第15話 ダンジョン農地

世界崩壊から三ヶ月くらい。


天海街の人間は、少なくとも食うものと着るもの、住む場所については困っていない。


肉は近隣のダンジョンのモンスターから獲れる。


ホーンラビットとブラウンボアの肉は天海街の生命線だ。どちらもレベルが低いので、街の警備隊の訓練代わりに狩ってくるなんてことも多々ある。


最近では警備隊と狩人隊を分けるかもしれないなんて話も来ている。なんでそんなことを俺に話すんだ?好きにやれよ。俺は別にお前らの上司じゃないんだが。


着るものについても、俺が外から調達してきたみたいなノリで、完全複製でこっそり増やした布を持ってくることがある。


この天海街は田舎で、自分でできることは自分でやるとか、地産地消みたいな考え方の人が多く、服くらいなら足踏みミシンで作れる、なんて人が多い。


温泉旅館のしろがね屋も、近くの漁村と農地から取れた野菜や穀物、街の畜産業者の家畜の肉、更にこの街で作った炭、湧き水や井戸の新鮮な水を使って美味い料理を出し、手作りの浴衣を着て寛いでもらい、源泉掛け流しの温泉に入ってもらう、と言うのが魅力らしい。


つまり、この街の地産地消の考え方が、世界崩壊という場面になって活きたという話だ。


住むところについても、もともとあった民家や商店をそのまま使うだけだ。


避難して人がいなくなった家をそのまま使っている。


そんなこんなで現在、天海街には、約四千人の人々が住んでいるそうだ。


男女比は女性の方が少し多めだ。


何故なら、世界崩壊時に、男性の多くは、ここから電車で数本先の、都会の方に仕事に行っていたから、家族と合流できなかったケースが多いかららしい。


つまり、仕事に行っていたパパは戻ってこれなかった訳だ。まあ、日本は真面目に働く奴が損をする国だからな。さもありなん。いや嘘ごめん、真面目に働いて得をする国の方がまずこの世に存在しねえわ。




しかし、だ。


天海街の広さは百平方キロメートル近くのそれなりに広い街だが、農地自体はそれほど広くない。


地産地消とはいえ、街の人全員分の穀物や野菜を生産するのは少し難しいみたいだ。


つまり、食料に不安があるらしい。


ふむ……。


俺はパン派なので米がなくても困らないが。


麦は尚更ないらしい。


となると、喫茶店ディメンション名物、やたら美味いサンドイッチが作れないじゃないか。


俺が一から焼いたパンに、天海街産の肉や魚、野菜を挟んだサンドイッチは、喫茶店ディメンションを隠れた名店にした要因の一つだぞ。


これは良くない。


俺は、街の外れにダンジョンを作る。


極力広めにだ。


小川が流れる、肥沃な土地のダンジョン。


ここを、さも最近発見しました、かのようなノリで街人に提供する。


ダンジョンは、ダンジョンの外で生まれた生き物が中にいる限り消滅しないんだよなー、ダンジョンコアがなければモンスターも出ないしなー、安全な土地が余ってるなー、みたいなことを言うと、誰かがここを農地として使おうと提案。


皆がその意見に賛成し、農地化を決定。


よし、目論見通りだ。


中にはモンスター化させた小動物を住ませることにして、ダンジョンを維持することに。


そう、天海街でも、動物をモンスター化させる実験は行った。


街の人々が飼っていたウサギやニワトリなんかをモンスター化させたりしたな。


さて、種籾はあるので、あとは耕すだけだ。


街の人の多くがダンジョンの開墾をして、野菜や穀物の栽培を始めることにしたらしい。


しかも、ダンジョンは肥沃な土地で、肥料も殆どやらないで済むようだ。


農家のおっさんがおもむろに土を口に含むと、「こりゃあええ土じゃ!」と言っていた。


ふむ、口に土を含んで土の良し悪しが分かるものなのか、それは分からないが、このダンジョンを作るときに肥沃な土地をイメージして作ったのは確かだ。


これで食料問題も解決だろう。


俺は手伝わないのか?


なんで俺が手伝わなきゃならない?


俺は経営者だ。


言っただろ、下々の者が汗水垂らして働く中、酒やコーヒーを楽しみながら女学生を眺めるのが俺の楽しみだと。


何故俺が汗水流して土弄りなんてしなきゃならない。


別に職業差別がどうこうみたいな議論をする気はないが、泥に塗れて鍬を振るなんて、俺はゴメンだね。




そんな俺の仕事は喫茶店と、たまに狩りだ。


普段はゆったりと喫茶店のマスターをする。


因みに、喫茶店で出してるお菓子やコーヒーはどうしてるんだと突っ込まれたが、スキルで作ったと言ってある。


実際に作れるんだな、これが。


錬金術スキルは、ポーションや一部の道具を作ることの他に、スパイスやハーブ、カカオやコーヒーなんかも作れることが判明している。


金や銀が何故か食用可能なものに変化するのは見ものだぞ。


等価交換なのだろうか、そういうことができるのだと人々には説明してある。


だが、作り出すには金や銀などの貴重な材料とそれなりの時間、店で出す分量くらいしか作れないと偽ってある。


因みにコーヒーやカカオもポーションの材料として使える。


コーヒーは気つけ薬、カカオは強壮剤に使えるみたいだ。


そういえば確かに、元々はそういう用途で飲まれていたものだしな。


錬金術のレシピ一覧にあってもおかしくはない、のか?


それとたまに狩りをやる。


月一くらいのペースで。


ふらりと街を出て、2日くらいかけて数十キロ先の牛型モンスターを仕留めてくる。


一体数トンの、普通の牛の二倍ほどの体格の牛は、味も大変良く、街の人々は狩ってくる度に大喜びする。


大掛かりな狩りで危険だから、俺とシーマの二人で行く。


……と言うことになっているが、真実は、俺がアメリカとドイツに親友に会いに行っているだけだ。


あいつらに会って、一緒に酒を飲んで、近況報告をする定例会をやっている。


定例会の場所はランダムだ。


この前は、南の島でみんなで釣りをして、浜辺でバーベキューをした。


夏頃にはヴォルフの街でビールを作る予定らしく、みんなで酒を飲む約束をしてある。


天海街でも地酒の生産を再開させてみるかなー、なんて考えてもいる。


シーマもウォッカがないと生きていけないステレオタイプのロシア人だから、ウォッカの生産もやらせようかね。


まあ、俺に決定権はないが。


今は俺があらかじめ複製しておいた酒や食い物を楽しんでいるが……、ブランド品を天海街で生産していくのも面白いかもしれない。

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