第41話 ヴォルフガング・ラインハルトの場合 その3

ヴァイスベルグ周辺のモンスターの間引きを終えて、帰還した俺。


やはり、俺は守りは堅くても攻撃力に欠ける。


レベル二、三十の弱いモンスターならば、俺でも一撃で倒せる。大体、レベル六十までは一人でも一撃で対応できる。


が、しかし、それ以上となると少々手古摺らされる。


確かに、攻性防壁などのある程度の火力が出るスキルもあるにはあるが、基本的に、相手の攻撃に反応して攻撃する、言わばカウンター的なものが殆どだ。


そんなことで四日の時が過ぎた……。




四日もすれば、それなりに生活にも慣れてくる。


人々は協力し合い、逞しく生きているようだ。


そう言えば、子供の頃から通っていた動物園はどうなったのだろうか?


確か、あそこの園長さんは、事故で家族を亡くしてからは、園の動物達が家族だと言って……。


職員の方々も同じような境遇の人が……。


………………。


行ってみるか。




「「「「ウッ、ウッ、ウォーーー!ウオオオーーーン!!!」」」」


うわあ……。


「すまない……、すまない……、私の愛する動物達よ……。もう、お前達に食わせてやる餌がないのだ……。斯くなる上は私の肉を……!!!」


「園長、私の肉を!」


「俺だって!」


「ま、待ってください、園長さん、職員さん」


「む……?君は……?」


「この動物園のファンだった子供の一人ですよ」


「オロロローーーン!そうか!そうか!ありがとう!ありがとう!良かったなあ、良かったなあ、みんな!最後にお客さんが来てくれたぞ!」


集まって泣いている職員さん達を集めて、動物のモンスター化について話す。


「ならその魔石を下さい!」


「迷わないのですか?」


「例えどんな形であっても、家族と共にいられるのであれば、私はそれで良いのです」


「そうですか……」




動物園の動物達はモンスター化により知能が著しく向上し、人を襲うことがなくなった。


よって、ヴァイスベルグに職員ごと移動して、永住させることに。


鑑定の結果によると、ペットを飼っている住人はJOBの欄が魔物使いになり、テイムスキルも保有していた。


ヴァイスベルグは、長閑な田舎町だ。


元軍人や警察官、格闘家のような、戦闘ができる人は少ない。


会社の人達も、オフィス街で働く人なのだから、特に鍛えている訳でもないので、貧弱。


貧弱……、は言い過ぎだとしても、基本的に、体力も筋力も並で、なにより、戦う覚悟がない。


これは仕方のないことだが。


一般的な社会人に戦わせるのは酷だろう。


数少ない警察官や軍人、格闘家……、精々百人くらいだろうか?


その彼らに、街の見回りと治安維持活動を頼んでおいた。


武器は取り敢えず、あらかじめ買っておいた特殊警棒と、街の鍛冶屋から買い取った手斧。


基本的に、警棒が対人用、手斧が対モンスター用としている。


今は鍛冶屋が急ピッチで武器を作っているらしい。


たまに、散発的に低レベルモンスターが襲いかかってくることもあるが、警察隊と街中のペットモンスターが協力して、外敵の野良モンスターを殺害しているようだ。


警察隊も、三メートルを超える虎やライオン、四メートル程の熊などを見て恐れているようだが……。


テイムスキル持ちが上手く緩衝材になっているようだ。


テイムスキル持ちは、自分のペットモンスターの散歩ついでに、街の見回りをしてくれる。


小さな諍いがあっても、ペットモンスターが吠えれば、大抵の人は矛を収めるだろう。


しかし、テイムスキル持ちが暴れ始めてはいけないので、警察隊を強化して治安維持に努める予定だ。




X DAYから二週間。


最近は、近隣にブルームピッグと言う、低レベルの豚型モンスターのいるダンジョンを発見した。


ブルームピッグは、普通の豚より1.5倍程大きく、革も丈夫で、肉も美味いので、資源としてかなり有効だ。草食で大人しいので、殺すことも容易である点も良い。


ブルームピッグの肉と腸で作ったブルームピッグヴルストは非常に美味いし、日持ちするので、肉屋は毎日、ヴルストの生産で大忙しだそうだ。


さて、二週間も経てば、段々と落ち着いてくる。


俺も、街の近隣を探索するようになってきた。


そう言えば、この辺りには高校があったな……。


………………。


高校、避難している人がいるのでは?


……急ごう。




高校の体育館は、避難民が押し寄せていた。


俺はすぐさま責任者と話をして、まだ居住地に余裕があるヴァイスベルグに案内した。


今、ヴァイスベルグには二千人以上の人々がいる。


その殆どが労働力のある年齢なので助かっている。


殆どの住民が畑を耕して暮らしているようだ。


長閑な田舎町で緩やかに暮らしている。


逆に、世界がこうなる前の方が辛かったという人も多い。


田舎で農業して暮らすのは、まあ、理想の老後の一つだろう。


スローライフしている。


街の周りには、タツに頼んで軽いバリケードを設置してある。


完璧だ。


しかし、問題が一つ。


武器がない。


先程、街の鍛冶屋が手斧を作っているとは言ったが、どうやら追いついていないようだ。


何せ、街の鍛冶屋はそもそも、武器を作ったことなんてない。


手斧も鉄製だ。


そもそも、鍛冶屋は一人しかいない。


このままだと、街を守る人の手が足りない……。


そんな時。


街にドワーフの集団が現れた……。




『おおい、おおい!人はいるかあ?!』


幸いにも、敵対的な様子はない。


「何だ?」


『おお、おったか!』


『人じゃ』


『麦畑もある』


「何の用だ?」


『ここに、儂らの打った武器がある』


鑑定……、アムドライト製の武器か!


これは欲しいな……。


『代わりに……』


「代わりに?」


『酒をくれえええええ!!!!』


『儂らの麦畑はダンジョンの外にあったんじゃ!転移してしまって、儂らは麦畑を失った!』


『もう備蓄の酒ものうなった!』


『酒が作れん!飯もない!』


成る程。


「分かった。交易をしよう」


幸い、ヴァイスベルグは食料が余り気味だ。


酒もたくさん用意してある。


多少分けても平気だろう。


『お、お、おー!酒じゃ!』


『パンもある!』


『これは……、芋の火酒じゃ!』


俺が、ドワーフが喜びそうなものを適当に渡した。


すると、ドワーフ達は非常に喜び……。


『お主らは、武器が足らんのではないか?』


「ああ、足りていない。ついでに、街を守る人手もいない」


『良ければ、儂らを雇わんか?』


『儂らも、地上に拠点が欲しくてのぉ』


『そちらが許可さえ出してくれれば、ここに引っ越すが、どうじゃ?』


む……。

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