第21話 異文化交流

『取り敢えず、今回、ここに滞在させてもらう対価を払う』


『そんなもの、別に気にしなくて良いのだが』


『他のやつはどうか知らないが、少なくとも俺は他人に借りを作るのが嫌いなんでね』


『そうか』


俺は鞄……、と見せかけたアイテムボックスからメギドライトのファルシオンを取り出して渡した。


『これは……!メギドライトの剣か!しかもエンチャントまでかかっている!』


族長は驚いたようだ。


早速外に出て試し斬りをすることに。


「ガアァッ!!!」


族長が革の布を巻きつけてある木人を袈裟懸けに斬りつける。


すると綺麗に真っ二つに。


渡した剣はこんな感じ。


『NAME:ウルフェンロア

RARITY:スーパーレア

ATK:95

DEF:30

特殊効果

魔力耐性(小)

筋力増大(小)

敏捷増大(小)

メギドライト鉱石を折り重ねて作られたファルシオン(片刃の鉈剣)。良く斬れ、丈夫でしなやか、魔力を通し難い。鉈や斧としても使える。』


『おお……!素晴らしい斬れ味だな。気に入ったぞ!』


『刃が欠けたら生活魔法のリペアを、それ以上の損傷は鍛治魔法を使え』


そう助言すると、族長は大きく頷き、ファルシオンを鞘に入れ腰の後ろに紐でくくりつけた。


『こんなに素晴らしいものをもらったとなると、客人としてもてなさねばならないな』


『気にするな、俺達は普通のワーウルフの生活を観察したいんだ、変に気張る必要はない』


『そうか、分かった。確か、ルーガとオォルの家は、先日二人の両親が死んで、家の広さに余裕があるそうだ。三人くらいならそこに泊まっていけ』


『分かった、礼を言う』


「羽佐間さん、どうなりましたか?」


「こいつは族長。出来のいい剣を渡すと気に入って、集落に泊まっていけと言った」


「なるほど……、それは良いですね。では一週間ほど滞在しましょうか」


そんなことになった。




「良いですか、挨拶はこう、『こんにちは』」


「唸り声のような、吠えた犬の声のような……?」


「カタカナに直すと、ガルルォ、ですかね」


「これは何?と問う時にはなんと言えば?」


ふむ……、これは何?と聞いて回って、言語のデータを集めるつもりか。確か、アイヌ語の学者が同じようなことをしたと聞いたことがあるな。


「物を指差して、ガファ・ウルー?と問いかければ良いと思いますよ」


「ガファ・ウルー?……こうですか?発音は大丈夫ですか?」


「ああ、人間である以上、声帯が違うのでワーウルフの発音を百パーセント真似ることはできないと思いますよ。でもまあ、通じるんじゃないですかね。例えるなら、日本語を話す外国人みたいな違和感はありますが」


「よし……!では録音機器と、カメラと……!」


「あ、ちょっとカメラについて聞きますね。『おい、カメラ使って良いか?』」


『カメラとはなんだ?』


『これだ、光が出ると、風景を切り取って絵にすることができる』


『よく分からない』


『そこに立て』


『こうか?』


俺はインスタントカメラで族長を撮る。


『?!!何をした?!』


光に驚く族長。


『少し待て』


そして、インスタントカメラが写真を映し出す。


『ほら、見てみろ』


『これは……、俺か?それと、俺の家の風景だ。人間の、鏡とかいうやつか?』


『そんなところだ。こうして記録を残せる道具を、カメラという』


『ふーむ、面白いな。急に光るのは驚くが、楽しそうな道具だ。使って構わないが、それをくれないか?』


写真が欲しいと言ってきたので、額縁に入れて渡してやった。


『面白い絵だ、家族に見せる』


とのこと。


『それと、これも使う。音を封じ込める板だ』


『ほう、ここの毛無しは面白い道具を持っているな、どんなものだ?』


適当に族長を話させて、それを再生。


『小さな箱から俺の声が聞こえる。成る程、そういう道具か。誰かが困ったりはしないだろう、好きに使え』


「カメラと録音機器は好きに使えですって」


「分かりました、羽佐間さん」




さて、ワーウルフの集落のとある家に転がり込んだ。


『こんにちは』


『こんにちは』


頬を撫でられる。


頬を撫でるのが親愛の印なんだとか。握手みたいなもんらしい。


因みに顎を撫でて良いのは恋人や配偶者、親子や親戚のみなんだとか。


大倉教授達もそれにならって頬を撫で合う。


『少しの間、ここに泊まって良いか?』


『族長が毛無しの賢人が泊まりたいと言っていると聞いた。俺の家に泊まれ』


ルーガと名乗るワーウルフの男……、男だよなこれ、見分けがつかない。こいつの家に泊めてもらうことに。


家と言っても、獣の革でできた直径五、六メートルのドームみたいな建物だ。


『礼を言う、少しの間世話になる』


『気にするな』


『それと、人間の食べ物をいくらか持ってきたからやるよ。気にいるものがあれば、今度来た時持ってくる』


『本当か、それは楽しみだ』


さて、大倉教授と羚を連れて、集落を回る。


暇そうにしているワーウルフに話しかけ、情報を得る。


俺は通訳。


「この国は地震や台風がある、この家では耐えられないかもしれないですよ?その辺りはどう考えていますか?」


『家はすぐに畳める。災害があれば、一時的に家を畳んで、ダンジョンに逃げ込む』


「成る程……、しかし、ダンジョンにはモンスターがいて危険なのでは?」


『近くのダンジョンのモンスターはクラウンチキンだ。クラウンチキンは弱いから大丈夫だ』


「服を着たりはしないのですか?」


『俺達には毛皮があるのに、何で更に毛皮を纏うんだ?逆に聞きたいが、お前達は頭にしか毛がなくて寒くないのか?』


「ふむ……、そのような考え方をするのか……。確かに、私達は寒い季節は火のそばにいないと辛いです。それでは、信じている神様なんかは?」


『神?毛無しはよく創造神とやらを信仰しているが、俺達は祖神ルー・ガルーしか信じない』


「ルー・ガルー……、どんな神様なんでしょうか?」


『ルーは偉大なる、ガルーは狼と言う意味だ。ルー・ガルーは始まりのワーウルフで、最も勇猛な戦士だ。ガルフロド……、ワーウルフの楽園から、俺達を見守っている』


「ガルフロド……、北欧のヴァルハラのようなものでしょうか?では次に……」




俺も個人的に色々なことを聞いてみた。


『なんで腕輪をしている?』


『夫婦は揃いの腕輪をする』


結婚指輪みたいなもんか。


『腰布は?』


『腰布は戦士の証』


制服?


『首の布は?』


『女は飾り付けた首の布を巻きたがる』


ファッション?


『お前らはみんな似たような見た目をしているが、どうやって区別しているんだ?』


『そんなもの、匂いでわかるだろう』


『へえ、俺はどんな匂いだ?』


『お前からは焦げた豆のような匂いと焼けた草の匂いがするから、みんな分かる。遠くのやつも分かるし、今俺の家にいるのもみんな分かってる。酷い匂いだ』


コーヒーとタバコの匂いかね?


一応、分かったことをメモって羚に渡してやる。


羚はあまりフィールドワークは得意じゃないようだが、情報をまとめるのが得意らしく、忙しなくパソコンを操作している。


「ウォウオーーー」


あ、食事の時間だ。




家の中は光の魔石でぼんやりと明るい。


大倉教授はこれは何?これは何?と、料理の材料を一つ一つ聞いていく。


それを横から俺が解説。


「これはイガィ。さつまいもとジャガイモの中間みたいな芋で、ダンジョンの低階層でよくとれるものです。こっちはギャオン……、クラウンチキンのささみです。こっちはクォオン、人はキャベッジと呼ぶらしいので、人も食べていたものらしいです。ダンジョン低階層でとれるキャベツみたいな野草ですね。これはグ、塩のこと。これはハーブ類ですね」


ルーガの妻オォルは、まず獣の油を鍋に回した。


そこに、子供達が川で汲んできた水を入れて、沸騰させると、芋、キャベツ草、肉、ハーブを入れて煮込んだ。


仕上げに塩をふりかけて、味見をする。


『できたわ』


すると、土器のような茶碗に大きなおたまみたいなので盛り付けて、振舞ってきた。


木の先割れスプーンみたいなので食べるらしい。


「ガゥ、ガフ」


「ガルガルルー」


「ウォフ、ガフ」


ルーガの子供三人はがっついて食っている。それぞれ、美味いとか、熱いとか言ってるな。


大倉教授もいただきますと口にしてから、料理に手をつけた。


「おお、これは美味しいですね!優しい味だ……、ポトフのようですね。これだけの味の料理を作れるとは、ワーウルフの文明はかなりの物ですね」


確かに美味い。正直、ゲテモノが出てくるとばかり思っていた。


こんな普通のポトフっぽいものが出てくるとは思わなかったな。


『これはルルフルル、家庭料理の一つで、これが作れない女はいないわ。それぞれの家庭によって味が違うのよ。私はェルラとグーガを多めに入れるの』


ほーん、日本でいうカレーとか肉じゃがみたいなもんかな?


『明日はハルルァをご馳走するわよ。ハルルァは魚と芋の団子を焼いたもののことね』


ん?明日?


『夜と、明日の朝は?』


『?』


あー?あ、そういうことか。


『食事は一日一回?』


『一日一回よ?当たり前でしょ?』


あー、確か犬は食い溜めができるとかって、前にヴォルフが言ってたっけな。


『人間は一日三回食事するんだよ、だから、朝と夜に何か食べてても気にしないでほしい』


『あら、そうなの?』


そんな話をして、また取材だ。


全く、通訳だなんてな。

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