第43話 ヴォルフガング・ラインハルトの場合 その5

避難生活が始まり、三ヶ月が過ぎた。


魔石暖房もしっかり使えることが分かり、ドワーフ達も大分街に馴染んだ。


この調子で穏やかに生活していきたい。


アーニーからもらった生活魔法の魔導書を回し読みさせておいたので、大きな問題は起きていない。


生活魔法のクリーンによって、衛生面を確保できることはあまりにも大きな利点だ。


食料も問題ない。


豚型モンスター、ブルームピッグで作ったヴルストと、芋や野菜、麦が主に食べられている。


粉をひくのがエネルギーを使うので、エネルギー資源に乏しいこのヴァイスベルグでは、オートミールのように、大麦などをひかずに食べるのが基本だ。


他にも、ダンジョンの中にある川から魚をとったり、ダンジョンの食べられる野草なんかも食卓に並ぶな。


さて、ある程度安定してきたことだし、自警団とフェイを引き連れて、近場のダンジョンを潰していこう。


「え?私が戦うんですか?!」


「ああ」


「うー……、その、危ない時は助けてくれますか?」


「フェイ、君は俺が命に代えても守ると誓おう」


「ふにゃ……?!せ、先輩、その、それって、プロポーズ、ですか?」


「いや、そう言う訳ではないが……?」


何故、プロポーズだと勘違いされてしまったんだ?


俺は、まあ、確かに、フェイは人間的な魅力も、女性としての魅力も、どちらも大きいとは思っているが……。


「先輩ぃ〜!もー!」


「な、何故怒る?俺は何か気に障る事でも言っただろうか?」


「ふん!もう良いですよ!ダンジョンでもなんでも、早く行きましょう!」


む……。


女性とは難しいものだな。


タツもアーニーも軽い男だ。


水素よりも軽い。


タツは、大学の頃、痴情のもつれで包丁を振り回す女に刺されそうになったことが四回程あった。


アーニーは、六股をして、それが発覚して殴られていた。リンチにされ、病院送りで二週間大学を休んでいたな。


俺も、二人に引き摺られて、旅行先の性風俗店に行って、そう言ったことをすることになった経験は何度かある。


しかし、娼婦とするのは、あまり気持ちのいいものではなかった。


そう言ったことをするには愛がなければならないと思うのだが……。


二人が言うには、俺は純情過ぎるらしい。




そうして、自警団の戦力増強ができた。


これで、レベル三十程のモンスターと渡り合えるだろう。


この辺りには、残りのダンジョンは四つほど。


一つ目は、主にブルームピッグが出没するので、資源として使う。


二つ目は、川のダンジョンで、エメラルドトラウトという魚型のモンスターが出る。ムニエルにすると美味い。他にも、燻製にして保存食にすることも。


三つ目は、スケルトンという骨のモンスターが出る。ここは、レベル上げ用の訓練所として使われる。スケルトンには、人型以外にも、動物型や多腕型などのバリエーションがあり、強さも階層によって大分違う。いい訓練になるそうだ。


四つ目は、レベル三十のゴブリンダンジョン。多様多種なゴブリンが出現する。階層も深く、アムドライトや鉄、石炭などが掘れるとのことだ。また、魔石や魔導具の産出も期待できる。


それと、10km先に、レベル四十五程の資源に富むダンジョンもある。


自警団の戦力増強、資源の増加。


実に素晴らしいことだ。




とある日。


俺は、母と、フェイと共に、昼食を摂っていた。


メニューは、いつも通り、ブルームピッグのヴルストを焼いたものと、ふかした芋、そしてザワークラウトとエメラルドトラウトの燻製だ。


レベルの上昇した俺達は、腹が減りやすくなっていると感じる。


街の人々も、積極的にダンジョンへ行き、レベルを上げているようだ。


俺が10個目の芋を口にしたところで、母が言った。


「……世界は、どうなってるのかしら」


「む……」


正直な話、二週間に一度の会合で、外国の情報は色々と入ってきている。


ロンドンは廃墟、パリもモンスターの巣、アフリカは暴動とモンスターのダブルパンチで壊滅。


日本は人口が四分の一程に、アメリカは東海岸はほぼ壊滅し、北の工業地帯に富裕層が逃げ込み、南はアーニー曰く「ポストアポカリプスもののテレビゲーム」のような状況。


ロシアも首都圏が壊滅し、人口が少ない極寒の村が細々と存在していて、モスクワを放棄。


中国は自国に核ミサイルを放ち、放射能汚染で壊滅状態。細々とした農村で、千年前くらいの暮らしをしている。


暗いニュースばかりだ。


だが、それを母に伝えることは、俺にはできない。


何故知っているのか問われたら困るし、こんなニュースを聞かせれば、母は不安になってしまう。


「……大丈夫だ、人間は強い。ヴァイスベルグが安定しているのだから、他もどうにかやっているはずだ」


俺はそう言って、母を元気付けた。


「そ、そうですよお母さん!きっと大丈夫です!」


フェイが言った。


「でも、ヴォルフのお友達は、世界中で大変なことが起きてるって言ってたのよね?」


街の皆には、俺が友人から警告を受けたことと、あらかじめダンジョンに潜っていたことを伝えてある。


「そうだが……、きっと大丈夫だ。俺は口下手だから、上手く説明できないのだが……、今、ヴァイスベルグでは、ペットモンスターを飼いならし、ドワーフ達と友好的な関係になれた。少しずつ、いい方向に向かっているはずだ」


「そう、そうね、大丈夫よね……」




そんな話をして、食事が終わった後に。


俺は、農家の人達に混ざって、畑を耕していた。


タツも、アーニーも、シーマも、あいつらはまるで働いていないらしいが、俺は、街のみんなの力になりたいので、日の出ているうちは、畑を耕して、家畜の世話をして、荷運びなどをして働いている。


別に、あいつらを批判する訳ではないが、俺は働くべきだと思っているから、働いている。


母は、子供の面倒をみたり、保存食を作ったりして働く。


フェイは、街の運営で毎日忙しく働いている。


俺もしっかり働かねばなるまい。


二週間に一度、あいつらと会って休んでいるのだから。


そうして、畑を耕し終えて、空を見上げると……。


「む」


ヘリコプターが見えた。

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