第52話 冒険者ギルド 前編
俺は、天海街の冒険者ギルドのドアを開く。
天海街の冒険者ギルドは、元公民館の癖に、和風な建物でドアはガラスのスライドさせるタイプのものだ。小生意気な。
自動ドアではないので、電気が貴重な崩壊後の世界においても使える。
何でこんな小さな街にこんな立派な公民館があるんだろうか……?
そう思って揚羽の親父に聞いたところ、かつての大震災の際に、古い建物が多い天海街は大きな損害を受けたから、公民館は避難所として活用でき、かつ、温泉街である天海街の景観を損ねないような建物になったらしい。
実際、この公民館は、世界崩壊時に避難所として活用されていた。大半はうちの洋館に来たが、百人くらいは避難していたそうだな。
そんな冒険者ギルドのドアをスライドさせて、中に入る。
すると、多数の冒険者で賑わい、騒ぐ……、と言うほどでもないが、建物の外からでも話し声が聞こえてくるような騒がしい人々の声の大きさが、一段階くらい下がった。
「おい、見ろよ……、羽佐間義辰だ……」
「アレが?普通じゃねえか?」
「馬鹿野郎、威圧感を抑える隠蔽スキルに決まってんだろ!」
「新人、あの男には触れるなよ……」
「羽佐間義辰と、セラフィーマ・ポチョムキナは、この天海街最高の錬金術師と魔導具技師であり、恐らくは、世界最強の人間だ」
「絶対に喧嘩を売るな、なるべくなら関わらないのが一番だ」
好き勝手言ってくれちゃって……。
実に光栄だね。
まあ、マジな話、俺と繋がって利益になる……、みたいな浅い考えで絡んで来られる方が迷惑だからな。
こんな感じで、「いじめっ子をボコボコにして流血沙汰にしちゃったいじめられっ子を見るような目」で見られる方がマシってことだな。
いわゆる、腫れ物に触れないようにされるってこと。
俺は、あくまでも普通の態度で、親しみやすいように私服で来ている。各方面に最低限の配慮はしているつもりだ。
俺が、ギルドの買取窓口に並ぼうとすると、先に並んでいた冒険者達の列がまるでモーセの奇跡のように割れる。
「あー、別に並んでも構わないんだが」
俺が言ったが、周りの冒険者達は、「いえ、とんでもないです!」と口を揃えて言って、列を譲る。
なら、とっとと魔導具を金に換えて帰ろうか。
俺がいると、冒険者の人達の迷惑になるからな。
「すみません」
「ひっ!」
窓口のお姉さんに声をかける。
「魔導具とポーションの買取お願いします」
「アヒッ、わ、分かりましたっ……」
明らかにビビっている受付のお姉さん……、いや、俺より年下なんだろうけどさ、受付の女性はお姉さんって呼ぶでしょ?呼びたくなるでしょ?
俺は、魔導鞄を下ろして、中から魔導具とポーションを取り出す。
「まず、こちらが、うちのシーマが作った最大MP上昇の指輪を三つ、『エンチャントファイア』の発動体を三つ。そして、中級のポーションを十本、中級のエリクサーを十本、中級のシャープネスオイルが四本、中級のアンチドーテが六本」
俺は、口に出しつつ、魔導具を机の上に置く。
ああ、因みにだが、発動体とは、そう呼ばれる部類の道具だ。
発動体とは、魔力を流すと決められた魔法を発動させる魔導具のことだな。
普通の魔導具は、例えば、常に火を纏っている『火属性』やSTRが増加する『筋力増大』などのスキルが、魔石がある限り、使用者に追加される。発動体はそれに付け加えて、特定の魔法なんかを使えるようにする機能が付いている。
魔法は、INT値に依存して、MPを消費して行使する「スキル」だ。忍術、呪術、陰陽術……、その辺りも、魔法と同じだな。
マジックスクロールは、決まった威力の魔法を、使用者のステータスに依存せず、一度だけ使い切りで、MPを消費せずに使用する「魔導書」の一種。
「発動体」は、INT値に依存せず、魔石で動く、もしくは魔石を消費して、一定の効果のある魔法を発動させる魔導具だな。
この他にも「魔装具」というものがあり、これは、使用者のINT値に依存し、MPを消費して使う。剣ならば魔装剣、杖ならば魔装杖などと呼ばれるな。
魔装具は、使用者が魔力を流す限り、魔装具に付いたスキルを発動させる訳だ。
スクロールは羊皮紙などの、紙という形であることが殆どだが、魔導具と魔装具には、上記の違い以外に外見的な違いはほぼない。
だが、この性質から、魔導具は誰もが持つ一般的な道具、魔装具は戦闘用の武器として扱われることが多い。
魔導具がいわゆるマジックアイテムで、魔装具が魔法の武器や防具という認識で良いだろう。
……なんか、そう言うと魔導具が要らない子なのでは?と思われるかもしれないが、魔導具は魔石で駆動するので、本人の魔力が切れても魔法を発動させることができるという利点がある。だから、自分の魔力を使うような魔法戦士型には魔導具の武器が外付けの武装としてよく使われるな。
また、出力が安定しており、INT値に依存しないでコンスタントな威力を誰もが出力できるのは大きな利点だ。
オーバーロードと言って、魔石を焼きつかせる代わりに出力を一定時間跳ね上げることも可能だ。
一方で魔装具は、使用者のステータスによって威力が左右される、ある種、玄人向けなもの。
まあ、オートマ車とマニュアル車の違いくらいのものだ。
それと、魔装具も、レアリティにもよるが、普通に使う分なら、自然回復するMPの量と、使って消費するMPの量は、よっぽど全力疾走しなけりゃ釣り合う。
「か、鑑定失礼します……?!う、あ、ス、スーパーレア?!レベル五十帯……?!」
十段階のレアリティのうち、五段階目のスーパーレア相当の魔導具は、レベル五十帯域のモンスターとの戦闘に使える。故に、レベル五十帯、と言うように表す。
ああ、それと、ポーションについては、回復量は割合で回復、上限ありって感じだな。
例えば、初級ポーションはHPの三割を回復するが、数値にして最大10しか回復しないのだ。
つまり、高レベルで高HPな存在に対しては、初級ポーションは役に立たないってことだな。
まあ……、天海街の冒険者のレベルは大体、平均して二十前後。中級ポーションは上限回復量が100、回復割合が五割だ。一般的な冒険者からすれば十分過ぎる回復力だ。
「で、では、精査しますので、しばらくおかけになってお待ちください」
「はい」
俺は、番号札を渡され、ソファに座って待つ。
すると……。
「おい」
赤塗りの、新世具足を着込んだ、恐らくはJOB:侍であろう男に話しかけられる。
説明しよう。
新世具足とは、JOB:侍の人間向けに調整された具足である。
仙台藩の雪下胴をモデルに、メギドライト等の軽く丈夫な金属で出来たスリムな胴、モンスターの革の足袋とゆがけ(手袋)、溝を入れて軽量化され、ポリエステル素材の柔らかいクッションの上に金属板の籠手と脛当てがあり、同じくメギドライト等を繋いだ佩楯……。
それに、アムドライト等の鉄線を通した帯に、太刀と小太刀を二本差し。
これが、この崩壊世界の侍の姿である。
この新世具足と、着流し、和服、刀、槍、薙刀、長巻、弓、古式銃は、侍が装備した時に、ステータスにプラスのボーナスが入る。
逆に、侍に適さない、西洋鎧、現代プロテクター、現代銃器、盾、斧、暗器、鞭、弩などは、装備するとマイナスのボーナスが付く。
侍は、メレー系物理戦闘職で、確認されているどのJOBよりも強力であるとされている。
JOBの変化条件は謎に包まれているが、データベースによると、侍へのJOB変更は、格闘系スキル、剣術系スキル、神降し系スキルの三つを持つことが最低条件であることは分かっている。
特に、『示現流』『柳生新陰流』『二天一流』スキル持ちは引く程強いので、引く手数多の物理アタッカーとされる。
他にも、日本固有のJOBは多数あり、例えば、強力なヒーラーの『神主』や、強力なスキルである忍術と異常なAGIを持つ『忍者』、メレーとして優秀で陰陽術スキルを持つ『陰陽師』などがある。
さて……、そのような、日本最強JOBの一つ、侍の冒険者が俺に何の用だろうか?
「何だ?」
俺がそう返す。
「わいがこん街最強の男か?」
ふむ。
「さあな、どうだろうか。少なくともお前よりは強いだろうが、最強かどうかは分からんよ」
すると、鹿児島弁の男は、裂けるような笑みを浮かべて、言った。
「良か、おいと戦えェい……!!!」
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