第20話 ワーウルフの集落

「悪魔は泣かないは楽しいな、オンライン機能が使えないのが悔やまれる」


プロの極まったコンボとかノーダメージクリアとか見て参考にしたかったんだが。


さて、俺は平日の昼間からゲームをやっている。


仕事がないからだ。


今日は喫茶店ディメンションの定休日。


シーマ?あいつは俺のヒモだ。家事すらやらないから主婦ですらない。


あいつはいつも昼頃にのそっと起きてきて、俺に飯をねだり、外で剣を振り回した後は洋館の中で酒を飲みながら葉巻を吹かして本を読むだけの生活を送っている。人間のクズめ。


たまに俺とセックスをして、ちょこちょこテレビゲームをやって、機械いじりしてドローンを飛ばしたりして毎日遊んでやがる。


しかも街ではなんか俺の愛人みたいに思われてるらしい。ファック。いや、ファックはしているが。


でも正面からの殴り合いなら負けるからな、追い出すこともできん。


殺そうと思えば殺せるが、殺すには惜しい戦力だしな。しゃあねえ、生かしといてやる。


それに、友人でもあるしなあ。


この街で交友(意味深)を持った、揚羽、羚、昌巳は、有用だが他で代替可能な存在……。


別に、「くくく、お前の代わりなどいくらでもいるのだー!」などと悪党ぶる訳ではなく、単なる事実。


昔、「ナンバーワンにならなくても、君はオンリーワンな存在なんだよ!」みたいなことを歌うなまっちょろい流行歌があったな?ほら、俺よりルックスも資産も微妙な男性アイドルグループのやつ。


だがアレは、思い切り嘘だ。


社会に出れば分かることなのだが……、人間ってのは基本的に、殆どが誰かの下位互換。


お前より、賢くて美しくて器用で強い奴は山ほどいるんだよ、と。


まあ当たり前だよな、代替不可能な個人でのみ社会を運用するなんてのは中世のやり方。現代人、資本主義、民主主義ならば、いくらでも代わりがいる一般人を歯車として社会システムを動かすのが正しい。


揚羽も、羚も、昌巳も……。


可愛いし、強いし、使える。


けど、こいつらより可愛い奴も、強い奴も、使える奴も、俺は自由に手に入る。


俺や友人達のような、資本主義社会では常識外の代替不可能な存在ではないのだ。


だから、あの三人の扱いは……、いや、あの三人の扱いこそ「愛人」そのものだよ。


シーマは、俺に餌を強請る程度ならスルーできる、「友人」だ。いくらでも作れる「愛人」よりも価値が高い。


そんな訳で俺は、サンドイッチとコンソメスープを作って冷蔵庫に入れておき、シーマに昼飯は冷蔵庫のサンドイッチとスープであると書き置きをして街へと遊びに行った。




まあ、遊ぶと言ってもやることはそうそうない。


ただ単に散歩するくらいのものだ。


さて……。


本屋に行こうか。


本屋。


天海街の駅前の近くにある、かなり大きめの書店だ。


ここは、風道羚の実家で、現在は全面改修して貸本屋になっている。


本を売る余裕はないからな。何せ、本を仕入れることができない。


そんなこんなで貸本屋となった風道書店改め風道貸本屋を冷やかす。


「よう、羚。調子はどうだ?」


「普通」


羚は手元の本から目を離さずにそう言った。


「そうかい」


俺は店内の掲示板を見る。


ふむ、貸本ランキング……、食べられる野草百科事典、サバイバル図鑑、料理本……。


まあ、貴重な本は大体は洋館の図書室に置いてあるしな。ここの本を読む必要はない。


でも有名どころの小説や漫画も大体は置いてあるし、世界の写真なんかは今となっては貴重品だよな。


エロ本だって貴重だぞ、この街に風俗はない。


そんなことを考えていると。


「……ん」


羚が俺の頬に口付けをした。


「どうした?」


「恋人になったから」


「あー……?そんな話もしたな」


まあ、羚は二十一歳だもんな、手を出しても問題はねえだろうよ。


揚羽は抱いたんだけど、こいつはまだだっけ?やる時は酔ってることも多いから、今まで抱いた女のことをあんまり覚えてないんだよな……。


ナカに入れれば感触で抱いたかどうか思い出せそうだが……、それは後で良いかね。


……問題は貧相な胸か?


良く言えばモデル体型ってやつなんだろうが……、胸が小さいんだよな。大胸筋がある分、俺の方がバストがでかいぞこれ。いっそ憐れみすら感じる。


あーでも、細っこい女も需要はあるよな。


流石に羚はガリガリって程じゃあない。細めってだけだ。


大学生らしく食欲はそれなりにあるみたいだぞ。


割と酒も飲めるし、頭も良いし。因みに人類学専攻だとよ。社会人類学を専攻していて言語学なんかもそれなりにできて、日本語以外にも英語とフランス語が話せるそうだ。


これからは世界がまるっと変わるだろうから、新しい人類史が歴史書に残されると思っていて、研究を頑張ると言っているな。


「人類学、ねえ……」


「?」


ふと、思ったんだが。


「人類以外には興味ないのか?」


「人類、以外?」


「亜人だよ、亜人については調べないのか?」


「亜人……?」


「あれ?話してなかったか?俺は各国のダンジョンを回るうちに、エルフやドワーフ、オーガ、ラミア、ワーウルフにハーピィ、リザードマンみたいな、人間以外の種族に会ったんだよ」


「そ、れは、全く違う文明を持つ、人間以外の知的生命体が存在するということ?!」


「ああ、そうだな」


すると、羚は手元の本を畳んで、店を出て、家に帰った。


家までついていくと、羚は、大量のメモ帳とペン、バッテリーと記録媒体、カメラにパソコン、着替えを旅行鞄にしまって、また外へ。


「教授、大倉教授」


「ん?おお、風道君か。何かね?」


今度は、とある大学教授の元へ訪ねて行った。


「教授、フィールドワークをしましょう」


「フィールドワーク……?」


「亜人の調査です」


「亜人……?」


「身支度を整え、フィールドワーク用のセットを揃えてください、早く」


「ま、待ちたまえ風道君。君は優秀な生徒だが、言葉が少ないことがある。コミュニケーション、相互理解は大切だよ」


「……すみません」


そして、羚は、亜人という、人間とは別の文明を持つ知的生命体の調査をしたいことを告げた。


そして、俺に教授を紹介してくる羚。


「義辰さん、こちら、大倉教授。人類学を専攻」


ほう。


「さて……、ご紹介にあずかりました、私は大倉和彦です。社会人類学専攻の博士です。羽佐間さんの噂はかねがね……」


「俺の噂?」


「ええ、天海街の指導者にして、最強の存在だとか」


「やめてくださいよ、最強だなんて……。あ、ご存知かもしれませんが、俺は羽佐間義辰、喫茶店ディメンションの店長です」


と、挨拶をして。


「いやあ、驚きましたよ。コンゴでのフィールドワークから帰国したらこのダンジョン騒ぎですから。さて、それで、亜人?との話ですが……?」


俺は懐……、ではなくアイテムボックスから、写真を取り出す。


「これは……!!」


そこには、ドイツで撮ったワーウルフの集落の写真、アメリカで撮ったリザードマンの集落、イギリスのエルフ、オランダのドワーフ、ロシアのイエティ、ギリシャのハーピィ……。色々な写真があった。


「凄い……!凄いです羽佐間さん!風道君、これを見たまえ!狼と人の間の子のような知的生命体が、火を使っている!つまりはホモ・エレクトス並の知能があると伺えるんだ!」


「ここに火打ち石らしきものがある。これで火を?」


「あ、これ炎の魔石ね」


「魔石?それはどんなものですか?」


「魔物やダンジョンから取れる魔力の結晶みたいなものですかね。赤いのには火の力が込められています」


「興味深い……!興味深いよ羽佐間さん!彼らの貨幣活動は?イデオロギーは?住居や食生活は?火を使う以外にどんな文明が?漁は?狩猟民族ですか?」


「あーあーあー、それは実際に見れば分かるでしょうよ。利根川にワーウルフの集落があります、見に行きましょう」


「は、ははは、凄い!本当に凄いですよ!人類以外の文明がこの目で見れるとは!待ってください、五分で支度します!」




車に乗って数時間、利根川の上流の方にあるワーウルフの集落についた。


車で乗り付けると、男のワーウルフが何人かで現れた。


『なんだこれ、走る箱?』


『中に毛無しがいる』


『出てこい!』


俺は車から降りて、ワーウルフに話しかける。


万能翻訳があるので、話せる。


『こんにちは』


『『『こんにちは』』』


警戒されているな。


『人間です』


『ニンゲン?』


『毛無しは自分達のことをニンゲンと呼ぶ』


『何しに来た、毛無し』


ふむ。


『彼らは学者だ。分かるか?学者』


『学者……?賢人のことか?』


『そうだ、その認識で良い。彼らは、お前達がどのように生活しているのかを見たいんだ』


『何故そんなことをする?』


『そうだな……、この国は人間の国だからな。新しくこの国に来た奴らがどんな風に生活をするか調べに来たんだよ』


『何の得がある?』


『お互いのことを理解すれば、余計な争いは防げると思わないか?お互いに簡単な言葉を教え合ったりすれば、話が通じて戦わずに済むぞ。それに、いずれは、交易をしたりするかもしれないだろ?』


『交易?交換のことか?何か持ってるのか?』


『色々とな。相互理解が大事なんだよ。お互いのことをよく知って、友達になろうじゃないか』


『友……。うむ、俺達も、余計な争いはしたくない。俺達は毛無しよりは強いが、もっと強いモンスターがいると知っている。弱い者は力を合わせて生きていくものだ。集落を見たいんだな、ついてこい』


良し。


「羽佐間さん、どうなったのかね?」


「ああ、最初は何で来たのかと警戒されましたが、お互いのことをよく知り、友達になりに来たと説明したら、ついてこいと」


「ふむ……、ファーストコンタクトは成功でしょうね。後は言語の問題ですが……」


「その辺はある程度通訳しますよ」




俺達は車を降りて、利根川の上流に来た。


群馬のダンジョンの居住域を拡張してきたらしく、木と獣の革でできたあばら家がそこら辺に建ち並ぶ。


「これは……、ロシアの遊牧民の作るチュムに近いように見えるね。その、写真を撮っても?」


「あー、聞いてみますけど、後にしてください」


そして集落の奥へ。


『毛無し、族長だ。挨拶をしろ』


『こんにちは、族長』


『こんにちは、毛無し。俺はルガル。貴様らの名は?』


『俺は義辰、この男が和彦、彼女は羚』


『んん?あー?タツ、カズ、レイだな?毛無しの名前は変だな』


『そうかい』


『それで、何をしに来た?』


『俺達はこの国に住む人間だ。そこら辺にいっぱいいるから、挨拶をしに』


『そうなのか?この辺りで毛無しを見るのは初めてだぞ』


『元々、ダンジョンがこの世界にできるまでは、沢山の人間がいた。しかし、モンスターが現れ、多くの人間は死んだ。今は残った人間が身を寄せ合って暮らしている。俺達はこの川の隣の隣にある川の下流の街に住んでいる』


『そうか。わざわざ挨拶に来るとは、毛無しにしては丁寧な奴だな。毛無しは俺達を見るとモンスターだと襲いかかってくるものだとばかり思っていたが』


『確かにそういう人間もいるだろうが、俺達はワーウルフと仲良くしたいと思っている。その為にも、少しの間、この集落にいて良いだろうか?』


『ふむ……、それは構わんが、我々を敵に回せば殺すぞ、分かっているな?』


『もちろん、露骨に攻撃をしたりはしないと約束するが、お互いに文化が違うだろう?それで礼を欠いた行動をしてしまうかもしれない。そこは大目に見てくれよ』


『む、良いだろう』


『いずれは交易をしたりする仲になれれば良いと思う。今回の訪問はその第一歩だ』


『良し、分かった』


さて、交流していこうか。

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