第22話 ワーウルフとの交流の果てに
夕方、男共が酒を飲み始めた。
大倉教授も一口もらう。
「ん?んん?これ、本当にお酒?かなり弱めだね」
「確かに、ビールよりちょっと弱いくらいか?かなり薄めてますね」
「……犬はアルコールに弱い。ワーウルフもアルコールの分解酵素が少ないと予想できる」
なるほど。
弱い酒で簡単に酔うワーウルフ達。
酒はダンジョンでとれる芋から作られた濁り酒だ。
最後は酔っ払ってその辺で寝ていた。
俺達はルーガの家で寝袋で寝た。
朝、俺がアイテムボックスからコッペパンとジャムを出して大倉教授達に食わせた。
今日はワーウルフの食生活について調べるという名目で、色々と食わせてみる。
ルーガ達は今朝の狩りで暫くは仕事がなく、休みだそうで、暇そうにしている。
暇そうなワーウルフに色々と食わせてみる。
まずはリンゴだ。
『なんだこれ』
『果物だ、木の実だな』
『木の実?甘い匂いだ』
リンゴを齧るルーガ。
『……!!!美味い!』
『甘い!』
『甘くて美味い!』
犬は肉と甘いもの、匂いが強く刺激的でないものが好きだそうだ。
でも、基本的にワーウルフは匂いとかで体調を察したり個人と特定するなど、言語外のコミュニケーション手段があるから、語彙数が少ないようだ。
さっきからいい匂い、甘い、美味い、しょっぱい、くらいしか言わない。
しかし、未知の匂いに釣られてどんどん現れるワーウルフ。
『美味そうな匂いだ』
族長まで現れた。
チーズを食わせてみる。
『んー?これは……、乳の味がするな。いい匂いがするから美味い。少ししょっぱいな』
ジャムパンを食わせる。
『おお、これは甘くて美味いな。果実の味だ、甘くて酸っぱい』
因みにネギは匂いを嗅がせたら食べれないと言っていた。
確か犬はネギは駄目だったな、ヴォルフから聞いている。
主食は肉と芋らしい。雑食でだいたい何でも食えるとのこと。
しかし、農耕は別にやってない。
ダンジョンでは、勝手に植物が育つから、そのダンジョンから肉や植物を得ているらしい。
ダンジョンがなくなれば別のダンジョンがある場所に移動するらしい。
ここにいるのは、川が近くにあって、水と魚に困らないから、だそうだ。
あと、暑いのが苦手らしく、暑い日は川に入って涼む予定らしい。
その後は、ワーウルフの本を見せてもらった。
獣皮紙に鉱物から作られた顔料で描かれた絵と表意文字。
しかし、文字の数は少ないようだ。
使われる機会が少ないからだろうな。
×印を横に三つ繋げて『危険』と読む、とかそんな使われ方らしい。
文字ってかマーク?記号?レパートリーは少ないようだ。
戦士階級が尊ばれて、戦いが上手い奴はモテるらしい。
それと、人間の顔の違いは一応わかるらしい。
でも、ハンサムかどうかは分からないとのこと。人間の顔の良し悪しは分からないそうだ。
どちらかというと匂いで判別しているみたいだ。
俺はコーヒーとタバコの匂いが臭くて嫌だ、大倉教授は土の匂いがして好き、羚は木(紙?)とカビの匂いがして嫌だそうだ。
そもそも、ワーウルフは顔の形の良し悪しではなく、匂いとか毛並みで美醜を判別するそうだ。その上で更に、あまり美醜は気にならないらしい。
あと、発情期も年に何度かあるらしい。
それと、そうだな、無用な争いを避けるため、軽く日本語も教えておいた。
「テキイハナイ、ワレワレ、ワーウルフ」
「コトバ、ワカラナイ」
「ワレワレ、モンスター、チガウ」
まあ、こんなもんで良いだろう。
特定の単語を中心に、軽く日本語を教えておいた。
ワーウルフにも賢人がいるので、そいつらに教える。
賢人は魔法が上手く、ある程度の知識も持っていた。
百種類くらいの日本語の単語を覚えさせておいたから、まあ、人間が迷い込んでもある程度はどうにかなるだろう。
「タベモノ」「ネル」「イエ」「コンニチハ」「ニンゲン」「ワーウルフ」「アァイアチ」「ティバケン」「ハシッコ」「サヌイ」「アツイ」「カワ」
こんな感じに。人間が迷い込んできたら、天海街に案内しろと言っておいた。
でもこいつら、唇がないというか口の形が違うので、『ぱ』みたいな破裂音が話せないらしい。
それと、人間の簡単な習性とかを話しておいた。
さて、それでは、今度は逆にワーウルフを天海街へ連れて行ってみることにした。
ワーウルフ数百人の集落から、六人くらい。
戦士のオス二人、戦士のメス一人、賢人のオス二人、賢人のメス一人。
リーダーは賢人のガオンという男だ。
全員、うちで面倒を見る予定だ。
車に乗って数時間、ワーウルフ達は走ってついてきた。
ワーウルフのバイタリティからすると、数十キロメートルのランニング程度、ちょっと激しく動いたな、程度のものらしい。
天海街の門が開く。
人々が口を揃えてそいつらは何だと聞いてくるが、大倉教授が異文化交流だと言って窘めている。
そして洋館の一室に泊まらせ、天海街を案内させる。
万能翻訳のスキルがあるシーマも呼び出して、通訳として連れ回した。
『毛無しの街、大きい……』
『毛無しは凄い……』
しろがね屋の温泉にも入れる。毛が凄いことになるんじゃないかと思ったが今は毛の抜ける時期じゃないから平気らしい。
しかし、やっぱり多少は抜けるので、本日は貸切にしてもらった。
『おお……、これは……、温かい……』
『気持ちが良い……、温かい……』
『冬にここに来ても良いだろうか?』
あと、風呂上がりは全員犬のように震えて水を飛ばしていた。
そのあと、バスタオルを二枚使って身体を拭いて、ドライヤーで軽く身体を乾かす。
すると犬なのでふわっとした。
『おお、男前になった!』
『毛並みが綺麗になったな!』
『ふわふわだ!』
石鹸は人用の固形石鹸だったが、天然素材の肌に優しい石鹸だし、まあ、大丈夫だろう。
食事は犬に配慮したものを振舞われる。
ネギ抜きの親子丼、根菜の煮物、カブの漬物、豆腐とわかめの味噌汁。
『これは何だ』
『植物の種の上に、卵と鳥の肉を焼いてかけたもの』
先割れスプーンで食うワーウルフ。
『おお、鳥の肉の味と、卵の味と……、豆と魚の匂いがする』
醤油と出汁に反応している。
『こちらの汁も豆と魚の匂いがする。それとこの白いのと、海の草も美味いな、柔らかい』
味噌汁も好評だ。
『こっちの植物の煮込みも美味い。甘くてしょっぱい』
煮物も好評。
『この酸っぱい植物の塩漬けもコリコリして美味いな』
漬物も普通に食う。
それで、一人五人前くらい平らげた。
まあ、特に問題なくワーウルフ達は天海街への滞在を楽しんだようだ。
天海街からワーウルフの集落まで、数十キロメートル以上はあるが、ワーウルフなら二、三時間走れば来れるので、近いとのこと。
急遽お祭りなどで使う神輿を改造して、ワーウルフとの交易用の籠へ。
今後は、ワーウルフがたまに交易をしに来るようになった。
ワーウルフはダンジョン産の鉱石やモンスター肉とドロップアイテムなどを輸出してきて、代わりに酒や穀物、加工肉や乳製品、鉄器などを持ち帰る。
あ、あと。
「羽佐間さん、私は彼女に惚れてしまったよ」
「ワン、ワタシ、カズ、キュウアイ、コタエル、ウォオーン」
「あ、そうですか」
大倉教授はケモナーだった。
今回来ていたワーウルフの女の賢人と結婚するらしい。
ケモミミ美少女とかじゃなくって、顔面ガチで狼だぞ?
人外フェチとは業が深い……。
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