第42話 ヴォルフガング・ラインハルトの場合 その4
ヴァイスベルグにドワーフの集団が現れた。
食料と酒と引き換えに、鍛治仕事と警邏、街の防衛をしてくれるそうだ。
ドワーフは、人間より身長は小さく、また、鍛治魔法以外の魔法が不得手で、のろまではあるが、人間よりも丈夫な骨格を持ち、かなりの腕力と器用さがあるので、鍛治屋や戦士に向いているそうだ。
ヴァイスベルグで皆に相談をしたところ、ドワーフが法律を守るのであれば構わないと言うことに。
『どうじゃ?儂らをここに住ませてくれるか?』
「条件がある」
『何じゃろか?』
「法だ。人を殺さない、ペットを殺さない、物を壊さない、物を盗まない、強姦をしない。これを守ることだ」
『何を言っとるんじゃ、お主は』
「む」
『そんなもの、法でもなんでもなく、当たり前の事じゃろうが。儂らは理由もなく誰かを害したりはせん。それと、人間の女子は痩せていて、手足が長いから好かんぞ』
『然り』
『ドワーフの女子は豊満でええぞ!乳も尻も腹も大きくて、手足も短くて太い!せくしーじゃて!』
ふむ……?
つまり、ドワーフは、人間を性的な目で見ていないと言うことか。
「分かった。それと、人間の言葉を覚えるようにしてもらえるか?」
『ええじゃろ』
交渉成立だ。
二ヶ月後。
ドワーフ達、四百人程の街は、急ピッチで建築され、完成していた。
ヴァイスベルグに重なるようにして、ドワーフの砦が作られた。
ドワーフ達は勤勉で、即座にヴァイスベルグを増築した。
鍛治に使う反射炉のようなもの、鉄を打つ道具一式、よく分からない器具……。
そもそも、レンガ作りの家を二ヶ月で複数建てるとは、一体どうなっているんだ……?
聞いたところによると、セメントを乾かす魔法や、レンガを一瞬で作れるスキルなどがあるそうだが……、それにしても早い。
因みに、資材はダンジョンから採れるそうだ。
ヴァイスベルグの人々は、始めの頃は、ドワーフ達に怯えていたところがあったが、ドワーフ達は気難しいところがありつつも、基本的には明るい性格をしていたので、今では街に溶け込んでいる。
ドワーフ達は、順調に言葉を覚え、日常会話とは言わずとも最低限はドイツ語を話せるようになっていた。
そして、問題になったのは、通貨。
ドワーフ達と取引するにあたって、通貨が必要になった。
紙幣は駄目だとして、使えるのはユーロの硬貨だろうか。
ドワーフ達とも相談したところ、ユーロ硬貨並に精密な大きさと細工の硬貨ならば、偽装するコストより、普通に働いて稼ぐ方が楽だとのことなので、2ユーロ硬貨を使用することに。
ヴァイスベルグには小さい銀行があったので、そこから硬貨を拝借する。
以降は、2ユーロ硬貨で取引をする様に指示した。
他にも、遠出して銀行に侵入して、2ユーロ硬貨を拝借。
皆が2ユーロ硬貨で取引をする様に。
単位は「コイン」として、流通。
ビール一杯2コインだ。
それと……、電力についてだが、暫くは保つだろう。
あらかじめソーラーパネルの設置をしておいた。そもそもドイツは、化石燃料や原子力発電所を抑えて、再生可能エネルギーに転換する方針だった。
まあ、こちらは南の方なので、普及率は低かったのだが、街の皆にソーラーパネルの設置を勧めておいたが故に、十分な数を確保でき、助かっている。
最低限の電力は供給されているようだ。
次に、上下水道。
もちろん、止まっている。
ヴァイスベルグは古い街故に、井戸や水汲みポンプが残っている。近くに川もあるので、上水道は問題がない。
しかし、下水道は完全にどうしようもなかった。
仕方がないので、環境汚染を完全に無視して、下水道が川の下流に流れ込むルートを解放した。
せめてもの浄化を、と言うことで、汚水を食べるスライムを下水道に放ち、増殖させ、管理する。
ただ、ダムも何も機能していないので、川の氾濫などには気をつけなければならない。
因みに、タツの話によると、現在のニューヨークなどの主要都市は水没しているらしい。
特に地下鉄などは、水を止めるためのポンプが停止していて、水浸しだそうだ。
さて……。
現在、ヴァイスベルグは、色々な問題をある程度解決し、小康状態にある。
燃料など様々な問題があるが、今のところは問題ないだろう。
一番大きな問題は、冬だ。
ドイツの冬は寒い、雪も降る。
……それをロシア生まれのシーマに言ったところ、鼻で笑われたが。
それでも、雪が降るくらいには寒い地域だ。
燃料や保存食の用意をしなければならない……。
燃料は木だ。
今のうちに木を切り、薪を作っておかねばなるまい。
薪をストーブに使うと、大体一日10kg程。
冬が……、まあ、百日はあるとして、薪は1000kgは必要な訳だ。
そして、現在、ヴァイスベルグには三千人近くの人が住んでいる。
……どう考えても、保たない。
木材の当てはある。
ダンジョンにある木は切っても元通りになるから、ダンジョンから木を持って来ればいい。
しかし……、それでも足りないかもしれん。
経済学部卒なもので、歴史にはあまり詳しくないが……、中世では、薪の用意に長い時間をかけたらしい。
……駄目だ、俺はタツの様に博識じゃない。今役に立つ知識は持っていない。
そうすると、誰かに相談したいところだ。
『燃料?』
「そうだ。何か良い手はないか?」
タツに相談した。
『火の魔石使えば?』
「む……」
火の魔石か……。
モンスターからとれる無色の魔石に、火属性の魔力を込めるとできる、熱を発する石。
しかし……。
「火事が怖い。火の魔石はこの世界の人類にとって未知のものだ。扱いを間違えれば……」
『多少はしょうがないんじゃねえか?薪を割るよりかはマシだろう。亜人は大体魔石使ってるぞ』
「そうか……」
『ドワーフに聞けば?安全な使い方を教えてくれんじゃねえの?』
「分かった」
ドワーフ族の族長、ゴンガさんに話を聞く。
『火の魔石の使い方?魔力を流すか、火にくべればええ』
「安全面などは……」
『んー?火の魔石は燃やしても熱いだけで煙は出んし、燃え移ったりもせんぞ』
「扱う時に注意すべき点などは?」
『直接触らんことだな』
「それだけで良いのか?」
『そうじゃろ?』
ふむ……。
「火の魔石はどれくらい保つ?」
『ふむ、ブルームピッグの魔石を火の魔石にして……、半日程か?』
「随分と効率が良いな……」
『そりゃあ、魔力の結晶じゃからなあ。鍛治魔法の触媒にも使えるしのう』
成る程……。
少し、家で試してみるか。
少し試した結果、普通に暖かいことが分かった。
煙も出ていない。
……では、これは炎と言えるのだろうか。
酸素を必要としていない?
魔石は炭素ではないようだしな……。
謎だ。
しかし室温は三十度を超える程に暖かい。
ふむ……、謎だ。
まあ……、その辺りは、シーマが調べるだろう。
あいつはハード関係や化学に強い。
兎に角……、うちで一週間使ってみて、問題がなければ、冬に火の魔石を配布しよう。
……その間、そろそろ夏だというのに、暑い部屋にいなければならないのは、まあ、苦痛だが。
多少はしょうがないんじゃないだろうか。
多少は。
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