第19話 鍛冶屋の爺さん

俺とは全く関係のない話だが、天海街の鍛治魔法の使い手の腕が上がり、メギドライトの加工に成功したらしい。


この天海街には、知る人ぞ知る温泉街があり、そこにたまたま腕の良い刀匠が泊まっていた……。


そいつが俺に頭を下げて鍛治魔法を習って、それを独自に練習して、今では下級相当の鍛治魔法が使えるそうだ。


下級なら、ギリギリだが、メギドライトの加工が可能だ。


メギドライトってのは、ダンジョン産の金属で、四十レベルダンジョンで通用するくらいの価値がある。鋼のような性質を持つが、鋼の何十倍も丈夫で、かつ柔らかく、しなやかで軽い上に、魔力も弾きやすい高性能な金属だ。


さて、この男の凄いところは、名のある職人でありながら、古いやり方に拘らず、俺に頭を下げて鍛治魔法を覚えたところだ。


ビジネスに限らず、進歩する奴は侮れない。


日本では特に、古いやり方に固執する傾向があると思っていたが、このように自ら革新的なやり方に適応していく者がいるとは思わなかった。相手が若造であれなんであれ、教えてくれと頭を下げられる奴は強い。


名は、確か。


最上鉄心、だったか。




天海街では、最上鉄心の指揮の下、武器や防具の製作をしている。


主にレベル三十程のダンジョンから採れるアムドライトで武装やプロテクターを作っているらしい。


アムドライトは、アルミ並に軽く、タングステン並に丈夫な謎金属だ。


これで主に刃物を作って輸出しているらしい。


何故刃物かというと、銃弾が貴重だからだ。


兵器工場は殆どが閉鎖しているだろう。工場を動かせるほどのエネルギーの余裕はあまりない。そんな中で、貴重な弾薬を無駄遣いすることはできない。


火薬などの原材料もタダじゃないからな。


それに、レベルアップにより身体能力が上がると、銃を撃つより魔法や物理攻撃の方が強いということに気付くはずだ。


自衛隊の中でも、魔法を使えるようになった人がいて、そう言う人らは魔法の方がいいと主張しているらしい。


まあ、レベルが三十にもなる頃には、拳銃ではそうそう死なない身体になっているからな。


銃には限界があるってことだ。


ダンジョン産の素材を使って全く新しいモンスターにも通用する銃を作れる可能性もあるのかもしれないが、そう言ったものの開発者も今は少ない訳だしな。ポストアポカリプスなサバイバル的状況で全く新しい武器を設計開発するのは難しいだろう。


しかし、一部ではダンジョン産の素材で独自の武器を作ろうとする流れもあるそうだが……、格闘武器派、魔法推進派、新武器作成派で日夜議論が交わされているとか。


どれもこれも、一介の喫茶店のマスターである俺には関係がないことだ。




俺はイタリア書院のエロ小説を読みながら、喫茶店で女学生達を眺める。


ふむ、お嬢様高校生にぶっかけプレイ……、興味深いな。変態的で良い。


怪しげな薬で人間の限界を超えた精液を出せるということか……、こう言った想像力の働かせ方は素晴らしいと思う。


性的リビドーは大切だ。


その合間に、女学生の話を聞く。


「男子達って、最近、剣術ばっかりやってない?」


「ほんとほんと!あと鍛治やってる子も多いよねー!」


「でも女子も魔法やる子増えたもんね」


ふむ……、非日常だな。


今、学校では体育と同時に戦闘や魔法の授業があるらしい。また、技術家庭の比重も増えているそうだ。


朝食は学校持ちで無料支給、昼飯夜飯や雑貨は自分でバイトした金で買えという形式。


学生の多くはバイトや警備隊の見習いとして生計を立てているようだ。


流石にもう四ヶ月は過ぎた。家族を失った学生も、生活に慣れてきた頃だろう。


上手く回っているようだな。


数学者や人類学、歴史などの直接的な技術にならないものは発展しづらいように思えるが……、まあ、その辺は俺の管轄外だ。俺は困らない。


「笹中君なんて今レベル二十五らしいよー!」


「えー!凄い!」


「笹中君、元から剣道部の主将だったもんね」


ふむ、笹中……、聞いたことがあるぞ、シーマが少し鍛えてやったとか言っていたな。


「で、その笹中君は、山岸さんと付き合ってるらしいよ!」


「えー!嘘ー!」


「それ本当?!」


流石は女学生。惚れた腫れたの話は大好きなんだな。


そんなところも可愛らしい。


それに、純真に恋愛ができるのなんて子供のうちだけだ。


大人になるとどうしても年収だとか身体の相性だとか学歴だとか……、そういう話になってくる。


純粋な気持ちで人を好きになれるのはガキの頃だけなのかもな。


俺ももう、純粋な気持ちで人を好きになることはできそうにない。どうしても利益があるかどうかで考えちまう。悲しいねえ。


「でも最強はマスターさんだよね!ねっ、マスターさん!」


えっ俺?


「いや、俺はレベルが高いだけでそんなに強い訳じゃないよ」


「マスターさん謙虚ー!」


「そういうところもカッコいいよね!」


おや、モテモテだ。


「マスターさんは天海街最強の男だもんね!」


最強、ねえ。


正直に言って、俺達はスキルに恵まれただけだ。


俺の素のステータスでは、レベル七十のモンスターに敵わないくらいだろう。


人間という種族の限界なのか、生物としての格の違いなのか、その辺りは分からないが、人間なんてそんなもんだ。


スキルがあって初めて、レベル九十超えの災害クラスのモンスターに立ち向かえる。


九十超えのレベルのダンジョンを覗けば、人の身で最強などとは口が裂けても言えなくなるだろうよ。


「俺は最強なんかじゃないさ。もっと強いモンスターがいるよ」


「それってホントですか?」


「そんな怖いモンスターがいるんですかー?」


「ああ、嘘だと思うなら、東京23区に行ってみると良い。あそこは化け物の巣窟になっているよ」


「えー、怖ーい!」


「でもでも、天海街はマスターさんがいるから平気ですもんね!」


はぁ?


なんで俺が頼られてんの?


この街の認識はそんな感じなの?


うわめんどくさ。


確かに女学生は好きだけど、自分の身が危険なら普通に見捨てるぞ俺は。


資本家が一番高く見積もってるのは、自分の命だよ。


俺はこうして生活の為に、今はやりたくもない仕事をやっている(喫茶店は趣味)んだ。この面倒な仕事が終われば、すぐにでも遊んで暮らすぞ。


「さあ?世の中には君達では考えられないくらいに強いモンスターがいるんだよ。ヤバくなったら俺も逃げるさ」


「その時は私も一緒に逃がしてください!」


知るか。


「ああ、考えておくよ」




それで、だ。


何故か最上鉄心が俺の目の前にいる。


「これを」


メギドライトの刀を渡される。


鑑定。


『NAME:戦終鉄心

RARITY:ベリーレア

ATK:75

DEF:20

特殊効果:魔力耐性(小)

メギドライト鉱石を折り重ねて作られた日本刀。良く斬れ、丈夫でしなやか、魔力を通し難い。』


レアリティってのは、下からコモン、アンコモン、レア、ベリーレア、スーパーレア、レリック、アーティファクト、ファンタジア、レジェンダリー、ミソロジーの十段階になっている。


レアリティに比例して価値が高く……、つまりレアリティの高い剣なら良く斬れて、レアリティの高い酒なら美味い。


鑑定を色々とやったが、数千万円の五十年もののビンテージワインですらベリーレアが限界だ。


人間の科学で作り出せる工業製品では精々レアが良いところ。


基本的に、人間が今現在の科学で作れるのはレア辺りが限界だ。


そんな中でベリーレア相当の、しかも特殊効果付きの武器を作るとは、かなりやるな。


まあ俺の愛用している鉾槍はミスリル製のレリック級だがな。


実はレジェンダリー装備も持ってはいるが、それを人目につく場所で使うことはないだろう。


ミソロジーは未だに見たことないな。


因みに、何故レアリティが十段階あると知っているのかというと、ダンジョンに住む亜人に聞いたからだ。


ダンジョンには、亜人が住んでいることがある。


そんな亜人達と物々交換したり世間話したりセックスしたりして、色々と情報を得ている。


イギリスの奥地のダンジョンにはエルフが住んでいて、エルフ達は非常に賢くて知識もあるから、そこで良く話を聞く。若い子を口説いて、ピロートーク代わりにベッドの上で貴重な情報を話してもらえたりもする。


さて、それで。


「どうだ?」


感想を求める最上鉄心。


「さあ?いいんじゃないですか?」


どうでも。


「そうか」


職人らしく言葉数は少ないが、手応えありみたいな顔をして帰っていく鉄心のじいさん。何だあいつ……?


……どうでもいいや。さあ、俺は休もう。


帰ってシーマとテレビゲームをやるぞ。

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