第50話 月兎の半生

じゅわっ。


鉄の鍋にごま油を垂らす。


ちゃかちゃか。


溶き卵を作る。


じゅわっ。


卵を炒める。


何をやっているのか?


そんなもんは決まってる。


「喫茶店ディメンション日替わりメニュー、豚角煮炒飯定食だ」


「いただきます!」


「ほら、月兎(るな)!いい加減スプーンの持ち方くらい覚えろ」


「は、はーい!」


喫茶店の営業だ。


例え世界が滅ぼうとも、俺は喫茶店を営業する……、それくらいの気持ちでいる。


まあ実際に世界が滅んだら女学生の尻が見られないから、人類が滅ばない程度に配慮してやるか、とは考えている。


さて、目の前には塚原月兎。


こいつは、俺の会社の元部下だ。


軽くこいつの経歴を話すと、母子家庭に生まれて、母親に虐待されて育ち、ある日母親を包丁で滅多刺しにして抹殺。


そして、中学卒業まで、孤児院のような施設で、腫れ物を扱うかのように育てられ、その間に独学でプログラミングを学習。ネット掲示板の世界にのめり込む。


中学卒業と同時に施設から追い出され、自殺しようとしているところを、俺が止めて、うちの会社に就職させる。


虐待児アンド発達障害のダブルパンチで、身嗜みやら食生活やらがあんまりにもあんまりだから、色々と世話を焼いてやる。


めちゃくちゃ懐かれた。


以上。


伸ばしっぱなしの髪の毛はまるでホラー映画、痩せっぽちのチビ。


顔は二十二歳とは思えないくらいの童顔。


体格も相まって、中学生でも通用するだろう。


今は、絶望的にセンスのない柄シャツとショートパンツ、黒ニーハイ。靴は運動靴で、アクセサリーの一つもつけていない。


女の魅力ゼロだが、飾り気のないダサい女は逆にそそる所もある。


さて、なんでこんなガキを拾ったのか?


いや、顔はめちゃくちゃ可愛いし、女学生っぽかったから。


そんで、試しに会社で使ってみると、馬鹿みたいに使えた。


俺もそれなりには賢くて、プログラミング関係もベンチャー企業を立ち上げるくらいには自信があったが、この塚原月兎という女はまさに格が違った。


ハッカーとしての腕前は、業界ならばデミゴッド(半神)と讃えられるであろうほどの腕前。


うちが開発していた統計解析のソフトのソースコードを一目で理解して、次の日には性能を二割り増しにしたバケモノ級のプログラマだ。


ぶっちゃけ、金で買った学歴が自慢のクソ新卒共より何百倍も使えた。


顔も良いし、若いしで、俺はしっかりと金を渡して、世話を焼いてやった。


すると、虐待児特有の、今まで甘えられる人がいなかったからと言う理由で甘えられたから、適当に甘やかしてやった。


まあ、境遇についてはそれなりに同情はするが、殺すならバレないようにやらなきゃ駄目だぞと伝えておいたが……。


そうやって、人殺しで発達障害のある自分に対しても優しくしてくれるところが大好きなんだとさ。


俺にとっては、人殺しだろうが発達障害だろうがカタワだろうが、「使える」か「可愛い」かで評価するからな。


人殺しと発達障害とか言う程度の減点じゃ、この塚原月兎と言う女の「使える」度合いと「可愛い」見た目の加点を下回らないんだよ。


ああ、それと、普通に俺に懐いているところも好きだ。


俺だって多少は人の心がある。


自分を慕う女を邪険にするほどひねくれちゃいないさ。


それで……、過去に、なんかそう言う雰囲気になって、抱いたこともある。


いや……、女癖の悪さについては自覚があるが、直す気はない。




さて、この塚原月兎と言う女は、俺に会いたいが為に、俺の身を案じて、比較的安全な暫定首都長野から、ダンジョンを攻略しつつレベルを上げて……。


ここまで会いに来てくれた訳だ。


何て可愛い奴なんだ月兎。


そこまで愛されているとは思わなかった。


俺の為に命をかけてくれたとは、全くもって嬉しいことだ。


そこまでしてくれたとなると、まあ、俺も出来る限りのことはしてやりたいと思える。


とりあえず、うちの洋館の一部屋をくれてやり、うちに住ませる。


もちろん、電気が使える部屋だ。


それとハイスペックPCを一台と、ベッドや服など、生理用品などをくれてやる。


なお、服は元から確保しておいたものを、生理用品は長野で製造されたものを渡した。


崩壊前の日本製の方が良いとシーマが言っていたが、流石に崩壊前の生理用品は既に在庫切れって設定だから……。


そんなこんなで、月兎は俺の洋館で飼っている。


レベルとスキルは十分にあるから、たまに勘を鈍らせない程度にダンジョンアタックさせて、普段は家でニートさせてる。


揚羽がなんだか不満そうな顔をしていたが、月兎の半生を知ると、可哀想なので俺のハーレム入りしても良いですとか言ってた。お前は何様のつもりなんだ?


俺の愛人気分でいるらしいんだが、許可した覚えはないぞ。


揚羽、羚、昌巳、そして月兎の四人は、冒険者パーティを組んで活動しているんだが……、他の男から言い寄られた時に、俺の愛人だからと公言しているらしい。


そりゃまあ、全員抱いたが、何度かヤったくらいで愛人だとかなんだとか……。


俺はガキも要らねえし、定期的に女を抱きたいだけで、面倒なデートやら記念日やらプレゼントやらはやるつもりはない。


他人には人間のクズだと罵られるが、正直な話、俺は、抱ければ商売女でも全く構わないのだ。


いやいや、やりたい奴は好きにすりゃ良いさ。


定期的にデートだなんだと言って金をかけて、毎日スケジュール帳とにらめっこして記念日を覚え、高い金をかけて時間もかけてプレゼントやら何やらを買い与えて、女のご機嫌とりのために右往左往すりゃ良いだろうさ。


ただ俺は、そんな風に、他人のためを思って自分のスケジュールを調整させられるのはごめんだね。


できない訳じゃないが、やるつもりはない。


あいつら四人も、俺の愛人という地位を利用してるんだ、俺も好き勝手させてもらうさ。

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