第14話 友との再会 2

ドイツの田舎町、ヴァイスベルグに行く。


転移。




ここ、ヴァイスベルグは、親友のヴォルフが避難している街だ。


しっかりとした革張りのソファーに腰を下ろし、コーヒーを飲むこの男。


ヴォルフガング・ラインハルト。


俺の数少ない親友の一人だ。


こいつはクズではない。


むしろ、幼い頃に父を亡くしたが、街の人々の援助と、母親の努力によって、大学まで通えるようになったことを感謝しており、母親や街の人々に恩返しをしたいと思っている善良な男だ。


俺はこいつのクソ真面目でまともなところが大嫌いだ。


でも友人に対して実直で、嘘をつかないところは信用できるし、嫌いじゃない。




「で?」


「……で、とは?」


「どうなんだ、この街は」


「む……、避難してきた人は千人に満たなかったが、段々と人が集まり、今は総員で三千人程だ」


増えに増えたな。


「元々は何人くらいいたんだ?」


「元々、この街には五千人の人々が住んでいた」


五千か。


まあ、ドイツの片田舎って言ったらそんなもんなのかね。


ん?


「お久しぶりでございます、羽佐間殿」


お、犬。


「久しぶりだな、ルディ。おーよしよし」


「わふわふ」


この喋る犬は、ヴォルフの愛犬にして、進化に進化を重ねて現在レベル七十三のティンダロスハウンドになった元犬のルディ。


オス、六歳。好物はソーセージ。


銀の毛並みに紅い瞳、体長3メートルの化け物だ。


戦闘時は転移魔法による奇襲と風魔法を得意としている。


ヴォルフにテイムされている元犬だ。


「あー、そういや、今この街ってポケットなモンスターみたいな感じらしいな」


「む、そうかもしれない。昔からこの街はペット愛好家が多い故、今回の世界崩壊に伴い、ペットをモンスター化させる飼い主が多かった」


自分が食っていくにも困る状況で、ペットなど飼っていられない。


ペットを捨てなくてはいけないペット愛好家達に、ヴォルフは、新たな選択肢を提示した。


それが、動物のモンスター化である。


ルディがキャンディと間違えて魔石を食ってから、狼のモンスターになったこと、魔石を与え続けると進化することは確認できた。


つまり、他の動物にも、魔石を与えるとモンスターになるのでは?とヴォルフは考えたのだ。


故に、村の人達に魔石を見せ、これを食べさせればペットはモンスターになってしまうが、強くなり、一緒に居られるようになるかもしれないとヴォルフは街の人達に伝えたのだ。


ペット愛好家達は、ペットを今のモンスターだらけの危険な自然に帰すくらいならと、自らのペットに魔石を与えた。


すると、ペット達はモンスターへと進化して、自分で獲物を狩ってくるようになり、雑食になり餌の心配もなくなり、老いたペットもモンスター化により健康になって、共に暮らせるようになった、らしい。


「テオドールおじさんのインコはレベル三十五のステュムパリデスに、エマおばさんの黒猫はレベル三十六のナイトストーカーに、ハロルドさんの熊はレベル四十のブラッディベアーに……、と言った感じだ」


「熊飼ってる人も居んのかよ?」


「ああ、首都圏なら難しいかもしれないが、この辺りは規制が緩くてな」


なんでも、この街はペットを飼う人が多く、危険な肉食獣でも割と簡単に許可されるらしい。


「他にも、山猫や虎、馬、蛇なんかを飼っていて、モンスター化させた知り合いが多いな。近くに動物園もあって、そこの職員が動物を連れて逃げて来たりもした」


「通りで……」


俺はカーテンを開く。


「ギャオー」「ウォーン」「ピピー」「グルルォー」「ワンワン」「パオーン」


「街中が鳥獣戯画な訳だ」


見るからにおかしい光景……。


長さ5メートルはあるであろう蛇がおっさんの背後をついて地を這い、プテラノドンくらいでかい鳥が男に撫でられて、普通の馬の1.5倍くらいの馬にばばあが跨っている。4メートルくらいの象が女に連れられて道を歩き、デカい虎みたいなのが男にじゃれついている。


「いやおかしいだろ」


これは政府に目をつけられるのでは?


「……この前、軍人がうちにやって来た」


やっぱりな。


「で?どうした?」


「モンスターと共存していることを驚かれた。モンスターから取れる魔石を飼い慣らした動物に与えると、動物がテイムされたモンスターになることを伝えておいた」


「それだけか?」


「それだけだ。政府に干渉されたくはない。俺も、出来るだけ多くの人を守りたいが、出来ることには限りがある」


ほう。


「お前に言われた通り、ステータスはスキルで偽装し、あまり前に出て戦わないようにもしている。まあ、そもそも俺は攻撃は苦手なのだが」


「なら良い。間違っても政府に手を貸したりするなよ」


「分かっている。俺が甘い男だってことも理解している。気をつけるぞ」




「食料は?」


「近くにブルームピッグという、レベル六の豚に似たモンスターが湧くダンジョンがある。そこを狩場にしている」


成る程、ドイツ人は豚肉好きだよな。


「それと、この地域は元々酪農と農業、酒造なんかをやっているから、野菜や穀物はある」


成る程な。


「じゃあお前は何をしているんだ?」


「む、週一回の狩りと農業だ」


あれ?


「じゃあ、ここの指導者は?」


「フェイに任せた」


フェイってのは確か……。


「お前の後輩の女だったな」


「ああ、フェイは信頼できる。……しかし、フェイは俺を上に立たせたがる。実際にこの街を指導しているのはフェイなのに、俺がリーダーだと」


ほー。


「お前、他人に指示するみたいな器用なことはできないのにな」


「そうだ、俺は不器用だ。フェイにも困ったものだ。だがそれは、フェイの信頼の現れだと思う」


ふーん?


「抱いた?」


「……抱いていない。フェイは信頼できる後輩であって、そういうものじゃない」


ふーん。


こいつ貞操観念がガチガチだからな。


「誘われてんじゃねえの?」


「……確かに、フェイは、その、俺の前でそういう態度をとることが多い」


「はよ抱けや」


「し、しかし、その前に親御さんに挨拶をして、式を挙げなくては」


「今更そんなことができるかよ、はよ抱いてやれ」


コンドームを押し付ける。


「む、むむ」




「じゃあそろそろ帰るわ」


「また来い。夏にはビールを作る予定だ」


「おう、そしたらまた四人で飲むか」


「ああ」


帰ろう。


転移。

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