第62話 ハリアルシティの冒険者事情

今日はハリアルシティに行こうと思う。


アメリカ、テキサスのハリアルシティ。


現在では人口が増えに増えて五万三千人。


スカベンジャーの集まる街、ハリアルシティ。しかし、そんなスカベンジャー達の殆どは冒険者に鞍替えしているそうだ。


そりゃそうだ、スカベンジング、ゴミ拾いするにも、ゴミがなきゃ不可能だろ?


もう、アメリカには、スカベンジングする程価値のあるものが残っていないんだよ。食品は腐り、鉄は錆びた。


それに、崩壊したショッピングモールから鍋を拾うより、モンスターと戦う方が何倍も稼げる。


スカベンジャーはもう廃業、その代わりに増加した冒険者達が働いて、経済が発展しているらしいな。


冒険者は、この崩壊後の世界で最も稼げる仕事だ。


一攫千金を目指すなら冒険者しかない。今のこの世界に、ビットコインやら株やら、そんなものはとっくに存在しないからな。


敷居も低く、冒険者としての活動は十六歳から許される。


資格もいらない。まあ、正確には、上手くモンスターを解体する資格なんかも上に行くには必要だが、基本的には、特別な資格は不要だ。


冒険者は、ただ戦えれば、知能や身体に障害があろうと構わないのだ。


むしろ、低レベル冒険者向けの依頼とは、その障害者向けの仕事でもある。


今のご時世に福利厚生なんてものはないからな。




そんな訳で、一攫千金の日雇い労働者である冒険者と、冒険者ギルドの制度は、無事、各国に輸出された。


元から、各国にも原型はあったんだよ。


民間人に戦闘行為を含む労働をさせようという考え方は各国にも当然あった。


それをいち早く体系化したのが日本だったというだけの話だ。


だから、各国もそれに乗じて、冒険者ギルドと冒険者という組織を作ってみようと、そう思った訳だな。


パクリだ。


冒険者ギルドが依頼を募集して、ランク分けして、ランクに対応した冒険者が対応する……、この形式が最も良いだろうな。今の所最善の方式であり、弄る余地がない。


そんなこんなで……、今、世界中で冒険者ブーム!世はまさに大冒険者時代!ってところだ。


「ハッハー、見なよタツ!僕は幻覚でも見てるのかな?冒険者だってさ!現代のアメリカで冒険者!最高のジョークだね!」


アーニーと共に、アメリカの冒険者を見て回る。


「アメリカの冒険者はどんな感じなんだ?」


「銃使い《ガンマン》が多いね。最大レベルは五十くらい」


「そんなもんか」


思いの外しょぼいな。


「ガンマンっつってもよ……、銃はどうしてるんだ?」


「本体は崩壊前のものを使ってる。火薬は錬金術師が作ってるよ。火の魔石から魔法火薬がいくらでも作れるからね。弾頭は鉛を固めてハンドメイドで作ってるよ」


ほーん?


「基本的に、ガンマンの使う弾丸は国の工場で作ってるってさ。一部のプロ冒険者は、自分でハンドロード作成の魔導具で弾薬を作ったり作らせたりしてるけど」


ハンドロード、自作弾丸のことだな。対義語はファクトリーロード。今知った。アーニーに聞いた。


そんな感じなのか。


「あとは狩人ハンターとか多いね。あそこら辺の脳味噌まで筋肉でできてそうな奴らは大体戦士ファイターだよ」


「ふーん」


と、辺りを見回していると……。


「なんだとぉ……?てめえら、誰の頭が筋肉だって?」


あら、一匹釣れた。


「おいおい、民度悪くねえか?」


「しょーがないじゃないか、今のハリアルシティには色んなところから色んな人が集まってるんだから」


アーニーと笑い合う。


そんな最中も、身長190cmくらいの刺青マッチョハゲがキレてる。


「てめえら、舐めてんのか?!おお?!」


「おおー」


襟首掴まれた。


「こういうのに絡まれるのって新鮮だなー」


「本当だよねー、僕も最近はなかったよー」


「「あははははは」」


「こ、この野郎!」


殴られる。


「がっ、あ……?」


あーあ、俺の硬さはとっくに金属を超えているのに、そんなのを思いっきり殴ったら……。


「い、痛えええええ?!!!」


そうもなるわな。


「いやあ驚いたな!テキサスではゴリラが喋るのか!」


「僕も初めて見たよ!この辺りにゴリラが生息してたなんて初耳さ!」


「「ははははは!」」


ここぞとばかりに煽る俺達。


「こ、この野郎!何かスキルを使ったな?!卑怯者め!」


はーーー?


「すまないがイングリッシュで話してくれないか?ゴリラの言葉には詳しくなくてね!」


「こ、こ、この野郎〜!!!もう許さねえぞ!!!」


おっ、背中の工業用スレッジハンマーを抜いたな?


「食らいやがれ!」


殺人をしない倫理観くらいあるのか、肩を狙ってきた。


が……。


「ゴムを巻いた岩のような感触だったろ?」


「う、嘘だろ……?俺はレベル二十だぞ……?レベル二十の一撃を受けて、なんで立ってられるんだ?!!」


俺はゴリラに顔を近づける。


「おい、ゴリラ坊や。今日は機嫌が良い、見逃してやるよ」


「お、あ……、す、すいませんでした……っ!!!」


「それで良い。行くぞアーニー」


「はいはーい」


示談成立か?


ここで俺が殺さなくても、喧嘩売って良い相手の見極めもできんようじゃ、早晩……。




アメリカ、テキサス州。


その中央部に位置するオフィス街、ハリアルシティ。


そして、ハリアルシティの主要な場所は、ハリアルシティの中心部ではなく、郊外のとある洋館だった。


そこは、ガルシア家……、アーニーの家だった。


洋館、というと語弊があるな。


その大きさは、最早ちょっとした城だ。


例えるなら、俺の洋館がレジデントでイービルなら、アーニーの洋館は時計塔だ。ハサミ男が出てもおかしくない。アレ怖いよなー、時計塔の針で首チョンパとかグロかったわ。


あるいはテキサスチェーンソーか?


まあなんにせよ、ガルシア家の洋館を中心にして、木造の家が沢山ある感じになっている。


元々、ここは、近くに岩塩の取れるグランドサリーンという土地が近くにある、金持ち向けの別荘だ。


ハリアルシティは、テキサスの街の中でも結構広い方だな。


アーニーが言うには、昔は放牧と農業が盛んなカーボーイの街だったそうだが、今は現代化により、ハリアルシティの中心部には大きなスーパーマーケットとビルが建ち並ぶ。


しかし、ここ、ガルシア家洋館周辺はまだまだ農地が多いようだ。


雰囲気的には長閑で放牧的な感じだな。


このガルシア家洋館が市役所にして、政治の中枢となっている。


その近くの、ホームセンターだった建物を改修して、冒険者ギルドにしたそうだ。


この、ガルシア家洋館と冒険者ギルドを中心に、民家が店にされたりして、街ができている。


ホームセンターはとにかく広いから、資材置き場にされていたり、中に飲食店や鍛冶屋があるショッピングモールになっている。


それと、近くには、自警団たるヴィジランテの詰所がある。


つまりは、ガルシア家周辺は安全な商業地区ということだ。


そんなガルシア家から更に郊外の方に居住地や農耕地があり、牛モンスターの放牧もされている。


居住区は、ハリアルシティと近辺の小さな街であるホワイトバレーの中間部に多数存在している。


居住区、ホワイトバレーには、たくさんの人々がいて、その上牛モンスターが湧くダンジョンがある。


もちろん、ハリアルシティから離れたホワイトバレーは黄色いクマさんが出てきちゃうような広い森だが、この一年で薪のためだったり、建材だったりと森林伐採され、今では、そうして空いたスペースにログハウスが建ち並んでいる。


あっちを向いてもこっちを向いてもログハウス。


北欧かな?


しかも、それも丸太積みのチャチなワンルームのログハウスばかりだ。


宿屋なんかもあるが……、アメリカは今、百年ほど前の文明に逆戻りしている。


ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドの時代に逆戻りだ。


「西部再開発時代ってか」


「そうだねー、一つ違うのは、ニューヨークやワシントンD.C.もモンスターの手に落ちて、デトロイトが暫定首都になってるってことかな」


「デトロイト?何で?」


「あそこって、昔経済破綻して人がいなくなったじゃん?でも、街自体は自動車産業でかつて栄えていた訳で」


「そうか、ダンジョンは、去年の三月時点で人が多く栄えている街に集中的に現れた。街の機能はあり、広いが栄えてはいなかったデトロイトには、あまりダンジョンができなかったのか」


「そういうことだね。アメリカ政府は五大湖のある工業地帯を根城にしつつ、再起を図っているよ」


「となると……、今は、南部開拓時代?」


「そんなところだね」


こうして、ハリアルシティの視察を終えた。

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