第45話 八月突入
「うーん、やっぱりおつまみカルパスじゃねえかこれ?」
「トリメンじゃない?トリメンめっちゃ美味いよ」
「トリメンは場外乱闘みたいなところがあるわね。ベイビースターじゃないかしら?」
「む……、このカレーせんべいが美味いぞ。軽いからいくらでも食える」
えー、先日、日本の一番美味いスナック菓子について揉めたので、色々な菓子類を集めてみんなで食べてみた。
結果、おつまみカルパス、トリメン、ベイビースター、カレーせんべい辺りが上位に入った。
異議は認める。
さて、ダンジョンのパンデミックによるポストアポカリプス世界の到来から五ヶ月後。
真夏の八月頃の日本に集まった俺達は、四人で駄菓子の食べ比べをして近況報告会をしていた。
「にしても、あっついな!気温四十度行ってるぞこれ!」
まあ、部屋はクーラーガンガンなんですが。
「じゃあ海行こうよ海!」
ノリノリのアーニー。
「なんかー、フィジーがガラガラみたいなんですけど、どう思いますー?」
俺が、究極地図のスキルを使用して、南の島が人が避難していてガラ空きであることを知らせた。
「「「「行くか!!!」」」」
そういうことになった。
フィジーでビール片手にバーベキュー。
ウイスキー漬けスイカを食べて、釣りしたり泳いだりして楽しんだ後、夕暮れ空をバックに記念撮影をしてから、解散。
いやー、今日も楽しかったなー!
一般人が生きるか死ぬかのポストアポカリプス世界で頑張っている最中、南の島で飲む酒のなんと美味いことか!
人生楽しい!
そして更なる吉報、雷属性の魔石による発電の成功だ!
大体、キャンディくらいの大きさの雷属性の魔石から、エアコンを一日動かせるくらいの電力が得られるらしい。
作成者はシーマ。
これにより、天海街の電力供給について大きく改善した。
この魔石をエネルギーに変える装置は、ハリアルシティにもヴァイスベルグにも流した。両方共、エネルギー問題の解決の兆しが!
それとこれは非公開技術だが、シーマの魔剣発電カートリッジも完成。
魔剣発電カートリッジとは、シーマのスキル魔剣創造にて作られる「永遠に電気を発する魔剣」を機械に組み込んで、永遠に電気を出し続けるバッテリーにする技術だ。
これは、俺とアーニー、ヴォルフ、シーマが私的に使うだけに留めた。
無限の電力なんて、絶対に面倒なことになるからな。
それはさておき……。
今の世界は、ある意味で安定している。
元から自給自足ができていた農村は江戸時代よりも昔に戻ったかのような生活を始め、競馬場やスタジアムのような場所で、土を耕して農作をしつつ、その辺から捕まえてきた鶏や豚のモンスターなんかを飼って暮らす。
他にも、海の近くではマーメイドやサハギンと、森の中ではエルフと共同生活を始める人間も多数現れた。
文明は数百年ほど後退したように思える。
日本の自衛隊は、東京を放棄して長野を本部に。
東京奪還は不可能として、長野での国家再建を進めている。
他にも、比較的無事な東北、北海道や、大阪周辺を除く西日本も再建予定らしい。
日本は、東京、大阪、札幌、福岡辺りの人口密集地はモンスター祭りなので、完全に放棄したとのこと。
天皇陛下も長野にいるとのこと。
日本人として、陛下がご無事で何よりだと思った。
愛国心は特にないが。
アメリカは、修羅の国と化した南部、富裕層が籠城する北部に分かれて、ほぼ鎖国状態。
ヨーロッパは、人口過密な首都圏は壊滅し、田舎町を暫定政府として再建中。
ロシアは、モスクワを放棄、西のハバロフスクに移動した。
中国は自国への核攻撃で機能が麻痺し、軍閥ごとに分裂。五胡十六国時代に後戻り。
アフリカと中東?あの辺りはもともと修羅の国だから。分裂しまくって大騒ぎになってるらしいね。元から金と武力があった石油産出国がちらほら生き残っているくらいで、大半の国は壊滅した。
南米はボロボロ。警察よりマフィアの方が強いような国は、自国の防衛もままならず壊滅した。
全体的に、地球は、中近世くらいのファンタジー世界に、時計の針を戻されたな。
そんな中でも、文明的な生活を続けられる天海街、ハリアルシティ、ヴァイスベルグ。
この三つは、世界屈指の安全がある都市国家として認知されるようになった……。
世界がこうなった以上、安全はタダじゃない。
リベラル(笑)などと言って偉そうに踏ん反り返っていられるような甘い世界ではないのだ。
しかし、リベラル(笑)の方々は、最後まで危険な首都圏に残って避難の手伝いをしていた与党の真っ当な政治家と違って、一般市民を見捨てて一目散に逃げたもんだから、割と生き残ってしまっている。
それに限らず、真っ先に死ぬべきだったクズ共が、まともな人を押しのけて生き残ってしまっているのだ。
死ねば良かったのにね!
真っ当な軍人や、本当に正義の心を持つ警察官などは、率先して前に出たから、壊滅状態にある。
つまり、この状況で生き残っている上層部の民度はお察しって訳だ。
まあ、俺も人間性的にはクズだからな。
他人に悪口は言えないな。
さて、何が言いたいのかと言うと、そんなリベラル(笑)のクズ共が、利益の匂いを嗅ぎつけて、天海街に移住しようとしてきていると言うことだ。
この世界において、安全は得難きもの。
成る程、それは正しい。
だが、現状、無産階級を受け入れるような余裕はないのだ。
いや、ぶっちゃけた話、スキルをフル稼働すれば、日本再興とかできるだろうけど。
でもほら、そう言うのって個人の力がどうこうじゃなくって、人々が一人一人頑張って成し遂げるものじゃん?
俺は一歩引いたところから見守ってるわ。
頑張れ。
だが、頑張る気がない奴らが移住してくるのは困っちゃうなー。
まあ、俺は街の運営とか全然関係ない、一介の喫茶店のマスターだから、特に口出しはしないけど。
なんか知らんけど、「これからは我々が街の運営をします!その代わりに働かないので食わせてください!お金もください!休みも下さい!」みたいな奴らが来るらしいよ?
大変だなあ、頑張れ。
「ふ、ふざけるな!お前らのような奴らは受け入れられない!出て行け!」
揚羽の親父がキレ散らかす。
おっ、どうしたどうした?
血圧グングン上がってるねえ!
キレてるよ!そこまで機嫌を悪くするには眠れぬ夜もあっただろう!
実際にチャチャを入れるとめんどくさいことになりそうなので、心の中で叫ぶ。
「何だと?!日本は民主主義国家だ!独裁は許されない!」
「あんた達は、今までは、ろくに働かずとも税金から給料をもらって生きてこれたのかもしれん!だが、今のこの世界に、あんた達のようなクズを養う余裕はない!!!」
「ク、クズだと?!我々××党は天海街の為を思って来てやったと言うのに!」
「誰もそんなことは頼んでいない!働かないなら出て行け!」
なーんかバチバチバトってますねえ。
まあ、俺には関係ないから、好きにやれば?
「よりにもよって、大恩ある羽佐間さんを『使ってやる』だと?!許さんぞクズ共め!羽佐間さんはお前ら政治家の都合のいい道具なんかじゃない!!!」
おっ、揚羽の親父、やるじゃん。
そのまま頑張ってくれ。
「う、うるさい!政府の命令なんだぞ!!!」
「じゃあ聞くが、お前ら政府とやらが何をしてくれるんだ?!この街の安全を確保する為に戦ったのは、この街の警察と羽佐間さんだ!物資を分けてくれたのも羽佐間さんで、後はみんなで協力して生きてきたんだ!お前ら政府は何もしてくれなかっただろう!」
「ぐ、そ、それは」
「それが、私達の生活に余裕ができてきたら、いきなり横から出てきて、『街の運営をしてやる』だと?!ふざけているのか?!要は私達の街に寄生する気なんだろう!寄生虫め!!!」
「き、貴様!政府からの支援はもうないと思え!」
「支援だと?!我々は◯◯党の議員さんと、しっかりと取引して物資を得ているんだ!お前ら××党が一体何をしてくれた?!」
「わ、我々はこれから、跡部政権を倒し……」
「此の期に及んでッ!まだそんな下らないことを言っているのか!!!」
うーん、話にならない奴と話しても無駄だぞ、揚羽の親父よ。
世の中には、話が通じない奴がいるもんだ。
同じ日本人なのに、日本語が喋れない奴だっている。
話が通じない奴に話をしても無駄なのにな。
まあほら、叫んでストレス発散になるなら良いんじゃね?やらせとこ。
結局、移住者は少数に留まった。
揚羽の親父、警察署の署長、大学の学長の三人が、天海街の運営をしているんだが、この人達が移住希望者の殆どを断ったからだ。
なんかそう聞くと、独裁しているように感じるが、移住希望者の殆どは、天海街に寄生したいクズばかりだったから断ったのだとか。
いや、感じるとかじゃなくて独裁だよねこれ。寡頭制による不正な権力の独占だよ。コワーイ。
そして俺は、独裁者がいる街で働く一般通過社長。何も悪いことはしてないです。
まあ実際、働く気のある人々は受け入れているらしいよ?
天海街では、働かない穀潰しは受け入れられないってことね。今の世の中、どこもそうだ。
俺?
俺は特別。
俺は良いの。
お前らは働け。
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