第44話 ヴォルフガング・ラインハルトの場合 その6

「へ、ヘリだ!」


「軍が来てくれた!」


「無事だったのか!」


人々に歓迎される中、ヘリコプターが、街の近くに降り立つ。


五台のヘリからは、アサルトライフルを構えた兵士が三十人降りてきた。


「モンスターから離れなさい!!!」


兵士達は、ペットモンスターに警戒している。


モンスターから離れるように警告をしながら、隊列を組んだ。


「ガウガウ!!!」


「ガオオ!!!」


「グオオオオ!!!」


ペットモンスター達は、敵意を向けられたことにより威嚇をしている。


そうか、ヴァイスベルグでは、ペットモンスターは既に当たり前のことになっているが、ドイツの軍部からすればモンスターは忌むべき敵対者……。


止めなければ!


「待ってくれ!」


俺はペットモンスターの前に出た。


「なっ?!ど、退きなさい!退け!」


「銃を下ろせ!このモンスターは敵じゃない!」


「な、何を言ってるんだ?!良いから退け!」


「やめてくれ、このモンスターは友好的な存在だ!」


しばらく、ペットモンスターを擁護していると、指揮官と思われる黒髪の男が前に出てきた。


「モンスターが敵ではない、とは?何故そこのモンスターは人間を襲わないのですか?」


どうやら、話のわかる人のようだな。


「ここにいるモンスターは、元は普通の動物だった。それをモンスターにして、従えているんだ」


「ッ?!モンスターを、従える?!」


「そうだ、モンスターを従える方法を詳しく教える。だから、武器を下ろしてくれ。対話がしたい」


「……分かりました。全員、銃を下ろせ!」


戸惑う兵士に指示をして、俺に歩み寄る指揮官。


「カール・ヴェルナー少尉です」


「ヴォルフガング・ラインハルトだ」




兵士達を、役所に案内する。


ヴァイスベルグの役所は、街の運営をする人々の働く場所だ。役所が役所として機能している。まあ、ほぼ何でも屋のような扱いだが。


役所は広いので、三十人の兵士も全員入れる。


代表として、フェイに話してもらうことにした。


俺は、話すことが得意じゃない。


フェイは、俺こそがこの街の本当の代表者であると宣言した上で、これまでのことをヴェルナー少尉に話した。


「……なるほど。それが本当の話ならば、本部に伝えなければなりませんね。では、現在のドイツの状況についてお話しします」


そして、ヴェルナー少尉の話を聞く。


要約すると、軍の本部はベルリンからフランクフルトまで後退し、人口密集地である西側も放棄。


中央のフランクフルトを中心に活動しているらしい。


既にスキルの習得については知っているらしく、軍主導のダンジョン攻略により、スキルを保有する軍人がいるらしい。


それらを中心に、戦線を維持して、どうにかやっているそうだ。


ふむ……。


「……と、このような状態です。EU圏はどこも同じような感じだと、上は言っていますね。他国の支援は望めないようです。それで、その……」


話の内容は、ヴァイスベルグとフランクフルトの交易の話になった。


ヴァイスベルグでは主に、豚肉、塩、ビールがとれる。芋、野菜、魚は渡せるほどはない。


それを伝えたところ、塩と引き換えに化石燃料を引き渡すとのこと。


レートを調整して、お互いが納得する程度のレートに。


早速、500kg程の塩を引き渡す。


塩は、近くの山や、ゴブリンのダンジョンでたくさん採れるので、多めに渡しても問題ない。


化石燃料は、どうにか他国から手に入れているらしい。


手に入る量は百分の一に満たないが、人口も百分の一程に減少しているから、割と資源の問題についてはひっ迫していないそうだ。


今度来るときには燃料を持ってくると約束をして、軍隊は去っていった。




ヴァイスベルグの住民は、軍隊が去るのを見て、残念そうな顔をしていた。


特に、ヴァイスベルグの外から来た人々は、軍隊に助けてもらえなかったことに対して憤りを見せている。


不味いな。


この期に及んでそのような物の見方をする人間は、間違いなく他人の足を引っ張る。


助けてもらおう、ではなく、助かるために努力しようと考えられる人間でなければ、この世界で生きることは難しいだろう。


「天は自ら助くる者を助く」だ。




まあ……、結局、問題は起きたのだが。


トルコ人の移民のグループが、ドイツ人の女性をレイプし殺害、その上で持ち物を盗み……、それを目撃した治安維持のための警備員とペットモンスターが男達を叩きのめしたそうだ。


男達はペットモンスターに襲われてかなりの大怪我で、手足を失ったりしたそうだ。


俺としては、既に報いは受けたことから、許しても良いと思ったのだが、住民達が強く反対。


治療もせずに、トルコ人の移民グループを追い出せという話になった。


いかんな……。


トルコ人の移民グループは、「追い出されたら行き場所がない」「反省している」「魔がさした」と主張しているのだが……。


「追放にしましょう」


フェイが、役場の会議場で、人を集めて言った。


「しかし……」


「先輩は優しい人だから、そういう決断を下せないと思います……。けど、もう、この世界じゃ刑務所とか言ってられる場合じゃありませんよ」


それは、もっともな話だ。


「私達が処刑をするのは駄目です。だから、追放にしましょう」


「この世界で街から追放されたら……」


「ええ、事実上の死刑です。けど、彼らは許されないことをしました」


む……。


「ここで甘い顔をすれば、また同じようなことが起きるかもしれません……。やるしか、ないんですよ」


フェイ……。


「……分かった」




そうして、重い罪に対しては追放というやり方で、街の治安を守ることにしたヴァイスベルグは、安定した運営が行われ……。






「今に至る」


「ほーん」


「普通」


「つまらん」


こいつら……。


「俺、スナック菓子はガルビーのコンソメパンチが世界で一番美味いと思う」


「おっ、味覚障害か?最強はドリタスだよ」


「いや、プルングルスのサワークリームオニオンね」


俺の話を聞いておいて、つまらない、とはな。


全く……。


「……俺は日本のカアルが好きだ」


「「「はい、味覚障害ー!」」」


何だと?


「カアル大して美味くねーから!駄菓子屋のコーンポタージュスナックの方がマシ!」


「日本の駄菓子ならビックカツだろ?!!」


「だったらキャベツ次郎の方が美味しいわよ!!」


はあ……。


まあ、俺が潰れないでやっていけているのは、お前らのおかげだ。


その点については、感謝している……。

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