第61話 天海街の冒険者事情
去年の天海街は、例年通り雪が降らなかった。
よって、住民達は、天候に左右されずに、街の拡張などの仕事に尽力できた。
天海街は、現在では、流浪の冒険者の数を抜いても、人口五万五千人の大都市になった。
石造りの城壁が立ち並ぶ、城塞都市になったのだ。
それとは別に、三千人近くの冒険者も常駐しており、戦力的にも世界有数の街である。
しかし……、この、三千人の冒険者をどうするかで、天海街は今、悩んでいた……。
天海街は、近場に低レベルから高レベルダンジョンまで選り取り見取り揃っている、冒険者にとって最高の立地の街である。
故に、冒険者も、低レベルから高レベルまで、様々な冒険者が集まる。
高レベル冒険者はいい、問題ない。金払いも良いので、天海街自慢の旅館であるしろがね屋を始めとする温泉旅館に泊まるからだ。
美味い食事と温かい温泉で癒され、その後、存分に戦う。
冒険者の収入は、大体だが、日にレベル×一万円と言われている。
ポーション代や装備代でかなり経費がかさむ事を考えると、安定してくるのはレベル二十くらいからである。
だってそうだろ、一般的な『はがねのつるぎ』でも十万円はするし、研ぎ直しに一万円はする。『かわのよろい』も十万は平気で越えるし、『ポーション』『どくけし』も一本三万円はする。
レベルが上がって、より上の依頼を受けるなら、より高価な武器や道具が必要になる。
日に何十万円も稼がないと割に合わないのだ。
しかし、稼ぎが少ない低レベル冒険者は?
ホームレスよろしく、その辺にテントを設営したりして生活しているらしい。
冬には、風邪をひいてそのまま亡くなった冒険者もいたそうだ。他にも、男女間のトラブルも多い。
これを重く見た天海街管理委員会は、即座に新しい宿を開くことにした。
ホテル、ニューアマミ。世界崩壊により、管理人が行方知れずになり、閉店している大型ホテルだ。
ここを開いて、底辺冒険者向けの安宿にする方針だそうだ。
サービスはこうだ。
布団とベッド、下水道の使用権で一日三千円。
食事、体を拭くための水と布、魔導ランプ、雷魔石電力発生器、暖をとるための火魔石湯たんぽなどのサービスは別料金で実施。
ベッドの数を増やして相部屋を作り、パーティごとにまとまって泊まってもらうことに。
これなら、低所得の初心者冒険者達も安心である。
「と、揚羽の親父が言っていた」
「あっそ」
横になりながらタブレット端末でドラマを見るシーマ。
まあ……、俺も、「あっそ」って感じだ。
冒険者が死のうが生きようが、俺には関係ない。
いや、周辺のゴミ掃除や労働力の確保という意味では、たくさんいた方が良いのかもしれないが。
実際問題、未攻略のダンジョンを一ヶ月ほど放置していると、ダンジョンの出入り口からモンスターが溢れ出す。
そのせいで、今や世界はモンスターのパラダイスだ。人間だって例え死んだとしても楽園になんざ行けやしないのに、この世がモンスターのパラダイスとは世も末だ。
だから、そんなゴミみたいなモンスターどもを始末する冒険者は、今の世界になくてはならない存在な訳だ。
俺達がその気になれば、低級のダンジョンは軒並み消し飛ばせるのだが、それは面倒だ。
外向きの理由として、冒険者の成長の機会と収入源を奪ってしまうということもある。
まあ……、俺達は、自分達が楽しく暮らせれば、世界の命運やら何やらはやりたい奴がやってくれというスタンスだ。
さて。
俺は、月曜から水曜に喫茶店を開き、木曜に高レベルダンジョンの間引きをし、金曜に集まって会合をして、土日はフリー。
そんな生活をしている。
週に三日しか開かない飲食店とか、社会を舐め腐っているとしか思えないが、いつも街の人と冒険者で満員御礼、最近は外に席を新しく出しているほどだ。
客からはせめて週に五日くらいは営業しろとせっつかれるが、俺の休日は誰にも邪魔させない。
今は丁度、春一歩手前と言ったところか。
冒険者ギルドに、いつも通りポーションを売りに来た。今日はこの後にダンジョン攻略だ。
いつも通り、俺が冒険者ギルドに入ると、声の大きさの段階が一つ二つ下がる。
具体的には、酒場くらいにやかましいところが、市役所くらいになる。
俺がポーションの納品を終えたのち、ふと、依頼表を見てみると……。
《畑の警備
報酬額:五千円
資格不要
レベル一帯〜》
《ブラウンボアの解体
報酬額:一万円
要解体者資格
レベル一帯〜》
《冒険者への炊き出しの手伝い
報酬額:五千円
料理が出来るものが望ましい
レベル一帯〜》
《アムドライト五キロの採掘
報酬額:六十万円
要採掘者資格
レベル二十帯〜》
《中級ポーションの納品
報酬額:百万円
資格不要
レベル五十帯〜》
《カトブレパスの革の納品
報酬額:六十万円
要解体者資格
レベル三十帯〜》
色々と変わっていた。
「なあ、お姉さん」
「は、はい」
受付嬢に聞いてみる。
「この、依頼書のレベル何々帯〜ってのは何ですかね?」
「これは、冒険者さんの依頼に対する推奨レベルです。死亡率低下を目指して、ここに書かれたレベル以下の冒険者さんは依頼が受けられないようになっています」
ほう……。
実質的な冒険者ランクってことか。
「因みに、レベル一帯では鉄、十帯では銅、二十帯では銀、三十帯では金、四十帯では赤いメギドライト、五十帯では白いステラダイト、最高位の六十帯では孔雀色のミスリルのプレートが支給され、それがドッグタグ兼身分証として機能します」
「偽装されないんですか?」
「簡単にですが、プレートにはエンチャントをかけていますから、プレートを見せてもらい、窓口の者が鑑定すれば分かります」
「エンチャントができる奴が偽装するんじゃないか?」
「そうですけど……、現状、そんなことをして偽装しても、意味がありませんから」
ふーん。
「この解体者資格と採掘者資格って言うのは?」
「そのまんまです。資格がないと受けられない依頼ってことです」
「今日日、冒険者も資格が必要なのか……」
世知辛いな。
「資格は、冒険者ギルドの定期講習で取れるので、難しいものじゃありませんよ。ただ、素人の冒険者さんだと、上手くモンスターの革が剥げなかったりだとか、肉の処理を間違えて腐らせちゃったりだとかしますから」
なるほどな。
この世界はテレビゲームでもネット小説でもない。
ドロップアイテムは冒険者自身が剥ぎ取らなきゃならないのか。
採掘も、下手な奴がやると落盤とかするかもしれないもんな。
冒険者ギルドも安全マージンについて色々考えてるんだな。
「ってことがあったんだよ」
「へー、うちでもやってるけど、だんだん増えてるね、冒険者」
「む、ヴァイスベルグにも増えている」
「無駄口を叩くな、行くわよ」
「「「おう」」」
さあ、ダンジョン一つ消しとばすか。
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