう言う意味では、こうやってドワーフ区画として隔離されていた方が良いのか。問題はその方が起きづらそうだ。




「あれだな、ヴァイスベルグには見るべきところはないな」


「む、まあ、田舎だからな」


「帰るか」


「また来い」

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