第23話 迷い人達 前編

春が始まる頃。


私、長澤夏希の世界は壊れてしまった。


突然現れた、ファンタジー小説の中から飛び出してきたかのようなモンスター達が、人を殺して回った。


私達、人間は逃げた。けど、どこへ逃げてもモンスターがいた。


なので、隠れた。


幸い、私の通っていた学校は、災害に備えた避難地になっていて、食料も水もあったし、なんとかなっていた。


けど、最近は……。


「食料が、もう殆どない……」


お父さんが言った。


もう、終わりだと。




大人達が話し合った結果、都市部の方がモンスターが多いとの情報が。


ビル街から命からがら逃げてきたという人が言うところでは、都市部には大きなモンスターが多く、とてもじゃないが太刀打ちはできないとのことだった。


逆に、少し田舎の方だと、小さめの、倒せるくらいのモンスターが多いとのこと。


政府は、自衛隊は、助けに来てくれなかった。


きっと、世界中がこうなってるんだと思う。


自衛隊も、多分、殆どやられちゃったんだと思う。


政府の支援はもう期待できない。


自分達で行動するしかない。




人間が活動するのに必要なのは、やっぱり水が一番大事だ。


ということになって、川を下って移動することになった。どの道、水道が出ないんだから、川の水を飲むしかない。


この街の近くには、利根川という大きな川がある。


そこで水を補給しながら安住の地を探すことになった。


他にも、ラジオの言葉を信じて、自衛隊の基地を目指す家族や、他の避難所を目指す家族もあったが、私達と十家族くらいは、とりあえず利根川を目指すことに。


最近は暑くなってきたから、水の近くにいれるのは嬉しい。水の近くは涼しい気がする。


私達は、利根川を目指して移動した。




利根川はとても綺麗なところで上流の方なら、携帯浄水器でろ過すれば飲めないこともないらしい。


綺麗に見えても、川の水をそのまま飲むことはできないんだって。


いやまあ、できないってことはないのかもしれないけど、何が入っているかわからない訳で、やめた方がいいのは確かだ。


水を浄水器を通して、ポリタンクに入れる。


因みに、携帯浄水器はホームセンターから拝借したよ。もう、お金とかそういう話は関係ないしね。


ポリタンクとか、登山用の靴や鞄、ナイフなんかも拝借。


それを背負って、長い距離を移動する。


今年で四十歳になるお父さんやお母さんは、普段そんなに運動しないから、かなりきつそうだ。


けど、娘である私の前で弱音を吐かないように、しっかりしてくれている。


お父さんなんて、タバコを沢山吸っていたから、階段をちょっと登るくらいで息切れしちゃうのに、頑張って歩いている。


それで、その上で、私を心配してくれている。


私は、まあ、陸上部でそれなりに体力に自信はあるし、靴も登山用の丈夫なものだから、歩くだけなら平気だ。


私がしっかりしないと……。




みんなで利根川の上流を歩く。


この辺りにはモンスターは少ないみたいで、襲撃もなかった。


避難所の学校にいた頃には、たまにゴブリンとかが現れて、襲いかかってきて、男の人達が協力して追い返すことがあった。


私達、長澤家と、他に十家族くらいが集団で移動している。


いつ、強いモンスターが現れて襲われるか分からない緊張感で、みんなストレスが溜まっている。


夜なんかは野宿で、しかも交代で見張りをしなきゃならない。


こんなの、長くは続かないよ……。


でも、モンスターの襲撃は少ないのは助かるね。


それにさっき、幸運にもコンビニを見つけることができたから、食料はどうにかなりそうだ。


「おーい、コンビニのバックヤードに、カロリーメイドがたくさんあったぞ!」


「それとジュースとかもあったぞ、乾麺とか缶詰とかもある!」


良かった、これでひとまずは安心だね。


このまま利根川を中心に活動する感じにしていきたいな。


でもやっぱり、肉とかは狩らなきゃいけないだろうし……。


いや、頑張って生き延びれば、いつか自衛隊が復活したりとか……。




兎に角、希望は捨てちゃ駄目だ。




そう思っていたのに。


「ウルル……」


「ひっ?!あっ、ああ……!!」


見つかってしまった。




狼人間……!!!


きっと、強いモンスターだ……!!!


に、逃げなきゃ!みんなに知らせなきゃ!


「ウルル、ウォーーーン!!!」


「ひいっ!!!」


「ルアァ」「ウルグルア」「ルルア!」


あ、ああ……!


こんなに、たくさん……!!


「ウルァ……」


逃げなきゃ、逃げて……!


……逃げて、どうするの?


囲まれている、きっと逃げられない。


大人しく殺されるくらいなら……!!!


「お前が、死ね……っ!!!!」


私はナイフを抜いて、狼人間に突き立てた!


しかし。


「ワオン!」


腕を掴まれて、刺せなかった。


「クソッ!死ね、死んじゃえ!!!」


私は暴れた。


殴ったし、蹴ったし、噛み付いた。


そして、疲れて動けなくなった。


ああ、終わりか。


生きたまま食べられるのは、きっと痛いんだろうな、なんて考えた。


すると……。


「ミトェゥ」


「え……?」


「オマエ、ユウカン。センシ、ミトェゥ」


そう言うと、狼人間達は、私を抱えて、奥へと向かう……。


「だ、駄目っ!私のことは食べていいから、お父さんとお母さんは助けてっ!!!」


『なんて言ってんだ?』


『分かんねえ。毛無しの言葉がちゃんと分かるのは、毛無しの街へ行った女賢人のルリャだけだ』


『こいつ、まだ暴れようとしていやがる!毛無しとは思えないくらいに勇敢な戦士だな』




そして、私達が隠れていた、川の管理倉庫を見つけた狼人間達。


「駄目!お父さん、お母さん、逃げてー!!!」


「夏希?!!」


「そ、そんな、モンスターめ!!」


すると、狼人間達は、お父さんに言った。


「ォンスター、チガウ!」


「ワレワレ、ワーウルフ」


ワー、ウルフ……?


「ワーウルフ、ニンゲン、クワナイ」


「ほ、本当か?」


「?ワウ!」




ワーウルフ?達は、どうやら、あまり言葉の意味は分かっていないみたいだけど、最低限の日本語は通じるように思える。


「シュウラク、コイ」


「ケンジン、ハナス、ニホンゴ、スコシ」


けんじん、賢人かな?


「その、貴方達は話せないんですか?」


「?ワフ!」


うーん……。


「よ、よく分からないが、娘を返してくれ」


お父さんが言った。


「?」


「娘を、その子を返してくれ!」


「ルゥ……?ユウカン、センシ、ォテナス」


「ニンゲン、シュウラク、コイ」


少なくとも、その、集落?には、日本語が話せるワーウルフ?がいるのかもしれない……。


「お父さん、行ってみよう」


「し、しかし……」


「ここにいても、何も変わらないよ。兎に角、行ってみよう」


他の家族の人達も、ワーウルフに捕まって、集落に連れて行かれた……。




「その、ワーウルフさん」


「?ワン!」


「何で、人間を連れて行くんですか?」


「?ワウ!」


「……はぁ」

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